論壇

あなたの隣の非正規公務員

公共サービスの非正規化を問う

地方自治総合研究所研究員 上林 陽治

失業したら、まずはハローワークに行く。その時に対応した職員が、翌日、カウンターのこちら側で、求職者として、あなたの隣に座っていたら、どう思われるだろうか。

こんなことが、現実社会で、本当に起こっている。なぜならハローワークに勤務する職員の6割は有期雇用の非正規公務員で、この4年間で約6,000人も雇止めされているからだ。

調べたいことがあれば図書館が便利だ。無料で本も貸し出してくれる。カウンターに借りたい本を持っていき、帯出手続きを依頼する。対応してくれる職員は、おそらく非正規だろう。なぜなら図書館司書の7割は、期間雇用の非正規職員だからである。

お子さんを保育園に預け、職場に向かう。預け先の保育園が公営であれば、あなたのお子さんの面倒を見てくれる保育士は非正規の可能性が高い。なぜなら公営保育所の保育士の半分以上が、臨時職員とか非常勤職員と呼ばれる非正規公務員だからである。

公務員の3人に1人は非正規である。その大半は女性で、主に対人サービスの分野に配置されている。つまり私たちの暮らしを支える公共サービスは、不安定雇用で、劣悪な処遇の「非正規公務員」によって提供されている。 これがリアルなのである。

ハローワークの非正規相談員

全国の都道府県労働局および職業安定所(ハローワーク)では、リーマンショック以降の雇用対策として、非常勤相談員が2009年度に約7,600人増員、その後も、2010年度、2011年度に約1,500人ずつ増員され、2011年度には、全国のハローワーク(労働局を含む)に勤務する職員は、常勤職員11,773人に対し、非正規相談員は21,295人となり、職業紹介関係業務に従事する職員の3人に2人は非正規の相談員となった。

ところが、雇用対策関連予算が切れた2012年度から非正規相談員の大量雇止めがはじまる。2012年度に1,119人、2013年度2,235人、2014年度1,204人、2015年度1,174人、つまり、この4年間だけで5,732人、2011年比でみると、非正規相談員の4人に1人が雇止めされたのである。

ハローワークに勤務する非正規の相談員は、制度上、期間業務職員という非常勤職員に位置づけられている。

国の非常勤職員制度の一つである期間業務職員とは、2010年10月からはじまったもので、それまでは日々雇用職員と呼ばれていた。1日の勤務時間は7時間45分を超えず、かつ、常勤職員の1週間当たりの勤務時間(38時間45分)を超えない範囲内において、正規職員が就いていない職に勤務する職員をいう。つまり期間業務職員とはフルタイムの非常勤職員なのである。ただし、ハローワークの非正規の相談員の場合は、常勤職員より15分だけ短い1日7時間30分の5日勤務で設定されているようだ。

1回の任期は1年以内、連続2回までは勤務実績に基づき継続雇用されるものの、3回目には一般求職者と一緒に公募試験を受けなければならない。採用数は厚生労働者の年度予算に左右されているので、3年経過した時点で、誰もが雇止めの危機にさらされる。そして先のハローワークの非正規相談員の例にみたように、2009年に大量採用し、その3年後の2012年から、「公募」を口実にした雇止めがはじまったのである。

九州各県のハローワークの非正規相談員の状況を取材した西日本新聞は、「任期が更新される毎年1、2月になると職場に独特の雰囲気が漂う」という30代の女性の声を伝えている。彼女によると、再雇用してもらえるよう、働きながら、産業カウンセラー、キャリアコンサルト、ビジネスマナー検定などの資格を取ってきたという。また周囲には雇止めになり、数日前まで相談員として座っていた窓口の反対側に座り、仕事を探している人もいたという(注1)

また、竹信三恵子・和光大学教授は、労働組合が非常勤相談員から集めた手記を紹介し、非正規相談員が抱える深刻な状況を伝えている(注2)

「公募制度そのものがパワハラではないでしょうか。今まで一緒にチームとして仕事をしてきた方と公募に応募しました。自分が採用されたことで職場を追われた方や、採用されなかった一般求職者の方の生活を思うと眠れないことがあります。公募があるために同僚の雇い止めの責任が、まるで採用された非常勤にあるかのような雰囲気が作られています」(就職支援ナビゲーター)

「公募によってメンタル疾患となる非常勤職員が発生し、治らないので辞める実態もあります。精神的な疾患に追い込んで社会に放り出すという状況をなぜ厚労省は繰り返すのでしょうか」(就職支援ナビゲーター)

ハローワークの窓口では、失業者の就職相談に対応している職員自身が、失業の危機に直面している。このような深刻な状況にあるにも関わらず、厚生労働省の側は、改善に動きだそうとしていない。むしろ厚生労働省自身がブラック企業まがいの違法行為まで行っている。

宮崎労働局では、2014年4月~2015年2月にハローワークの非正規相談員や正規職員の超過勤務手当の一部が支払われていなかった。2014年12月末に職員から「非常勤が超過勤務をしているが手当が支給されていない」との内部通報があり、宮崎労働局が調査した結果、非正規の47人が残業を自己申告し、約618時間分の約118万8千円の不払いが判明し、なかには77時間分の約16万9千円が不払いだった人もいた(注3)

2015年2月には、労働基準監督署で解雇や賃金不払いなどの労働問題に関する相談業務にあたっている「総合労働相談員」について、厚生労働省が、賃金を変えずに一部相談員の労働時間を1日15~30分延長する提案を行っていたことが発覚した。「総合労働相談員」は、勤務は月15日で日給制、任期1年で2回更新という非正規職で、全国に約770人が年間100万件を超える相談を受け付けている。先の提案は、東京、埼玉など7労働局の相談員217人について、勤務時間を1日6時間から7時間に延長するというもので、時給換算すると実質100円近い賃下げになる局もあり、対象となる非正規の相談員に一方的に通知するというものだった。この提案は、労働組合から抗議を受け、撤回されている(注4)

非正規保育士

「保育園落ちた、日本死ね」というブログの内容に共感が広がっている。それだけ待機児童問題は深刻さを極めている。 認可保育園が足りないのである。そして足りなくなってしまった理由は、保育士が不足しているからである。さらに保育士が足りない理由は、保育士の非正規化と無縁ではない。

◇1991年以降の保育所、保育士数の推移

保育士は、非正規化が進展した職種なのである。では保育士の非正規化はいつ頃から始まったのだろうか。

日本における保育所数や保育士の状況については、厚生労働省が毎年10月1日を基準日として実施している「社会福祉施設等調査」により、その概要を把握することができる。

保育所の全体数は、直近25年間では、1991年から2000年までは、少子化の影響で地方を中心に徐々に減り続けたものの(2000年で22,199園)、そこから反転して増加し、2008年が一つ目のピークで22,898園となり、2011年から再び増えはじめ、2014年では24,509園となっている。ただし公営保育所数は、1991年から一貫して減り続け、同年には13,331園だったものが、2014年には9,312園と、7割弱までに減少している。一方、民間(社会福祉法人等)はその数を増やし、1991年には9,337園だったものが、2007年には11,598園となって公営保育所を上回り、2014年には15,197園になっている。

つまり自治体は、一貫して、保育園の運営から撤退し続けているのである。

一方、公営・私営をあわせた保育士数は1991年以来一貫して増加している。1991年には専任保育士(常勤保育士と同義)が183,819人だったものが、2000年には242,787人、2010年には293,885人となり、2014年には323,494人へと、24年間で約14万人増加(約76%増)したのである。ただし、保育士数の増加に寄与したのは民間の保育所が主で、同期間に83,119人から209,084人へと、約12万人、2.5倍も増加させていた。一方、公営保育園の専任保育士は、1991年に100,700人だったものが2003年には130,399人へと約3万人増加させたのを境に減少しはじめ、2014年は114,410人まで減っている。

表をご覧いただきたい。A欄は「社会福施設等調査」における公立保育所の専任保育士・常勤保育士の推移である。同調査では、2001年までは常時勤務する保育士を「専任保育士」という名称で把握していたが、非常勤職員に関しては、「常勤的に業務に従事していれば、身分的には非常勤職員であっても専任」(平成5年『社会福祉施設等調査報告』の「用語の解説」より)とするとしていた。2002年以降は、「専任保育士」という名称から、「常勤」として把握するようになった。そして常勤的に業務に従事している非常勤職員については、「兼務している常勤者」として、その職務に従事した一週間の勤務時間を当該施設・事業所の通常の一週間の勤務時間で割って常勤者に換算して算定するようになった。

いずれにせよ常勤的に業務についている非常勤の保育士は、「専任」「常勤」として把握され、短時間のパートタイマー等は除かれているのである。

さて、A欄を見ると、公営保育所の専任保育士・常勤保育士のピークは、先に指摘したように2003年の130,399人。その後2014年まで1万6千人減少した。ただし、別の統計をみると同期間に正規の地方公務員の常勤保育士は、約2万人も減少しているのである。

この差を埋めたのが、「常勤的に業務に従事していれば、身分的には非常勤職員であっても専任」職員とみなされる、常勤的非常勤保育士という存在で、2003年以降、常勤保育士から置き換えられていったのである。

◇常勤的非常勤保育士への置き換え

正規の地方公務員の職種別の人数に関しては、総務省が毎年4月1日を基準日にして実施している「地方公共団体定員管理調査」によって、その推移を把握できる。

表のB欄に「地方公共団体定員管理調査」から保育所保育士の人数を抽出したものを掲載した。

正規の地方公務員の保育所保育士の人員のピークは、1995年で106,386人である。その後、1997年と2002年を除いて減り続け、2014年には84,201人にまで減少した。とりわけここ10年間の減少は著しく、2005年からの10年間で1995年比の約2割にあたる18,039人の正規公務員の保育士が職場を去ったのである。

さて、「地方公共団体定員管理調査」が把握すべき対象は、原則として正規公務員のみである。一方、「社会福祉施設等調査報告」の施設従事者は、正規か非正規かに関わらず、常勤的に勤務している者を専任者・常勤者として把握する。そうすると、前者(A欄)の数値から後者(B欄)の数値を差し引くと、非正規の常勤的非常勤保育士の人数が導きだされることになる。これを示したのが表のC欄の常勤的非常勤保育士数である。

常勤的非常勤保育士は、1993年にはじめて数字として現れたが、1999年には1万人、その2年後の2001年には2万人を突破し、2003年には最大規模の増加で5,337人の増加、そして2006年には3万人を超え、2011年には最大規模の33,311人となった。

2014年段階では、公営保育所に勤務している常勤職員のうち、正規公務員は84,201人、常勤的非常勤保育士は30,209人なので、常勤職員と常勤的非常勤保育士の比率は3対1となる。公営保育所の常勤保育士の4人に1人は「常勤的に業務に従事している」が「身分的には非常勤職員」の非正規公務員の保育士なのである。

そして、さらに表を詳細にみると、恐ろしい事態が進行していることがわかる。2012年以降は、置き換えられていった常勤的非常勤保育士さえ減少している。その数約3,000人。2011年比の1割にあたる。保育所経営から撤退し、雇用主責任を果たさない地方自治体によって、雇止めされているのである。

表 正規公務員の保育士、常勤的非常勤保育士の推移
◇財政ひっ迫と常勤的非常勤保育士への置き換え

それにしても、公営保育所の民間委託や、正規公務員の保育士から常勤的非常勤保育士への置き換えが、なぜこれほど急速に進展したのだろうか。

おそらく重要な動機は地方財政のひっ迫であろう。2004年度までは、保育所の運営費は公立・民間を問わず、保育所運営費という国庫負担金で賄われていた。同負担金における人件費部分の水準は最低ラインのもので、市町村は公営の場合であれ、私営であれ、自治体負担で上乗せをしてきたのであるが、1998年以降の急速な地方財政のひっ迫により、保育所運営費の上乗せ部分も節減せざるをえなくなったのである。

これが、常勤職員なのに賃金水準が低い常勤的非常勤保育士に置き換える第一の動機だった。

第二の動機が2004年度からの「三位一体改革」により公立保育所運営費の市町村に対する国庫負担金が廃止され、一般財源化したことだった。国庫負担金廃止分は住民税と普通交付税で財源保障され、財政上のマイナスの影響は解消していた。にもかかわらず、多くの自治体で財源難を理由に常勤的非常勤保育士への置き換えを急速に進めたのは、保育所運営費分が自治体にとって自由に使える一般財源となったからである。国庫負担金は特定財源なので補助目的以外の業務の経費に使うことはできない。保育所運営費であれば、保育所にしか使うことは許されない。使途が決まっているのである。これに対し住民税や地方交付税などの一般財源になれば、自治体は使途に縛られず自由に使える。ゆえに保育所運営に使わなくてもいいことになる。実際、日本保育協会が2007年に実施したアンケート調査では、一般財源化等の影響で、保育所運営費を節減・圧縮したと答えた市は61%に達し、節減した具体的な経費として、人件費を削減した市が59.4%に達していたのである。

このような自治体の行為は、保育所運営に係る国庫負担金の一般財源化を、財政ひっ迫緩和の「埋蔵金」に貶(おとし)めているとの疑念を抱かせる。

そしてこのあおりを受けたのが、従来の正規公務員と同じ仕事の内容を提供する、年収が200万円前後の「ワーキングプア」層の常勤的非常勤保育士たちであった。

このままでは公共サービスが持続できない

公共サービスは、非正規公務員によって担われている。業務委託や指定管理者で運営されていたとしても、担い手の大半は、非正規労働者である。民営化された公共サービスで正規職員として働いていたとしても、その給与水準は、著しく低い。

対人サービス分野の職種別の平均月給(税引き前)を厚生労働省の「賃金構造基本統計調査(2015年)」から抽出すると、以下のようになる。

全産業平均   33万3300円
看護師     32万9200円
ケアマネジャー 26万1600円
調理師     24万8100円
警備員     22万9500円
ホームヘルパー 22万5100円
福祉施設介護員 22万3500円
保育士     21万9200円

保育士は、全産業平均より12万円低く、福祉施設介護員、ホームヘルパーは11万も低い。これらの職種は、税金や保険料が投入される分野であり、あまりにも低水準の処遇であることから人材が不足している。

いまのような状態を続けていたら、市民の生活のセイフティーネットである公共サービスは持続できなくなり、ただでさえ足りない公共サービスがますます不足し、政府への不信、公務員不信が高まり、「小さな政府」へさらに突き進み、公共サービスを本当に必要とする人々が放置され、格差という社会の亀裂が深まることになるだろう。

非正規公務員という問題、民営化に伴う従事者の低処遇という問題は、私たちが作りあげてしまった社会を正直に映しているのだと思う。

注1.『西日本新聞』2016年4月6日付朝刊。

注2. 竹信三恵子「「パワハラ公募」に泣くハローワーク非常勤相談員」『SYNODOS』
2016.3.14、http://synodos.jp/society/16439

注3.『朝日新聞』2016年3月3日付朝刊。

注4.『毎日新聞』2016年2月18日付朝刊。

かんばやし・ようじ

1960年生まれ。國學院大學経済学研究科博士課程(修士)修了(1985年)。公益財団法人地方自治総合研究所研究員(2007年~)。NPO法人官製ワーキングプア研究会理事(2012年~)。著書に『非正規公務員』(日本評論社 2012年)、『非正規公務員の現在―深化する格差』(日本評論社2015年)、『非正規公務員という問題』(岩波ブックレット2013年)、『公契約を考える 自治総研ブックレット9』(共編著 公人社2010年)

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