論壇

「21世紀のマルクス」を求めて

マルクス生誕200年記念国際シンポジウム・
関係7学会合同企画/法政大学で12月22、23日  

実行委員会委員長・法政大学教授 河村 哲二

本年12月に、日本における関係7学会合同企画「21世紀におけるマルクス」による「マルクス生誕200年記念国際シンポジウム」を開催する(2018年12月22日・23日、会場: 法政大学市ケ谷キャンパス薩埵ホール等)。

本年2018年は、カール・マルクス生誕(1818年5月5日)200年にあたる。また、昨年2017年は主著『資本論』の第1巻初版刊行(1867年9月)150年周年にあたる。これを機に、経済理論学会を始め、日本のマルクス研究の主力7学会が合同して、改めてマルクスの理論体系・思想の現代における意義と課題を総合的に議論し、21世紀における社会科学的「知」の発展を図るべく、「21世紀におけるマルクス」企画を進めている。

昨年2017年9月には、同企画の第1弾として、「『資本論』150年記念シンポジウム」を開催した(2017年9月16日、会場: 武蔵大学江古田キャンパス)。同シンポジウムでは、 K.マルクスの理論体系の意義と課題を、参画学会からの報告者7名による報告およびMEGA研究の若手研究者の招聘報告と、総合討論「21世紀における『資本論』」を通じ、『資本論』体系を焦点にして、経済理論・学史・思想・歴史・現実分析の視角から総合的に論じた。200名の参加を得て活発な討議が行われた。

そうした成果を受けて、「マルクス生誕200年記念国際シンポジウム」は、「21世紀におけるマルクス」企画の第2弾として、2日間にわたり、幅広く内外から報告者を募った並行セッションと、参画7学会の推薦報告による国際セッション(全体セッション、一般公開、同時通訳付き)を通じて、21世紀においてK.マルクスの理論・思想・学説がもちうる意義を、批判的観点も含め学術的に総合的・多面的に討議し、新たな社会科学・社会思想の開放的ビジョンの創出を目指して、海外関係諸学協会および主要研究者とも幅広く共同して開催するものである。以下、私見も交えて概要を紹介し、各位の積極的な参画をお願いすることにしたい。

マルクス再評価の潮流と本国際シンポジウムの意義

K.マルクスの理論・思想と学説は、19世紀に登場して以来、経済理論、社会思想、政治思想はもとより、現実の政治運動やプロセス、社会運動に実に幅広く多大な影響を与えてきた。政治、革命思想としてのマルクス主義と密接に関連して捉えられたマルクスの理論と思想は、実に大きな毀誉褒貶を経てきたことも確かである。

わが国においても、戦前期も含めた日本の社会科学・社会思想に与えた影響は実に大きなものがある。マルクスの理論・思想・学説は、戦前期はもとより、戦後期も長く経済学・社会科学研究の主流を占めてきたが、第二次大戦後、戦後パックス・アメリカーナのもとで、アメリカの主流派経済学の影響が強まり、経済学研究や大学教育でも、新古典派、ケインズ派(ポストケインジアンを含む)の影響が大きく拡大した。

とりわけ、1990年代初頭のソ連・東欧社会主義の崩壊後と市場主義・新自由主義の拡大もとで、「マルクス離れ」が進んだ。しかし、21世紀に入った現在、戦後パックス・アメリカーナの変質と中国を始め新興経済の台頭によるパワーシフトなど、グローバル資本主義の展開のなか、戦後現代資本主義の政治経済システム・文化変容が進み、世界的な格差拡大や貧困問題、地球環境危機などの諸問題が深刻化した。

またなによりも、「百年に一度」(Alan Greenspan,2018)、「世界大恐慌以来最悪」(Timothy Geithner、2018)とされる「グローバル恐慌」の発生は、社会経済システムとしての資本主義そのものの限界を大きくクローズアップするものであった。今や、資本主義の未来への懐疑が大きく拡がっている。そのなかで、改めて、歴史的・総体的かつ批判的な視点にたったマルクスの思想と学説とその影響に対し再び関心が大きく高まっているといってよい。

国際的にも、マルクスの理論・思想、現状分析および政策、世界史的展望に関する研究が数多く出現している。経済学の領域でも新しい国際学会が生まれ、国際的な討議が開始されているが、とりわけマルクス生誕200周年および昨年の『資本論』150周年にあたって、K.マルクスの理論と思想、あるいはマルクス主義の歴史的な影響の評価や問題点、その現代的意義をめぐって、世界的にも数多くの国際学会や記念集会が開催され、改めて「21世紀におけるマルクス」の意義の再評価の機運が高まっているといってよい。

マルクス生誕の地であるドイツのトリーアでは、世界各国・各地域からの多数の参加者を得て、5月5日に記念式典が盛大に開催され、その他各種記念行事が年間を通じて企画されている。また、マルクス主義を公式イデオロギーとして掲げる中国では、本年5月4日には、北京の人民大会堂に習近平総書記を始め、共産党幹部や軍関係者ら約3千人を集めて「マルクス生誕200周年記念大会」 を盛大に祝った。

その他、主なものだけでも、モスクワにおけるロシア共産党による大会(2018年5月11-12日)――各国共産党代表だけでなく研究者を含め31カ国から51報告がなされた――、中国北京大学における第2回マルクス主義会議(The Second World Congress on Marxism)(5月5-6日、北京)、カナダのトロントにおけるマルクス・コレギウムによる「150年後のマルクス『資本論』」 (Marx's Capital after 150 Years) シンポジウム(2017年5月24-26日、ヨーク大学)、ドイツのベルリンローザ=ルクセンブルク財団による、「マルクス200年」(Marx 200)大会など、世界各地で幅広く開催されている。

また、The Economist (London)、Monthly Review(New York)など内外の多数の主力雑誌――国内では、『現代思想』臨時増刊2017年6月、『経済セミナー増刊』、2018年5月など多数――および各種学会誌による特集や、マルクス関係書籍の刊行が数多く現れている。ラウル・ペック監督による映画「マルクス・エンゲルス」も公開され(日本では岩波ホールで上映)、広く注目を集めている。

イデオロギッシュな批判と擁護にさらされてきたマルクスの理論と思想の歴史を考えると、こうした海外の動向をマルクス再評価の動きに直結させるのは早計にすぎるが、野放図なグローバル化や金融膨張、世界的な格差拡大、グローバル金融危機・経済危機の深刻な影響、さらには地球環境危機などの問題の噴出によって、資本主義の現状に対し大きく懐疑と批判が高まっているなか、『資本論』を中心に、最も深く体系的に、社会経済システムとしての資本主義の本質を解明したマルクスの理論と思想の意義が改めて、大きな関心を生むのは当然といえよう。

7学会合同で企画されている「マルクス生誕200年記念国際シンポジウム」は、わが国の独自のマルクス研究の歴史と経緯にたって、マルクス研究の関係学会が合同して組織し、海外の関係学協会や主要研究者と幅広く共同して開催することを大きな特徴としている。とりわけ、日本は、明治以降の欧米先進資本主義とは異なる独自の近代化・資本主義化の経験を反映して、マルクス研究の独自かつ高い水準の蓄積を重ねてきた。

こうしたマルクス研究の伝統にたつ、多くの学協会が存在している。そうした研究蓄積と成果を基盤として、これまでのマルクスの思想と理論を巡る歴史的経験を総括しながら、新たな社会科学・社会思想の開放的ビジョンの創出を目指して、21世紀においてK.マルクスの理論・思想・学説がもちうる意義を、批判的観点も含め学術的に総合的・多面的に討議し、その総合的成果を、国際的に発信することは、大きな意義をもつものとなる。

なかでも、「経済理論学会」は、理論と政策・歴史・現状分析研究者からなる総合的な学会としてほぼ60年の歴史を重ね研究を蓄積し、とりわけ戦前来わが国で大きく発展したマルクス経済学を基礎的な伝統として受け継ぐ主力学会である。そのため「21世紀におけるマルクス」企画は、経済理論学会が組織・運営の中心となり、マルクスの思想・学説の再評価にあたって不可欠な、経済学説・経済思想・社会思想を歴史的視野から検討する主力学会として経済学史学会、社会思想史学会、さらには「基礎経済科学研究所」、「唯物論研究協会」、「信用理論研究学会」、「マルクス・エンゲルス研究者の会」が参画と幅広い協力を決定し、7学会の合同企画として推進するに至ったものである。

すでに本シンポジウム企画は、海外においても大きな反響を得ており、当該分野の主力学会の欧州経済思想史学会(ESHET)、さらには世界政治経済学会(WAPE)(世界約50カ国の研究者を組織)からも賛同と協力が得られており、アメリカの多数の主力研究者の賛同を得ている。 独自の伝統と蓄積をもつわが国のマルクス研究の成果と、世界的な研究動向を結び付け、K.マルクスの理論と学説・思想の歴史的な学術的総括を図ることが、大きく期待されている。

国際シンポジウムの概要

シンポジウムのプログラムは、現在構成中であり、ここではその概要を紹介するにとどめざるを得ないが、全体として、国内・海外への報告募集(Call for papers)によって幅広く報告の応募を募り、多数の応募を得て、アメリカ・ヨーロッパはもとより、中南米・アジア・アフリカを含む世界的な報告と参加が見込まれている。

公式版は追って公開するが、現状のプログラム構成案では、第1日目(12月22日)午前・午後および第2日(12月23日)午前には、3会場で、英語セッションシリーズ2と日本語セッション1の並行セッションを組み、2日目の午後は全体会として、各参画学会からの推薦報告者による5報告を、一般公開・同時通訳付き(日本語→英語)で行う予定となっている。

並行セッションは、実行委員会による精査を経て採択された応募報告で構成され、英語セッションには、海外から多数の応募があり、参加地域は、ドイツ、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、カナダ、スイス、ポーランド、スペイン、トルコ、ブラジル、チリ、オーストラリア、中国、韓国などに及んでおり、国内の英語報告を加え、40以上の報告で構成される予定である。また、日本語並行セッションは、国内研究者を中心に20名が参加し報告する予定となっている。

なお、最後に、参加費および募金についてご協力をお願いしたい。こうした大規模な国際学会の開催には、同時通訳費用を含め、かなりの経費を要するが、本シンポジウムは、「マルクス生誕200年記念国際シンポジウム」の趣旨と意義に深いご理解をいただき、ご参画いただける方々のご協力によって開催し、成果を国際的に広く発信するものである。そうした趣旨から、開催費については、シンポジウム参加費と、マルクス記念募金によるご寄付によってまかなう予定としている。すでにかなりの参加申し込みとご寄付をいただいているが、本国際シンポジウムへの参加申し込みおよび参加費等の払込み、募金についての詳細は、 専用Webページ をご参照いただき、是非ともご協力をお願いしたい。また、シンポジウムのプログラムの詳細や報告要旨、その他の情報は、確定し次第、随時、同専用Webページにて公開する。合わせてご参照されたい。

現代資本主義が、危機と混迷を深めるなか、関係7学会合同企画「21世紀におけるマルクス」をテーマに「マルクス生誕200年記念国際シンポジウム」は、独自の伝統と蓄積をもつわが国のマルクス研究の成果と、世界的な研究動向を結び付け、K.マルクスの理論と学説・思想の歴史的な学術的総括を図り、21世紀における新たな社会科学・社会思想の開放的ビジョンの創出を目指すものであり、そうした趣旨と意義に深いご理解とご賛同を賜り、是非ともご参画いただきたく、お願いする次第である。

関係7学会合同企画「21世紀におけるマルクス」

2018年マルクス生誕200年記念国際シンポジウム

日 時: 2018年12月22日(土)・23日(日)(開場22日9:00、閉会23日17:30)

会 場: 法政大学市ケ谷キャンパス 外濠校舎4階 薩埵ホール・その他3会場

シンポジウム詳細は 実行委員会ホームページ を参照ください。

http://marxinthe21stcentury.jspe.gr.jp/

マルクス記念シンポジウム実行行委員会

実行委員長:  河村哲二(経済理論学会・代表幹事)

実行委員:  経済理論学会: 伊藤誠・大西広・後藤康夫・八木紀一郎/経済学史学会: 大黒弘慈・竹永進/ 基礎経済科学研究所: 後藤宣代・中谷武雄/マルクス・エンゲルス研究者の会: 大村泉・宮川彰/唯物論研究協会: 大屋定晴・渡辺憲正/信用理論研究学会: 前畑雪彦・松本朗/社会思想史学会: 後藤浩子(オブザーバー)

事務局: 清水 敦(経済理論学会本部事務局長)/日臺健雄/江原慶/小林陽介/新井田智幸/斎藤幸平

所在地: 〒176-8534 東京都練馬区豊玉上1-26-1 武蔵大学経済学部 清水敦研究室内

E-mail : marxinthe21stcentury.jspe@gmail.com

URL : http://marxinthe21stcentury.jspe.gr.jp/

かわむら・てつじ

1951年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。 マサチューセッツ大学アマースト校経済学部客員准教授(1983-85年)、帝京大学経済学部教授、武蔵大学経済学部教授(2001-03年度武蔵大学総合研究所所長)を経て、2005年4月より法政大学経済学部教授(2009-10年度大学院経済学研究科長)。法政大学サステイナビリティ研究教育機構研究企画委員長(2009-2013年)、マサチューセッツ大学アマースト校客員教授(2013-2015年)兼務。2016年より経済理論学会代表幹事(学会長)。専攻は、アメリカ経済論、グローバル経済論、理論経済学。主著として、『パックス・アメリカーナの形成』(東洋経済新報社、1995年)、『第二次大戦期アメリカ戦時経済の研究』(御茶の水書房、1998年)、『現代アメリカ経済』(有斐閣、2003年)など。その他、『制度と組織の経済学』(日本評論社、1996年)、『グローバル経済下のアメリカ日系工場』(東洋経済新報社、2005年)、『グローバル資本主義と景気循環』(御茶の水書房、2008年)、『知識ゼロからのアメリカ経済入門』(幻冬舎、2009年)、『現代経済の解読』 (御茶の水書房、2010年,2013年,2017年)、Hybrid Factories in the United States under the Global Economy(Oxford University Press, 2011年)、The Crises of Global Economies and the Future of Capitalism(Routledge, 2012年)、『「3.11」からの再生』(御茶の水書房、2013年)、『持続可能な未来の探求』(御茶の水書房、2014年)、『グローバル資本主義の現局面』Ⅰ・Ⅱ(日本経済評論社、2015年)など、編著・共著多数。

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