論壇

『非正規公務員のリアル~欺瞞の会計年度任用職員制度』が刊行される

著者に聞く――上林陽治さん(地方自治総合研究所研究員)

「非正規公務員」問題をライフワークにする地方自治総合研究所(東京)の上林陽治研究員(60)が、新著「非正規公務員のリアル-欺瞞(ぎまん)の会計年度任用職員制度」を刊行した。「非正規公務員」(日本評論社、2012年)、「非正規公務員の現在-深化する格差」(同、15年)に続くシリーズ第3弾注1である。非正規公務員問題の現状や本書のポイントについて聞いてみた。

公共サービスは非正規でできている

――上林さん、こんにちは。本誌登場は3回目注2ですね。今回は「著者に聞く」のインタビューです。

上林 よろしくお願いします。

――「非正規公務員のリアル」発刊おめでとうございます。本書で何をうったえかけたかったのでしょうか。

上林 1冊目の「非正規公務員」では、公務員の世界に非正規という問題があるということ、非正規公務員問題は4つの偽装-偽装非常勤、偽装非正規、偽装有期、偽装雇い止めーによって覆い隠されていることを告発しました。

2冊目の「非正規公務員の現在」では、私たちが公務員に抱いている数々の「神話」を暴き出すことに傾注しました。非正規公務員には労働契約法やパート有期雇用労働法が非適用です。その理由として挙げられているのが任用行為論というものです。公務員採用の法的性質は雇用契約ではない、労使双方の合意によって成立するのでもない、使用者側の「お前を公務員にする」という意思、いわば「お上の意思」が優先するという法解釈です。

だけど公務員法制定当時は、公務員の任用とは、「私法上の雇用関係に準ずる公法上の契約」という理解が一般的だったんです注3。だから労働契約法やパート・有期雇用労働法を非適用とするいわれはないんです。

――なるほど。それはともかく、本書の狙いについてお聞かせいただけますか。

上林 すみません。そうでした。「非正規公務員のリアル」の著者に聞くでしたね。

端的に表現すれば、私たちの暮らしは、エッセンシャルワーカーの非正規公務員によって支えられているということ、そしてコロナ禍のなか感染リスクに晒されながら人を支える非正規公務員の皆さんは、限界点に差し掛かっているということです。

――どういうことですか。

上林 非正規化が進展している相談支援業務に携わる非正規公務員を例に説明しますね。コロナ禍の影響で、失職したり収入を絶たれたりした人たちは生活保護の申請に訪れます。訪れた先の生活保護申請窓口で対応する専任の生活保護面接相談員の約6割は非正規公務員なんです。年収は生活保護の支給水準よりも低い。

またステイホームが奨励されるなかで、ドメスティックバイオレンス(DV)や児童虐待が深刻化しています。DV被害者が相談に向かう先の婦人相談員の8割以上が非正規公務員なんです。さらに児童虐待への対応は、一義的には市町村自治体なんですが、ベテラン職員になるほど1年任期を繰り返す非正規の家庭児童相談員が対処しているんです。人口30万人未満の市で業務経験3年以上の職員は、非正規相談員が過半数を占めているんです。

これら相談支援員のほとんどが女性であり、感染リスクへの恐怖を押し込め、対面で、相談支援業務を行っています。

――相談支援は非正規公務員で成り立っているんですね。

上林 そうなんです。繰り返しになりますが、もう限界点に達しつつある。私のところに寄せられた以下のメッセージは、非正規相談員が置かれている惨状をよく表しています。

「DV被害支援等の女性相談の支援をほぼ一人で行っている。同じ課内には生活保護受給を行うケースワーカー、児童相談員もいるが、コロナ対策はまったく取られていない。同じ課内の職員の出勤率は連日100%。感染者が出たら事務所閉鎖にならざるを得ない。支援が行われなければ生活困窮が深まり、暴力による身の危険に陥る可能性が高い、そういう窮地に追い込まれることになる弱者を支援している事を上司は理解できていない。」

――低処遇と高リスクのアンバランスはいただけませんね。

上林 コロナは正規・非正規を選びません。その点は公平です。ところが感染リスクの高い現場に非正規を選んで配置しているのは人なのです。ここに正規・非正規間の処遇格差が加わると、非正規のモチベーションは下がり、離職へのドライブがかかります。そうなったら、公共サービスは崩壊します。私たちは実は社会崩壊の際に立っているんです。

非正規依存強める地方行政

――地方自治体は、非正規公務員を使って、公共サービスを提供しているということですか。

上林 数字を持ち出して説明した方がいいかもしれませんね。

2020年4月1日に新たな非正規公務員の制度である会計年度任用職員制度がスタートし、総務省はその実施状況を調査しました。この調査では、非正規公務員の実数が調べられ、その数は1,125,746人であることが明らかになりました。これに基づき非正規割合を計算すると、地方自治体全体で全職員の29%、政令市を含む市区町村では40%、一般市と東京23区で44%、町村47%です(表1)。

だから地方公務員の3人に1人は非正規で、住民に最も身近な基礎的自治体の市区町村の職員の半分近くは非正規公務員なんです。

――半分近くですか。

上林 この実数調査で明らかになった非正規割合の意味するところをどう見るかなんですが、日本全体の雇用労働者の非正規割合は、2020年4月分で36%です。これは総務省「労働力調査」から算出したものです。同調査が対象とする非正規の要件は「就業の時間や日数に関わりなく、勤め先で『パートタイマー』、『アルバイト』又はそれらに近い名称で呼ばれている人」としており、2020総務省調査の実数把握の対象と同じなんです。

つまり調査対象要件を揃えると、市区町村の非正規率は日本の労働者の平均非正規率をはるかに上回るんです。

――職種によっては、非正規依存がもっと高いのでは?

上林 その通りです。総務省調査から職種別非正規比率を算出してみます。学校医等が多くを占める医師を除くと、図書館職員の4人中3人、給食調理員の7割、保育士の約6割は非正規公務員なんです(表2)。

――官製ワーキングプアともいわれてますよね。

上林 非正規のなかでは賃金水準が高い部類の保育所保育士の時給平均額は1,156円。この金額で、フルタイムで月20日×12カ月働くと、期末手当(2.5カ月)を含め年収は約260万円(税込み)となります。一方、正規のなかで賃金水準が低い部類の保育士の年収水準は554万円(2019年地方公共団体給与実態調査)です。同じ職種・同じ仕事でも非正規は正規の給与の2分の1にも満たない。しかもその水準は、誰かに扶養されることを前提としています。同一労働同一賃金の原則からすると不合理な格差といえませんか。

表1 自治体階層別非正規公務員実数と非正規割合(2020.4.1現在 単位:人)

全非正規公務員実数A正規公務員数B非正規割合 A/(A+B) %
都道府県268,8551,402,74416.1
政令市119,328348,49825.5
市区594,002770,39643.5
町村122,871137,98247.1
一部事務組合等20,690102,40016.8
合計1,125,7462,762,02029.0

出典)非正規公務員の数値は、総務省「地方公務員の会計年度任用職員等の臨時・非常勤職員に関する調査結果」正規公務員の数値は総務省「定員管理調査」(2020年4月1日現在)から筆者作成

表2 職種別正規・非正規比率(2020.4.1現在 単位:人)

職種全非正規公務員実数Aうち会計年度任用正規公務員数B非正規割合 %
一般事務職員231,067225,260759,51323.3
技術職員10,3579,678220,0924.5
医師100,01613,99725,87379.4
医療技術員34,20820,87354,52738.6
看護師等40,70140,400168,69019.4
保育士等128,380127,29797,12856.9
給食調理員46,33745,97120,04769.8
技能労務職員79,46377,50979,82349.9
教員・講師155,08390,509844,31015.5
図書館職員23,98123,8018,74973.3
その他276,153226,174483,71236.3
合計1,125,746901,4692,762,46429.0

出典)非正規公務員の数値は、総務省「地方公務員の会計年度任用職員等の臨時・非常勤職員に関する調査結果」(2020年4月1日現在)の個票、正規公務員の数値は総務省「定員管理調査」(2020年4月1日現在)から筆者作成

パート化圧力 欺瞞の会計年度任用職員制度 その1

――いままでお話しいただいたような劣悪な状況を改善するために、2020年4月から会計年度任用職員制度が始まったのではないのですか。

上林 当初はそのような触れ込みでした。

会計年度任用職員制度とは、これまでバラバラに運用されてきた非正規公務員制度を、公務員法が適用となる一般職非常勤職員に統一し、あわせて、期末手当を支給できるようにするというものでした。だから非正規公務員の皆さんは、処遇が改善する、公務員法で身分が守られて雇用も安定するはずと期待したんです。

でも、フタを開けてみたら、酷いもんです。

第一に、会計年度任用職員制度への移行に際して、パート化圧力が高まりました。

移行前の2016年の総務省調査では、非正規公務員のうちフルタイムで勤務する者は20万人超でパートタイム勤務者との比率は32:68、すなわち3人に1人はフルタイムの非正規公務員、いわゆる常勤的非常勤という状況だったんです。

ところが会計年度任用職員制度へ移行すると、非正規公務員のうちフルタイム勤務者は約14万人に減る。パートタイム勤務者は約56万人に拡大する。比率はフルタイム20:パートタイム80で、5人に1人がフルタイムに減少した。さらに会計年度任用職員だけをとりだせば、この比率はフルタイム11:パートタイム89です。会計年度任用職員のフルタイムは、10人に1人まで減少した。

――なぜ、パート化圧力が高まったのですか。

上林 フルタイムで6ヶ月以上勤務すると退職手当請求権が発生するからです。新制度施行前は、雇用期間終了日と更新日の間に、数日の勤務しない期間(「空白期間」)をおいて、継続雇用でないように装ってきた。ところが「空白期間」の設定は、改正地公法で「おいてはならん」となった。そこで地方自治体が退職手当請求権が発生しないように編み出したのが、パート化だったんです。パートなら退職手当請求権はない。

でもね、勤務時間を短くしたといっても、1日15分だけという事例がわんさかある。

偽装非常勤が普遍化してしまったわけですね。

期末手当支給分の月例給引き下げ 欺瞞の会計年度任用職員制度 その2

上林 これに加えてですね、会計年度任用職員制度の導入により、非正規公務員の処遇がむしろ「悪化」する事態も生じたんです。期末手当支給相当分の月例給が減額され、年収さえも維持できないというものです。

先に紹介した総務省調査(2020年4月1日現在)に合わせて実施された施行状況調査では、「給料(報酬)水準が、制度導入前の報酬の水準に比べて減額となった職種があるか」を地方自治体に尋ねています。回答自治体数2960団体中、703自治体、23.8%で、月例給の減額措置を実施したと回答しています。4分の1の自治体で減額です。ですがこの数字は少なく見せるための印象操作です。

――印象操作?

上林 非正規公務員数が多い都道府県では、47団体中半数以上の25団体で減額措置、20政令指定都市中10団体で減額措置です。私は、減額措置の影響は、自治体数ではなく人数で計測すべきと主張していて、過半数以上の52%の非正規公務員に影響があったと推計しています。

しかもですよ・・・。

――まだあるんですか。

上林 はい。国は地方に、非正規公務員に支給すべき期末手当分の財源として1700億円超を地方交付税措置していたんです。自治体はこの財源を他に流用してしまった。これは国家的詐欺行為です。

――そりゃ、あんまりだ。

長期勤務者の雇止め 欺瞞の会計年度任用職員制度 その3

上林 まだあります。一番、非正規公務員の皆さんの怒りをかっているのが、一斉雇い止めと公募試験の導入ですね。

――なんですか、それは?

上林 会計年度任用職員には労働契約法が非適用です。ですから何十年勤めても無期転換権は発生しません。それにもかかわらず、会計年度任用職員制度の導入にあわせて、3~5年ごとに一般求職者とともに、公募試験を受けさせられ、試験に合格しないと雇用が継続できないとされたのです。

――矛盾しませんか。無期転換権が発生しないのに、なんで公募試験を強制されるのですか。いつでも任期満了で雇止めできるじゃありませんか。

上林 ごもっとも。確かに無期転換権は発生しないのですが、長く勤務してきたという事実があって、何の手続きも取らずに任期を繰り返していると、非正規公務員の側に雇用継続の期待権が生じると考えられてきたんです。期待権が認められるのに雇止めした結果、一年分の給料を支払えと命じた判決もある注4。だから公募試験を強制し、「手続き取ってるもんね」としたかったのでしょう。

だけどこれは、長く従事することで得られる専門知を蔑ろにする行為です。専門職の非正規公務員のプライドを傷つける絶対にやってはならない行為です。私は公募試験の強制を「制度化されたパワハラ」と名付けました。

――うまい、座布団一枚。

問題解決の処方箋~公共サービスを充実させるために非正規公務員を無期転換する~

――会計年度任用職員制度には、さまざまな問題があったことがわかりました。では何をどのように改革していったらよいのでしょうか。

上林 まず、一定の職種の一定要件を持つ人材を無期転換することが必要です。

一定職種とは、専門・資格職のような保育士、看護師、保健師、図書館司書のほか、長期の臨床経験を要する消費生活相談員や女性相談員、就労支援員、家庭児童相談員のような相談支援の職です。そして労働契約法の定めと同様に、1年任期を繰り返して5年を超えたら、無期転換権が発生する仕組みを導入すべきと考えます。

そのためには現行の公務員削減一辺倒の定員管理政策を止めなければなりません。そのような政策合意がなしうるのかが、重要なテーマです。

――なるほど、そうですか。本日は、お忙しいところありがとうございました。最後に本誌読者に一言ありますか。

上林 はい、今日はネタバレしすぎました。より詳しくは本書をお買い求めいただき、じっくりお読みいただければ有難いです。よろしくお願います。

(このインタビューはフィクションです。聞き手は筆者自身です)

 

【注】

(注1) 「コロナがあぶり出す労働問題「非正規公務員のリアル」第3弾」『西日本新聞』2021年3月30日朝刊記事

(注2) 「あなたの隣の非正規公務員 公共サービスの非正規化を問う」本誌8号、2016年春号、「『市民を見殺しにする国家』におけるエッセンシャルワーカーとしての非正規公務員」本誌23号、2020年夏号

(注3) 角田禮次郎『地方公務員法精義』学陽書房、1955年、10頁以下。

(注4) 中野区非常勤保育士再任拒否事件(東京高判平19・11・28)、武蔵野市レセプト点検嘱託職員再任拒否事件(東京高判平24・7・4)

 

 

『非正規公務員のリアル』
(上林陽治著/日本評論社/2021/2/24/296ページ)

目 次

第1部 非正規公務員のリアル

ハローワークで求職するハローワーク職員/基幹化する非正規図書館員/就学援助を受けて教壇に立つ臨時教員/死んでからも非正規という災害保障上の差別/エッセンシャルワーカーとしての非正規公務員

 

第2部 自治体相談支援業務と非正規公務員

自治体相談支援業務と専門職の非正規公務員/非正規化する児童虐待相談対応/生活保護行政の非正規化がもたらすリスク/相談支援業務の専門職性に関するアナザーストーリー

 

第3部 欺瞞の地公法・自治法改正、失望と落胆の会計年度任用職員制度

深化する官製ワーキングプア/隠蔽された絶望的格差/欺瞞の地方公務員法・地方自治法改正/不安定雇用者による公共サービス提供の適法化/失望と落胆の会計年度任用職員制度

 

第4部 女性非正規公務員が置かれた状況

女性活躍推進法と女性非正規公務員が置かれた状況/女性を正規公務員で雇わない国家の末路

 

かんばやし・ようじ

1960年生まれ。國學院大學経済学研究科博士課程(修士)修了(1985年)。公益財団法人地方自治総合研究所研究員(2007年~)。著書に『非正規公務員』(日本評論社 2012年)、『非正規公務員の現在―深化する格差』(日本評論社2015年)、『官製ワーキングプアの女たち』(共著、岩波ブックレット2020年)、『未完の「公共私連携」-介護保険制度20年目の課題』(編著 公人の友社2020年)

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