特集●コロナに暴かれる人間の愚かさ

トランプ、苦し紛れの強硬策

バイデン政権誕生なら、南北戦争「総決算」へ道開くか

国際問題ジャーナリスト 金子 敦郎

黒人差別は世界のリーダーを自他ともに認める米国にとっては恥部だ。南北戦争(1861-65年)で奴隷制度は廃止したが、白人至上主義の執拗な抵抗で「隔離」という別の差別制度に移行する結果となった。1世紀後の公民権運動では差別解消のための法的枠組みを整えたものの、彼らの抵抗で十分な効果は挙げられていない。それからまた半世紀余りの今、「黒人の命は大切」を掲げる運動が米国を揺るがしている。黒人差別をなくするための3回目のチャンス到来である。

大統領選挙および議会・知事選挙を争う11月選挙で、民主党がトランプ再選を阻み、さらに上院を制して下院の多数と合わせ両院支配を手にすれば米国は黒人差別の解消へ大きく進むことになる。それは南北戦争の総決算になるだろう。

主要な世論調査はそろって、トランプ再選に黄信号を出している。しかし、民主党首脳部は選挙までまだ100日あるし、トランプの岩盤支持層は揺らいでいないと、引き締めに懸命だ。

南部連合の英雄たち

南北戦争から1世紀半を経た今も米国が黒人差別から抜け出せないでいるのは、南北戦争は奴隷制度を廃止して終わったはずなのに、本当には終わっていないからだ。それを象徴的に示しているのが、南部諸州に広く展開されている南部連合の政治、軍事のリーダーたちを称賛し顕彰する彫像や記念碑、あるいは彼らの名前を付した軍事基地、図書館・博物館、大学・研究機関、公園、道路などの存在である。その数は約1,000カ所にものぼる(一部は南部以外の州にも)。

スポーツの応援や大きな集会で南軍旗がはためくのも南部の風景である。南部のほとんどの州ではごく最近まで、政府庁舎や主要な施設に南軍旗が掲げられていた(6月に最後となったミズーリ州が掲揚をやめた)。

奴隷制度をあくまで維持しようと合衆国から脱退し、戦争に敗れた南部諸州は「反逆者」だった。その指導者を称えるためのこうした顕彰行為が長年許されてきたところに、米国の黒人差別の特異な歴史がある。

「白人警官に気をつけなさい」

南北戦争が終わっていないことを象徴するもうひとつが、白人警官の暴力的な「職務執行」によって黒人が殺される事件が後を絶たないことだ。警官は権力乱用に問われることはまずない。起訴されても白人多数の陪審が起訴を却下すれば済む。泣き寝入りするしかない。こうした事件を起こすのは警官個人の強い黒人差別意識というわけではない。警官は訓練通りに行動しているのだ。米メディアによると、黒人の母親は子どもに「白人警官に気をつけなさい、何があっても逆らわないこと」と教育するという。

報道や映画で見る限り、米国の警察は容疑者が白人であれ、黒人であれ、あるいはヒスパニックであれ、「逮捕して裁判」より抵抗を許さないことが先行するようで、その中でも黒人に対しては特に強圧的に見える。これも南北戦争とその後も続く黒人差別の中で生まれたものに間違いはない。

「黒人の命は大切」

5月下旬、ミネソタ州ミネアポリスで起きた事件は新しい状況を生み出した。G・ロイドさんが町の商店で偽造20ドル札を使った疑いで白人警官に後ろ手に手錠をかけられ、首筋を膝で地面に押し付けられて(訓練を積んだ逮捕術)「息ができない」と8分46秒も喘ぎ喘ぎ訴えた末、死亡した。ロイドさんの容疑は、こんな目に遭わなければならない重罪だろうか。

この凄惨な一部始終がネットに流されると、抗議デモがたちまち全米に広がった。若者を中心に黒人、ヒスパニック、アジア系、白人と多彩な市民が参加、一部の暴徒や極右・極左の挑発行動にも冷静に平和的デモを守り、様々な形態の抗議行動が息長く続いている。この抗議行動をリードしているのが2012年に起きた同様事件を機に、若い3人の黒人女性の呼びかけで生れた「#黒人の命は大切」(BlackLivesMatter)運動だ。黒人差別反対運動といえば、有名な指導者の下に全国組織がつくられるものだったが「黒人の命」はどこにでもいて、それぞれが地道な草の根運動を続けていた。

事件直後の世論調査によると、2014年にミズーリ州で同じような事件が起きた時、個別の事件に過ぎないとみた人が51%と多数、事件の背後に黒人差別という大きな問題があると見た人は43%だったのに、今回の同じ調査で黒人差別という大きな背景を見た人が67%、個別事件とする人が29%。世論は大きく動いていたのだ。

リベラルな若者たち

この6年で何が変わったのか。グローバリズムの下で貧富格差が極端に拡大、誰にでも成功のチャンスがあるという「アメリカン・ドリーム」がまさに夢になった。リベラル民主主義を嘲笑し、人種差別意識を隠さないトランプ大統領の登場、そしてコロナ禍という時代の変化がある。トランプ支持層を見ると高齢に多く、若い世代ほど批判あるいは反対が増える傾向がはっきりしている。

PEWリサーチセンターがZ世代と呼ぶ1997年以降生まれ、スマフォ育ちの世代は民主党寄りで、トランプ支持は30 %しかいない。Z世代の前の1981-96年生まれの新世紀世代も、その前のX世代(1965-80年生)と比べてはっきりしたリベラル寄りだ。ベビーブーマー世代(1946-64年生)、沈黙の世代(1928-45年生)と年齢が高まるにつれてトランプ・共和党支持が多くなる。「黒人の命」の抗議デモを引っ張っているのがこのZ世代と新世紀世代である。

ワシントン・ポスト紙(7月14日電子版)がPEWリサーチセンターの調査として伝えたところでは、事件が起きてからの50日で、コロナ感染が広がり外出がままならない中を少なくとも1,300~2,600万人が「黒人に対する正義」を求める抗議行動に参加したという。これは人口の4~8%に当たる。ニューヨーク・タイムズ紙の分析では、この間の抗議行動の数は少なくとも4,700に上っている。

動き出した「警察改革」

抗議デモが続く間にも白人警官によって黒人が殺される事件が何件も起こっている。「黒人の命」はこうした警察の改革を要求している。警察は州の組織である。知事や警察部長を民主党が握っている州では既に具体的に取り掛かっている。警察改革が進むか否かは、大統領選挙と同時に行われる州知事や州議会の選挙で民主党がどこまで勢力を伸ばせるかにかかってくる(4年ごとの大統領選挙の中間の年にも連邦議会と州レベルの選挙が行われる)。

トランプは、警官は立派な仕事をしている、黒人の2倍の白人も警官の犠牲になっているとして「警察改革」の必要を認めていない。しかし、この数字はトランプ得意のフェイクだ。ワシントン・ポスト紙によると、ロイドさんと同じように黒人が無抵抗あるいは非武装なのに白人警官に身柄を拘束されたうえ死亡するケースについて統計的数字は明らかにされていない。しかし2015年以降、警官の銃撃で5,000人が死亡していて(この数字にも驚く)、概数でそのうち白人が約半分、黒人はトランプが言うように白人の半分に過ぎない。だが、人口比で見れば白人は黒人の5倍だから、黒人は白人の2.5倍の比率で銃撃死している。

報道や映画で見る限り、米国の警察では容疑者が白人であれ、黒人であれ、あるいはヒスパニックであれ、「逮捕して裁判」より抵抗を許さないことが優先するようで、その中でも黒人に対しては特に強圧的に見える。そのルーツは南北戦争とその後も続く黒人差別の中にあると思われる。

奴隷制廃止―「隔離」へ移行

南北戦争で南軍を降伏させた合衆国政府(北部)は南部連合諸州を軍事占領下に置き、奴隷制度の上に築かれた南部の「北部化」に取り掛かった(再建時代と呼ぶ)。奴隷の身から解放された100万人とされる解放奴隷は、合衆国憲法によって白人と同じ市民権を与えられることになり、選挙にも参加した。黒人の数は白人より多かったので、州議会に進出して多数を占め、州政府の要職に就く者も出たし、州兵に当たる民兵にも黒人が多数加わった。

南部諸州の白人は必死に抵抗した。支配者としての人種的優位を手放したくないという思いと、黒人の支配下に置かれることへの恐怖が混じり合っていた。民兵に対抗する武装組織ライフル部隊を編成、解放黒人や「北部化」を支持する白人に対してテロ攻撃を加えたり、誘拐してリンチにかけたりする白人至上主義の秘密組織も結成された。代表的なのがキュー・クラクッス・クラン(KKK)だ(今も存続しているものもあり、トランプ政権のもとで表に出て活動している)。

ワシントンの共和党政権は議会との対立や党内の権力闘争もあって南部の執拗な抵抗に手を焼き、次第に疲れ果てていく(1874年グラント大統領)。1876年大統領選挙は共和党ヘイズ候補と党勢を伸ばした(北部)民主党ティルデン候補の接戦となり、4州(3州が南部)の開票結果に疑いが出た。両党の秘密交渉の結果、有利とみられた民主党が譲歩してヘイズ当選を受け入れ、代わりに南部の軍政を取りやめ撤収した。せっかく解放した黒人を置き去りにして逃げ出したのだ。

「隔離しても平等」

これで南部諸州は黒人が獲得した基本的自由をはく奪する州法を次々に制定していく。黒人隔離法(Jim Crow laws、Jim Crowは黒人を差別する白人)と呼ばれる。憲法修正14条で黒人もすべての市民と同じ市民権を得たが、州法優先とされ、ワシントンは黙認した。まず狙いをつけたのが投票権。読み書きのできない多くの黒人がテストを科せられて選挙人登録を拒否された。白人は議会を支配して「合法的」に権力を奪還した。

1896年にルイジアナ州ニューオールリンズの鉄道会社が州法「鉄道隔離法」に基づき車両を白人用と黒人用に分けたのは憲法違反の差別、と黒人(白人との混血)が訴えた裁判で、連邦最高裁は同法を合憲と認めて訴えを却下した。判決理由は(黒人を)「隔離しているが平等」という無理やりの論理を立てた。この判決は白人社会から黒人を締め出す「ホワイト・オンリー」を正当化した。

「合法的差別」

米国では開拓の初期から奴隷制度があった。徐々に同制度を廃止する州が出て、自由黒人の数も増えていった。独立戦争(1775-1781年)には約5,000人の奴隷が参戦して、戦後は約束通りに自由を得ている。南北戦争のころ奴隷制度を続けていたのは15州で、南部連合11州と加わらなかった4州。もちろん南北戦争で奴隷制度はすべて廃止された。

南部連合の諸州は19世紀終りには合衆国に復帰する。これとともに南部連合リーダーたちの巨大な顕彰像や記念碑が20世紀初めにかけて次々に建立されていった。南部は奴隷制度はなくなっても白人が支配する世界であることを誇示し、黒人を威圧するためである。南北戦争は、奴隷制度は廃止したものの「隔離」という新たな差別体制へ移行して終わったといえる。警察はこの「隔離」体制を2級市民の黒人から守ることが第一の任務だった。

米国は南北戦争後、北部の産業が発展、第1次世界大戦にも参戦して世界の大国にのし上がった。共和党は約70年にわたり多数党として政治権力をほぼ独占するが、奴隷制度を終わらせたリンカーンの党であるのに「隔離」という黒人差別の解消に取り掛かることはなかった。北部や中西部の大都市や工業地帯へ職を求めて多くの黒人が移住し、黒人人口は全米に拡散していった。「隔離」という合法的黒人差別もまた、全米に拡散することになった。

公民権運動で「隔離法」無効に

「黒人隔離法」の外に黒人を連れ出したのは1929年大恐慌のさなかに、共和党に代わって登場した民主党ルーズベルト政権だった。ルーズベルトは北部のリベラルなインテリ層や労働組合に加えて少数派を取り込んだ「ルーズベルト連合」を政治基盤にして、1970年代へと続く「民主党時代」をスタートさせた。黒人は政治勢力としてこの連合の一角に場所を得た。

第2次世界大戦で黒人部隊が編成され、日系人の2世部隊とともに欧州戦線に派遣され、両部隊は戦争勝利に貢献した。だが、彼らが帰った先は隔離されたスラムだった。白人の暴力的な弾圧に耐えて差別反対の運動が起こり、非暴力運動を唱えるM.L.キング牧師という指導者を得て、白人も加わる公民権運動となって全米へと広がった。  

ケネディからジョンソンへと、両政権の下で1964年公民権法、翌65年投票権法が成立、「ホワイト・オンリー」の「隔離法」は効力を失った。1960年代に入ると公民権運動とベトナム反戦運動が一体化して、米国は大混乱に陥った。

1968年、72年と大統領選挙で共和党保守派のニクソンが制し、公民権運動に反発した民主党保守派の多数が支持に回った。1980年は民主党現職カーターが共和党レーガンに大敗、「ルーズベルト連合」は崩壊した。保守の時代到来といわれ、公民権二法はできたものの黒人差別解消は進まなかった。

共和、民主両党の対立が続き、2008年に黒人初のオバマ大統領が生まれたものの、両党の対立をさらに先鋭化させることになった。そしてトランプ大統領が登場する。

白人至上主義

南部連合リーダーの記念像・碑を撤去し、あるいは名前を外し、南軍旗の掲揚禁止を求めることに対して、共和党や軍部も含めて世論の大勢は支持しているが、トランプは強硬な反対に出た。建国の父であるワシントンやジェファーソンが奴隷を所有する農園主だったことを批判して標的に加える声が上がり、さらにさかのぼってコロンブス批判も出る。トランプはこれをとらえて、民主党も「黒人の命」運動もひっくるめて過激な左翼アナーキスト、ファシスト、暴徒などと呼び、建国の英雄に矛先を向けて米国の歴史すべてを書き替える「文化革命」と決めつけて、対決姿勢を打ち出した(7月3日ラッシュモア演説)。大統領選の争点を人種差別から愛国心へとすり替えて保守派の支持を固め直し、中間層にアピールして大統領選挙戦の敗勢を挽回する-この狙いは明らかだ。

敵をつくってその脅威を膨らませて危機感を高め、支持を固めて強行突破を図り、「強い大統領」を演出するのがトランプの手法。追い込まれてその賭けに出たのだ。だが、それだけとは思えない背景がある。トランプの言動をたどるとはっきり見えてくるのが、その抜きがたい白人至上主義だ。

6月末にコロナ感染の中で延び延びになっていた支持者を集める選挙運動の集会を開く場所に、1921年黒人住民の大虐殺が起こったオクラホマ州タルサの町を選んだ。独立記念日の前日、先住民族アメリカ・インディアンの聖地だった南ダコタ州ラッシュモア山の岩肌に巨大な4人の歴代大統領胸像が彫り込まれている観光地を選んで、選挙戦向けの集会を開いた(前出)。

トランプ大統領は最初の政権で白人至上主義者S・バノンを首席戦略官という要職に据えた。バージニア州のシャ-ロッツビルでKKKやネオナチなど白人至上主義団体の集会があり、これに抗議する地元民との衝突が起こって1人が死亡する事件が起きた。トランプは「責任は双方にある」「どちらにもいい人がいる」とコメント、批判を受けた。

初の黒人大統領オバマに対して、当時ホストを務めていたTVリアリティ番組を使ってオバマは米国生まれではないとのフェイク情報を執拗に広めた。大統領になってからは医療保険や環境保護などオバマ政権の残した政策をすべてひっくり返すことに執念を燃やしてきた。そして今、「南部連合礼賛」の象徴を取り除くことに強硬に反対している。

トランプの新南北戦争

共和党と民主党の勢力地図を見ると、トランプ・共和党を支持するのは南部と中西部、バイデン・民主党支持は北部と西海岸にはっきりと分かれ、接点となる中西部が競合地帯となっている。南北戦争のそれとほとんど重なっているが、黒人差別問題で両党の立場が入れ替わって、共和党が南部、民主党が北部側になっている。トランプがあえて仕掛けた新しい南北戦争の構図だ。

トランプ再選は難しくなったと世論調査が一斉に伝えた後も、トランプはさらに孤立を深めている。共和党の強固な支持基盤である軍部との間に深い亀裂が進行しているのだ。6月に「黒人の命」の抗議デモがホワイトハウスを囲んだとき、米軍現役部隊を使って排除しようとして、エスパー国防長官、ミレイ統合参謀本部議長に歴代首脳部も加わって「軍を政治目的に使うことはできない」と拒絶された。ミレイ議長は最近、国会に呼ばれて南軍を反逆者と呼び、20%を占める黒人将兵の中に祖父・曾祖父が奴隷だったものがいるのだと証言した。エスパー長官も軍施設で掲揚する旗はすべての人を尊厳と敬意をもって扱い、分断の象徴を拒否するという軍の責務に沿うものでなければならないと全軍に指示して、事実上、南軍旗掲揚を禁止した(7月17日)。

トランプはFOXニュース・サンデー(7月20日)のインタビューで「南軍の旗を誇らしげに振ったといって人種差別ではない」「南軍の旗を振るのは『黒人の命は大切』の旗を振るのと同じ言論の自由だ」と答えた。常識で理解される理屈とは思えない。人種差別についての考えでトランプと軍首脳部との間に大きな隔たりがあることが浮き彫りにされた。ワシントン・ポスト紙/ABC放送の最新の世論調査(7月19日公表)によると、有権者の支持率はトランプ40%、民主党バイデン候補55%で、これまで最大の15ポイント差に開いた。

トランプ支持率の急落は、新型コロナウイルスの蔓延を「民主党の陰謀」「春とともにウイルスは消える」などと、その重大さを理解できなかったことに始まる。米国にも感染が広がるとやむなく非常事態宣言・都市封鎖を受け入れたものの、今度は経済活動再開を急いで各州知事に圧力をかけた。これに応じた共和党知事の大都市を抱える州のほとんどが今、新たな感染拡大で深刻な事態に陥り、米国は世界最悪の感染国となっている。トランプはマスク着用を拒否し、感染防止のためにマスク着用を義務づけることに反対して、「コロナはいずれ消える」と責任放棄を続けていた。

ところが突然「マスク着用は愛国的」とマスクをつけた自分の写真付きでツイートした(7月20日)。4日後にはフロリダ州ジャクソンビルで8月下旬開催予定の共和党大会を中止した。当初予定の北カロライナ州シャーロット大会に次いで、またも中止に追い込まれた。フロリダはコロナ感染が急増する州のひとつ。コロナ感染拡大にもかかわらず、大規模な大会で選挙戦に勢いをつけようとしていたので、トランプには痛手だ。数千人もの参加者を危険にさらすわけにはいかないと理由を明らかにしたが、これが「コロナ」での失点を取り戻し、支持率回復に役立つとは考え難い。

トランプが再選される可能性は日々薄らいでおり、バイデン勝利となれば、南北戦争の総決算という歴史的チャンスが生まれると思われる。

オクトーバー・サプライズ?

トランプ勝利も零ではない。デモの一部が暴走して全米各地でワシントンら建国の父の記念像などの破壊に乗り出す、あるいは失言壁のあるバイデンの大失言という民主党の自滅。トランプの「オクトーバー・サプライズ」が成功するケースもある。舞台は朝鮮半島、南シナ海、台湾、香港、中東などだろうが、可能性の最も高いのは、トランプと同様に窮地に追い込まれているネタニヤフ・イスラエル首相と組んだイラン核・ミサイル関連施設に対する軍事攻撃である。しかし、「大義なき軍事介入」で戦争疲れしている米有権者が惑わされる可能性は低いとみられる。むしろ自滅に近い結果を招くのではないだろうか。

(敬称略)

 

かねこ・あつお

東京大学文学部卒。共同通信サイゴン支局長、ワシントン支局長、国際局長、常務理事歴任。大阪国際大学教授・学長を務める。専攻は米国外交、国際関係論、メディア論。著書に『国際報道最前線』(リベルタ出版)、『世界を不幸にする原爆カード』(明石書店)、『核と反核の70年―恐怖と幻影のゲームの終焉』(リベルタ出版、2015.8)など。現在、カンボジア教育支援基金会長。

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