経済先読み
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経済先読み


外国人労働者の全面開放への現実的提言

グローバル総研所長  小林良暢

安倍首相は、経済財政諮問会議と産業競争力会議の合同会議で「外国人材の活用の仕組みを検討していただきたい」と指示した。人手不足を解消し、経済を活性化する狙いで、6月の成長戦略に盛り込むことで、いよいよ外国人労働者の積極的開放が具体的な政治日程にあがってきた。

開放策の検討状況

この合同会議で民間議員によって検討されてきた外国人材の活用に関する提言内容は、整理すると次の5点である。

①東京五輪にむけて建設労働者不足を確保するための技能実習制度の開放拡大

現行制度の技能実習生に「特定活動」という在留資格を与え、受け入れ期間を現行の最長3年間の実習を終えた後に2年間の追加実習を認める仕組みを設ける。また、過去に実習を終って帰国した者にも再入国を認め、実習生として就労を可能にする。これらを通じて、企業1社あたりの受け入れ人数枠についても、現行の従業員の5%から10%に増やすことを可能にするという。

②育児・子育てなどに「国家戦略特区」で外国人の家事支援人材を導入

育児・子育てなどの家事支援サービス分野における構造的な不足を補うために、「国家戦略特区」に指定した東京圏や関西圏などで、外国人の家事支援人材の導入を先行的に実施する。

③介護分野での外国人技能実習の受け入れ拡大

介護人材の不足を補う外国人技能実習で人材を受け入れ拡大をはかり、経済連携協定(EPA)における介護分野では介護福祉士候補生の受け入れに加え、技能実習制度の対象職種に加えるよう制度の拡充を促すことにする。

これら育児や介護を理由に仕事に就けない女性は、総務省調査によれば約220万人はいるとされ 、これをサポートする体制に外国人労働力の積極活用を通じて、安倍政権が成長戦略の柱に据える女性の活躍推進につなげる意図がある。

④製造業・農業に外国人の短期就労制度を新設

製造業・農業の分野における労働力不足への対応として、現在は技能実習でのみ受け入れを認めているものを、外国人の短期就労制度を新設する。

進む人手不足、二分法を超えられるか

以上のように、政府が、外国人労働力の開放拡充に急ぎ取り組む背景には、昨年夏以降顕著になった労働力不足がある。アベノミックスの効果は株や不動産など一部の資産ミニバブルで潤う分野にでているだけで、生活の場では実感がないとの見方が根強くある。だが、産業の実態を冷静に観察すると、日本経済が民主党政権時代あるいはその前の自公政権の時に比べて活溌化しているのは事実である。労働市場に於いても、完全失業率は男性が3.9%、女性は3.5%と、もう完全雇用状態である。完全雇用とは、仕事を選り好みしなければ、就業出来る状態である。

国内で5万店を擁するコンビニ業界では約100万人のパートやバイトが働くが、2014年度は大手5社で約3200店増える見通しで、6万4千人の人手が新たに必要になる。首都圏では幕張イオンモールで5000人が新規に雇用、大阪のあべのハルカスでは2000人の人材募集で人手不足に拍車をかけた。だが、いくら求人を出しても応募者がこない。求人倍率が1.0倍を上回るのは、全59職種のうち30職種と半分を超えた。もちろん、なかには不本意就労者やブラック企業などが多いので注意してみる必要がある。

このままの状態を放置しておけば、人手不足で事業の維持拡大に支障をきたしかねず、アベノミクスの成長戦略のネックになりかねないと、政府としても半ば見切り発車で外国人開放拡大策が浮上しているのである。

これに対して朝日新聞は社説(2014.4.6)で、政府の外国人開放策について、途上国からの「出稼ぎ労働が拡大」するだけで、「移民問題に及び腰」なうえ、「場当たり的な対応」だと批判している。だとすると、外国人労働者の受け入れを全面的に開放せよと言うのかというと、そうでもなく、当面する労働力不足をどうするのかについては一言の提言もない。だか、今、政府が検討していることはいかにも「場当たり的」で、且つ姑息である。

これまでの日本政府の外国人労働者政策の根幹は、高度専門職を受入れ、単純労働職は強く規制するというものであった。

これは、労働組合も同じである。連合は、「国内人材の不足を理由に、安易に外国人の受入れを検討することは認められない」、「外国人の単純労働を可能とする在留資格、就労資格の緩和はおこなわない」との立場をとっている。また、日本弁護士連合会は今度の政府の外国人労働者の開放拡大に対し、「人権侵害の温床を拡大する」とした反対声明を発表している。さらに、政府・自民党内にも「治安が悪くなる」、「賃金水準が下がる」と慎重な意見もあり、とりわけ安倍首相に考え方が近い議員に多い。

これらの主張は、それぞれ立場が違う同床異夢ではあるが、「高度専門職OK・単純労働NO」という二分法をとる点で一致している。だから、安倍晋三首相は「移民政策と誤解されないよう配慮しつつ、(受け入れの)検討を進めてほしい」と指示している。これは、これまでの外国人労働者政策の根幹を変えるつもりがないことを各方面にむけて表明したもので、その結果現行制度の手直しにとどまるものになっている。

しかし、現在の労働力不足は自動車・電機の製造現場や建設現場、看護・介護や物流・飲食サービス等の広範な分野に及び、専門職不足の一方で単純労働や3K職種には行きたがらない絶対的不足という構造問題を抱えている。こうなると、二分法が通用しない切羽詰った事態になっている。

働きやすいトップレベルの環境とは

だからといって、今直ぐに外国人労働者を全面開放するというのは、難しいのが現実である。だとすると、当面できることとして、現実的な3つの提案をしたい。

第一に、外国人労働者を受け入れる制度として、国内で確保できない職種について外国人労働者を受け入れる制度を早急に検討する必要がある。例えば、ドイツでは東欧諸国からの3年を限度とした建設プロジェクトの請負契約労働者のほか、若年労働者の就労を目的としたゲスト労働者、農林業・ホテル・飲食店等における季節労働者など、産業と職種の分野を限定して二国間協定により外国人の「労働者」として受け入れていることが参考になる。

第二に、現行の外国人研修と技能実習は、国際貢献という美名に隠れた、まやかしの制度である。その実態は非熟練労働者受け入れのための制度になっており、労働者性に欠けているために労働者保護の枠外におかれ最低賃金すれすれないしは実質それ以下の低賃金と労基法の最低水準すら守られない長時間労働を強いられる非人間的処遇が多くみられる。むしろ、偽善的な外国人研修生や実習生ではなく「労働者」として法の保護のもとにおくことが不可避で処遇の改善につながることになる。

第三に、外国人労働者に仕事の転換や転職の機会を保障することである。群馬県の太田市は、市内の中小企業で日系ブラジル人などの外国人労働者があらかじめ決められた職種以外でも働けるよう規制を緩和する特区の申請をした。たとえば、機械操作などの技能者として入国した外国人は通訳や開発職などとして働くことができない。人手不足の中小企業から「能力の高い外国人についてはさまざまな分野で活用したい」という声が出ており、このため、太田市は外国人労働者が別の職種でも働けるよう規制を緩和する特区への指定を国に求めたが、国から認められず、太田市は当面は申請を断念することになった。

安倍内閣が6月に確定する成長戦略は、「働く人にとって世界でトップレベルの活動しやすい環境づくり」をメインで打ち出そうとしている。働く人にとってトップレベルの環境とはなにか。若者もシニアも、男性も女性も、正規も非正規も、そして日本人も外国人も働きやすく安心して迎え入れる真の国際化を図る必要がある。政労使や国会での真剣な論議を望みたい。

こばやし・よしのぶ

連合総研、電機総研を経て、現在グローバル産業雇用総合研究所長。著書に『なぜ雇用格差はなくならないか』(日本経済新聞社)など