特集●労働法制解体に抗して

欧州社会民主主義の現在と課題

欧州議会ドイツ社民党イェンス・ガイアーさんとの対話

欧州議会ドイツ社民党議員団議長 イェンス・ガイアー

日本女子大学名誉教授・本誌代表編集委員 住沢 博紀

住沢この2年間ほど、EU諸国の社会民主主義政党について、危機的な状況が伝えられてきました。私は、『生活経済政策』6月号に、「21世紀の社会民主主義の存在意義を問う」という巻頭エセーを書き、また同じ雑誌の7月号では、小川有美立教大教授の責任編集で、「社会民主主義に未来はあるのか?」という特集が組まれています。EU諸国の社民政党の現状を知りたいところですが、ちょうど訪日中のドイツ社民党欧州議会議員団議長のイェンス・ガイアーさんと、対談することができました。この対談は、フリードリッヒ・エーベルト財団東京事務所所長のスヴェン・ザーラさん(上智大学教授、歴史学)にも同席していただきました。

それではまず日本で関心がもたれている問題、イギリスのEU離脱とフランスのマクロン大統領のEU政策からお願いします。

1.フランスのマクロン大統領への評価

ドイツ社民党のイエンス・ガイアーさん(左)と本誌・住沢博紀

ガイア―大文字の「欧州社会民主主義の危機」というものはありません。政治を長くやってきて、欧州社民主義の危機は何度も聞いてきましたが、現在も社民政党はパワーをもって存在しています。デンマーク社民党の危機が一時期いわれましたが、2015年には、政権こそ担当していませんが第1党です。スペインでは、サンチェスが少数派政権ですが首相となりました。前回選挙で24.7%から5.7%に激減したオランダは確かに深刻ですが、労働党と労働組合との亀裂がその原因のひとつであり、その修復作業が進んでおりある程度は回復できると思います。

フランス社会党は、現段階では確かに、事実上、解体しているといえます。その問題の背景には、何十年も一つの党ではなく、3つの対立する党内フラクションがあったことです。オランド大統領も常にこの問題に悩まされ、彼の提案はほかの二つの党内グループからの批判を浴びることになりました。彼はSPDの分裂を招いたドイツのハルツ改革の結末を見ていて、改革に必要な決定的な政治決断を避けることになりました。つまりイギリスのニューレーバーやドイツのシュレーダーのネオリベラル路線でも、左翼路線でもなく、党内対立を避けるため重要な社会問題の解決を先送りしました。このため国民戦線のル・ペンがこの隙間に乗じて政府の無策を批判する機会を作り出しました。悲劇的ではあるが、オランドはこのようにフランスの課題を解決できなかったし、つまりはフランス社会党の問題も解決できませんでした。現在、フランス社会党は解体過程にありますが、しかしそれは将来も左翼政党がフランスに存在しないということを意味しません。フランス社会党の大統領候補となり、その後、離党したアモンの運動体、Générationなどが基盤になり、名前はともかく社会民主主義政党が復活する可能性はあると思います。

住沢欧州議会では今でもフランス社会党の議員がいるのですか

ガイア―欧州議会でフランス社会党議員は12名と少なかったが、分裂して3名がGénérationに移り、この両者が参加しています。もともと欧州議会の社民党系会派は、イタリア民主党の加入もあり、社会民主進歩同盟という名で、「進歩 progressive 」が会派全体をあらわしています。ハンガリーやギリシャなど2政党が加盟しています。この意味ではフランスの事態も珍しいことではありません。

フランス社会党の再建が成功するかどうかは今、予測することは難しいです。一方でマクロンは非常に大統領として成果を挙げており、カリスマ的な魅力ももっています。他方で社会党から人材的にも政策的にも、多くのものを持ち去りました。彼が社会政策を推進するとか、社会党の政策を引き継ぐとか、現段階で判断することは難しい。現在もフランス社会党に残る同僚は、マクロンが欧州主義者であることは疑いようがないが、フランス国鉄民営化や組合への規制強化を例にマクロンの政治を批判しています。彼は社会主義者ではなく、せいぜい社会的リベラルだと。マクロンの左に社民政党が成立できるかどうかは、今は結論が出せません。もし彼が労働組合との対決をもっと進めるなら、その可能性は出てきますが。

住沢もしドイツにSPD首相が誕生すれば、マクロンとは協働してEU改革政策を推進できますか。またメルケル首相とはどうですか。この6月、マクロンとメルケルがベルリンで会談し、移民問題と並んで、欧州の競争力強化に向けた投資を含む「ユーロ圏予算」のための新しい章が提起されたことが報じられていますが、SPDの視点からはどのように評価できますか。

ガイアーSPDの視点からは、「非常に歓迎すべき」といえます。2017年の大統領選挙の前は、マクロンはオランド政権の財務大臣であったということで、ドイツでそれほど注目される政治家ではありませんでした。選挙戦で彼は自らの政党と選挙戦を導き勝利しました。しかも選挙戦では非常に明確に、EU主義者であることを宣言し、一国の国民的利益も今やEUによってしか実現できないことを唱えました。ドイツとの関係では、お互いに協働してこそ成功が約束されると唱えました。これはまさにル・ペンの国民戦線の対極にある政策であり、しかも勝利したのです。

ドイツとフランスの協働は、両者がそれを望む場合には所属政党に関係なく発展してきました。保守コール首相と社会党ミッテラン時代、そして社民シュレーダー首相と保守シラク大統領のように。しかしオランド大統領の時代には、彼の望む政策は、ドイツ側からの拒否、つまり私たちの対抗相手でもある保守政党CDU/CSUの反対に会ってきました。

昨年9月、大統領になったマクロンは、共通の予算案作成など欧州経済通貨同盟(ユーロ圏)の野心的な改革案を提示しました。ドイツ側ではすぐ後に総選挙を控えていたので、当面は具体的な対応はしませんでした。ただメルケル首相も私たちSPDも、ユーロ圏の抜本的な改革は必要であり、そのためにはフランスとドイツの連携が不可欠であるという見解は共通でした。

ただこうしたドイツの2大政党の「共通の見解」は、欧州議会というレベルでのいわば非公式な議論です。メルケル首相は国内の保守陣営にユーロ圏統合の深化に反対する勢力を抱えており、表立って行動することはできませんでした。ご存知のように、CDU/CSUでは、ドイツの財政負担を警戒する声や財政規律を重視する政策(緊縮財政)が主流派だったからです。私たちはこうした緊縮財政が、ギリシャ、イタリア、スペインの危機などを激化させたと批判してきましたが、緊縮財政は「ドイツの政策」として実行されてきました。しかしユーロ圏の抜本的な改革なしにはEUも立ち行かないことはメルケルも認めざるを得なくなってきています。結論として、ユーロ圏問題が改革に向け動きだしたのは、社会民主党側からのイニシアティブということになります。

昨年のドイツ総選挙の後、まず保守政党とネオリベラルに立つFDP,それに緑の党の3党連立政権交渉が始まりました。私たちはメルケルとの大連合は拒否していましたので、この3党交渉を注意深く分析していました。EUやユーロ圏の問題に関して、共通の農業政策を除いては、彼らはほとんど合意点を見つけることができませんでした。結局、3党連立は成立せず、紆余曲折を経て、この3月にふたたび保守・社民の大連立政権が誕生したわけですが、この政権協定書には、冒頭に「ヨーロッパのための新しい出発」の章が置かれています。

今回の連立政権のもとでは、メルケルはSPDとの政権合意を旗印に、ユーロ圏の統合の深化を自党内の保守派に働きかけることができます。私たちはマクロンの9月の提案を項目ごとに真剣に検討しました。それは欧州統合への偉大なヴィジョンで満たされており、いわばフランスの大きな理念・ヴィジョンと、ドイツの一つ一つの具体的な政策を検討するプラグマティズムの協働ということになります。戦後ドイツは覇権国家であることを否定してきたので、フランスとはこれまでもこうした形での協働であったし、それが望ましいと思います。

この6月のマクロンとメルケルのベルリン近郊での会談は、財政統合を進める「ユーロ圏予算案」などの新しい章が提起されました。しかしまだ具体的なものではなく、また規模も、マクロンは数千億ユーロの規模、メルケルはその10分1の数百億ユーロと大きな違いがありますが、ドイツ・フランスの政府間協働を出発点として、欧州理事会などでユーロ圏加盟国全体に拡大して協議されると思います。欧州理事会議長のトゥスクもこの声明を歓迎しています。欧州議会は秋に議会が再開されても、20195月の欧州議会選挙まであまり余裕はなく、そうした大きな改革の法案審議は、来年の選挙後に始まると思います。 

2.Brexitとイギリス労働党のポジション

住沢もう一つの大きなテーマは、イギリスのEU離脱 Brexitをめぐる問題です。イギリス労働党は欧州議会に議員を送っていますが、彼らはどのような立場で、どのような方針でいるのですか。

ガイアー欧州議会の労働党議員は100%EU残留派です。そのために彼らは欧州議会にいるのですから。イギリス議会の労働党議員も、80%は残留派と思います。したがって労働党の議員たちとは、私たちは全く問題なく共に仕事をしています。労働党そのものは少し異なり、離脱派もいますが多数は残留派です。

おそらく党首のコービンが、「EUは進歩的なプロジェクト」であると心の底からの確信を持っていないことも一つの要因です。もう一つは、労働者階級が反EUのイギリス独立党支持に流れるのではないかという不安です。私たちはこの二つとも誤りであると考えています。現実のEUが問題を抱えるにしろ、EUは改革可能であるし、進歩主義的な政策を発展させることもできます。またイギリス独立党は政党としてはすでに死んでおり、せいぜい欧州議会に十数名の議員が残るだけです。

EU離脱投票は、48%対52%という僅差でした。離脱に賛成したのは、地方の保守的な中・高齢者層です。それに対して若者やロンドンなど大都市市民の多数はEU支持派です。この間の離脱交渉で、そのマイナス面が明確になってきたので、今、再度、国民投票を行うなら、残留派が勝利することが予想されますが、再投票は現実には無理でしょう。とすればEU離脱はソフトランディング、つまりノルウエーのような形でEUと欧州経済領域(EEA)の関係になることが想定されます。しかし問題は、イギリスとEUとの離脱協定は、イギリス議会での承認が必要となることです。労働党議員の多くはこうした離脱協定そのものに反対投票するでしょうし、エコロジー系の政党や保守党の一部にも離脱反対派が存在します。すると国民投票と議会採決の結果が対立することになり、イギリスの憲法上の問題が生じるかもしれません。

またコービンの労働党自体も多くの問題を抱えています。確かに彼はブレア政治を否定し、労働党の伝統的路線への回帰を唱え、前回の選挙では多くの得票を獲得しました。しかしその政策内容では政権を担当することは難しいでしょう。労働党は、本来はEU継続を原則としていました。国民投票の後では、EU指令などにより実現された労働者への保護や権利は維持されるべきであると、個別の論点に限定して議論していますが、やはり原点に戻り、EU残留とEU改革をセットにして宣言すべきだと思います。欧州議会の労働党議員は全く私たちと同じ見解で、ともに行動できます。もっとも離脱をすれば、来年5月の選挙では彼らに投票の機会も議席も与えられませんが。

3.ドイツ社民党SPDのメルケルとの連立政権について

住沢それでは次にドイツ社民党の問題に行きたいと思います。先ず昨年9月の連邦議会選挙では、欧州議会の議長であり、首相候補に任命されると同時に党首ともなったマルティン・シュルツに率いられたSPDは、20.5%と戦後最低の得票率となりました。敗北後、いち早く連立政権を否定したマルティン・シュルツは党内で行き場を失い、SPDも連立政権の是非をめぐって混乱しました。結局、メルケルとの大連立政権が発足したのは3月となり、大きな政治的空白が生まれ、メルケル政権だけではなく、ドイツ政治の安定性に関しても疑問が付されるようになりました。SPDの内部からみて、このプロセスをどのように理解していますか。

>ガイアーまず選挙に際して、SPDとシュルツは、メルケルとの連立政権は組まず、選挙で敗北した場合は野党になると宣言していました。そのためメルケルと自由民主党FDP、緑の党の3党連立政権交渉を見守りました。しかし3党合意は成立せず、残された道は、メルケルCDU・CSUとSPDの再度の連立政権か、それとも再選挙かということになりました。

私たちは選挙公約を守るか、それともドイツの政治的・社会的安定のために連立政権を形成するかという、苦渋の二者択一を迫られました。党指導部はメルケルとの政権交渉を選択し、ただし最後は党員投票での過半数の賛成を条件とすることにしました。

SPD内の青年組織、JUSOが連立政権に反対のため加入者を募ったこともあり、この間にSPDは党員を増やし、党員数からは第1党となりました。党員投票では3分の2が賛成という結果になり、党内外の連立政権合意書の交渉過程と内容をめぐり、厳しい批判や監視がありましたが、SPDの政策を主張できたと思っています。

住沢社会民主主義の危機が叫ばれている時でもあり、敗北した2017年選挙を総括したSPDの報告書を読んでみましたが、多くはこれまでもいわれてきた課題であり、構造的な問題について特に注目すべき指摘はないように思えましたが。

ガイアー私が注目したのは、首相候補指名が2017年1月、選挙への僅か9カ月前で、これは致命的な戦略的欠陥であったと指摘している点です。その時の党首ガブリエルが、ある種の意外性の効果を狙ったわけですが、それは失敗しました。マルティン・シュルツは、欧州議会のベテラン政治家であり、指導者ですが、EUにない権限、つまり雇用、社会保障関連や年金問題など、選挙戦であればこうした国内の重要問題が焦点となりますが、シュルツはその準備をする時間もありませんでした。こうした弱点を抱えたまま選挙戦に突入したわけです。これはあってはならないことでした。

最低でも1年、理想からいえば2年前から首相候補を指名して、その選挙戦の準備やそれぞれの専門領域を持つ政治家のリスト作成など、政権を担当できるチームができます。私たちはイギリスのように、「影の内閣」とはいいません。ネガティブな響きがあるからです。また首相候補が党内外で著名で大きな権威を持つ場合、例えばシュレーダー首相などの場合には、首相候補がチームとして登場する必要もありません。

しかしどのような場合でも、SPDは財政、税制、社会保障、外交など、それぞれ担当能力、政策作成能力のある有力政治家がおり、SPDの各州の議長や州首相あるいは候補、さらにSPD本部の副党首や幹部会委員などとして活躍しています。

3月に党首として指名されたアンドレア・ナーレスは、SPD事務総長や連邦社会・労働大臣としてキャリアを積んでいます。彼女は意図して今回は入閣せず、党首兼院内総務として、SPDも参加するメルケル政権と議会の場で対峙することを選びました。次期のSPDの有力な首相候補の一人ですが、もし選出されれば、SPDにとって最初の女性候補となります。

こうしたトップ政治家の話ではなく、社会民主主義の内容的な問題、とりわけ「構造的な」危機に関する問題には二つの側面があります。

一つは労働組合との関係です。先にオランダ労働党の話をしましたが、ドイツのシュレダー政権の時に、労働組合との対立要因を含む社会保障制度の改革を「アジェンダ2010」として敢行し、金属労組など労働組合との緊張関係が生まれました。オランダ労働党は、ドイツ以上に徹底してこの「改革」を遂行したために、組合との関係が一時的に破綻するレベルまで行ったということです。ドイツではそこまでいかず、また現在では組合との関係も良好になり、今は産別組合の議長は、全員がSPD党員です。

もう一つは、国民との信頼関係です。こちらは難しい問題です。いただいた質問書には、「21世紀の社会民主主義の存在意義は何か」と書かれていますが、国民の信頼を回復するためには、現在、多くの人々が直面する問題や不安に対して、確かな指針や政策を提示しなければなりません。しかしその中には、私たちが今まで十分に討論してこなかったような、あるいはまったく新しい課題が数多くあります。

4.社会民主主義の21世紀の存在意義

住沢今指摘された私のエセーで、「21世紀の社会民主主義の存在意義は何か」と問いかけたのは、次のことです。つまり20世紀後半の西側世界を支えてきた、保守主義、自由主義,社会民主主義がそれぞれ変質しつつある中で、自由・平等・連帯・持続可能性といった西欧的価値を、今や社会民主主義が担わなければならない事態が生じていること。しかし同時に、ポスト工業社会・グローバルな情報社会の中で、社会民主主義はその発展の力を喪失しつつあるのではないかということ。この二つの困難な現実にヨーロッパ社会民主主義はどう立ち向かうのかということです。

ガイアー社会民主主義は大きな視点に立てば、19世紀後半から、資本主義に対してその経済発展の成果を公正に社会に配分すること、働く者を保護しその権利を拡大すること、さらには政府による社会保障制度の拡充により、安心して人々が生活できるようにすること、こうしたことを民主主義を基盤としてそれぞれの国で実現して来ました。

しかし1990年前後の冷戦終結を境に、グローバル化、金融資本主義、デジタル社会など、それまでの資本主義や世界は大きく変容し、私たちに数多くの新しい課題を突き付けてきます。今、欧州議会の私たちの社会民主主義会派内での議論を振り返っても、問題を的確に把握し、理論的な準備を整え、全員が同意できる政策を打ち出すことがむつかしくなってきています。

グローバル化に対して、それぞれの個別の利害調整や方策はあり得ても、全員が同意できるような解決策や、システム全体を働く者のために改革するプランを提起することは、まだ困難です。社会のデジタル化について、いろいろな課題がその都度新しく浮上し、私たちはまるで濃霧のなかを航海しているようで、その本当の姿や社会が進むべき航路はまだ見えてきていません。付け加えてこれまでと規模の異なる難民問題にしても、ロシアのウクライナの一部併合にしても、中国の台頭とアメリカの新しい保護主義的な通商政策にしても、今までほとんど議論してこなかった数多くの新しい課題が登場してきています。

ただ私たちは一国ではなく、EU、ヨーロッパという共同の基盤に立って問題解決を探ること、そして労働運動から生まれた社会民主主義という枠組みを、もっと幅広く、「進歩主義」という枠組みに拡大すること、こうした新しい試みに挑んでいます。

住沢その点は私も同じ見解です。そのためここ数年、ヨーロッパやアメリカの「進歩主義」を掲げるシンクタンク組織を、―その多くは欧州社会党やアメリカ民主党の系列ですがー、調査してきました。しかしヒラリー・クリントンがいい例ですが、進歩主義の理念と金融資本主義やグローバル化の推進が結びつき、こうしたプロの政治家・シンクタンク組織のエリートと大衆との乖離が進行している様に思います。ヨーロッパの場合も、「脱労働運動」の過程で似たような傾向が感じられます。

ガイアーヨーロッパの視点からは少し異なります。欧州議会では、会派は「社会主義者と民主主義者の進歩連合 Group of the Progressive Alliance of Socialists & Democrats in the European Parliament」という名前になっています。私も若い時代からイタリア共産党の強い地域の青年組織と交流がありました。イタリア共産党は当時から実質的には社会民主主義であったのですが、その後、市民ブロックとの合同やオリーブの木を経て、イタリア民主党として欧州社会党と同じ会派を組みました。

イタリアだけではなく、基本価値や政策は同じだが労働運動出身ではない、あるいはレイバーではなく市民陣営であるなど、いろいろな政治家やグループが、私たちの会派に加わりました。この意味では、進歩Progressが私たちのグループ全体を規定する新しい旗印になっていると思います。その内容を、21世紀の社会民主主義として具体化していくことが私たちの課題です。

住沢残念ながら日本では、「進歩」が改革政治の統合概念にはならず、野党は分裂を重ねています。もうひとつヨーロッパからは、あまり意識されないかもしれませんが、中国共産党の権威主義的体制の問題です。私はアンチ中国ではなくプロ中国ですが、それが旧ソ連とは異なり市場経済的に一つの成功モデルとなっていることに危惧を覚えます。開発独裁という発展過程ではなく、完成された統治システムとして登場しています。西欧的価値を体現するヨーロッパ社会民主主義の意義を、こうした視点からもアジアのレベルで考えてゆきたいと私は思っています。今日はいろいろな議論をしていただきありがとうございました。

イェンス・ガイア―

欧州議会ドイツ SPD 議員団議長(27名)、予算委員会所属、欧州議会議員(2009年、2014年の2回当選、2019年5月選挙も立候補予定。1989-1992 青年社会主義者JUSO副議長(SPD青年組織) 日本派遣団(3回訪日) https://www.jens-geier.de/


すみざわ・ひろき

1948年生まれ。京都大学法学部卒業後、フランクフルト大学で博士号取得。日本女子大学教授を経て名誉教授。本誌代表編集委員。専攻は社会民主主義論、地域政党論、生活公共論。主な著作に『グローバル化と政治のイノベーション』(編著、ミネルヴァ書房、2003)、『組合―その力を地域社会の資源へ』(編著、イマジン出版 2013年)など。

特集•労働法制解体に抗して

ページの
トップへ