論壇

「警視庁機動隊の沖縄派遣は違法」住民訴訟

違法な目的、そのための公金支出は認めない

住民訴訟原告団 石川 亜衣

2016年12月20日、原告184名、代理人弁護士64名により東京地方裁判所に「警視庁機動隊の沖縄への派遣は違法」と訴えて、地方自治法上の住民訴訟を提起した。この訴訟は、2016年7月に沖縄本島北部の国頭村・東村高江周辺での米軍北部訓練場ヘリパッド工事が再開されるにあたり、その警備として東京都の警視庁を含め6都府県から機動隊員500名以上が派遣されたことに端を発する。

より多くの人に、機動隊派遣の責任を追及することの必要性を知ってもらいたい。

高江ヘリパッド問題について

「高江ヘリパッド問題」は、元はと言えば1996年少女暴行事件をきっかけとして日米特別行動委員会(SACO)で決められた米軍基地施設の強化計画に遡る。基地被害・負担を減らすための返還を謳った日米間の取り決めが、実は返還予定地内にある古くなったヘリパッドを、高江集落を取り囲むように新しく作り直すものだった。

2007年7月にヘリパッド建設工事がはじまるまでにも、住民は「ヘリパッドいらない住民の会」を立ち上げ、高江区で移設反対を決議するなど、工事に反対するさまざまな動きを示したが、政府からはすべて無視された。座り込み抗議は、政府と防衛局が手段を選ばずに工事を強行しようとしたがための止むに止まれずの意思表現であることを忘れてはいけない。

私たちは、住民訴訟において、機動隊派遣が違法であるとする背景として、SACO合意の不当性と、ヘリパッド工事自体が違法であることも強く主張している。

ヘリパッド工事の再開と機動隊の役割

2016年7月10日、参院選で「新基地建設反対」を掲げた伊波洋一氏が当選した。喜びに沸いたその翌日早朝、突然北部訓練場のメインゲートから工事車両が入った。工事が中断されていた間も住民は座り込みを続けていたが、基地建設の中止に一歩近づいたという希望の灯がともった直後、工事が突如再開すると知らされた人々の衝撃と不安を思うと、胸が締め付けられる。

7月13日、地元2紙で、米軍北部訓練場のヘリパッド工事着手に先立ち、住民の抗議活動に対応するため、警視庁など全国から400〜500人の機動隊員が派遣されると報じられた。2015年11月にも、辺野古新基地建設に抵抗する座り込み現場に警視庁や大阪府警の機動隊が派遣され、座り込みの現場をいっそう苛烈なものにさせていた。

ヘリパッド建設予定地への道をふさぐ機動隊
              (2016年11月東村高江)

7月19日、東京・神奈川・千葉・愛知・大阪・福岡の6都府県警察から機動隊が東村高江周辺に配備され、「検問」をはじめる。

7月22日、機動隊は、住民のライフラインとなる県道70号を封鎖し、建設予定地N1地区の入口に座り込みで抵抗して繋がる人々を、思考が停止した暴力装置のように力任せに引き剥がして排除した。それ以降も、機動隊は警察権力を濫用して市民への暴力や不当逮捕を繰り返し、米軍基地建設事業に奉仕するかのように抗議者の排除を専門的に請け負っていた。

つまり、機動隊が抗議者を力づくで排除しなければヘリパッドを完成させることはできなかったのだ。機動隊派遣の目的は、ヘリパッドを完成させるため、抵抗する住民を抑圧し排除することにあったと言える。

今、工事によって豊かなやんばるの森は壊され、連日のように米軍機が低空で飛び交っている。轟音に逃げまどい巣を追われるやんばるの生き物と同様に、住民も今まで以上の被害を被っている。機動隊が住民をそのように追い込んでしまった責任も問われなければならない。

本件訴訟調査の過程で、機動隊員は派遣される前に抗議参加者の実態として誤った認識を与えられていたことが分かった。抗議参加者が「危険かつ違法な抗議行動に伴う犯罪行為を繰り返しおこなっており、警察官の警告に対しても身勝手な主張を続けて全く聞き入れない状況にある』(三宅俊司元沖縄県弁護士会長の県に対する損害賠償事件において、県側が提出した準備書面より)と聞かされていた。自らの任務に疑問を抱かぬよう、抗議の背景を知らせずに、機動隊の活動を正当化できるよう仕込まれていたと思わざるをえない。

住民監査請求と住民自治の空洞化

2016年11月17日に請求人314名、代理人弁護士64名により東京都に対し、住民監査請求を行なった。機動隊の派遣元となる地域住民の権限で、自治体職員である機動隊の派遣を認めないというものである。

私たちの主張は簡単だ。警視庁の警察官は、東京都の公金すなわち都民が納めた税金から給与が支払われる都の職員である。私たちが義務で納めた税金が、暮らしを守ろうと声を上げる人々の権利を踏みにじるような行動をとった警察官に対して支払われたことを認めない、というものだ。

ところが、住民監査請求の結果は、私たち住民の意見陳述の機会さえも与えられず、却下。まるで受け取った申立書にハンコを押して、そのまま「却下」の箱に慣れた手つきで投げ捨てられたような扱いだった。

調べてみると、東京都では2009年から8年間で125件の住民監査請求のうち、114件もの請求が審議なしに却下されていた。機動隊派遣の中止を求めて住民監査請求を行なったが、その前に地元東京の住民自治の空洞化を思い知らされてしまった。沖縄に機動隊を派遣した東京以外の5府県(神奈川・千葉・愛知・大阪・福岡)でも住民監査請求は却下されている。東京・愛知・福岡では、この監査の結果を不服として提訴した。神奈川・千葉・大阪では提訴に至らなかったが、各県警に対して申し入れをするなど、この問題に継続して取り組んでいる。

機動隊派遣の手続きとその目的

機動隊派遣がどのような流れで要請され、承認、決定されたのかを紹介する。主に警視庁へ情報公開請求をして得た文書から分かったことだ。

2016年7月11日、警察庁から各都府県警備部長に「沖縄県警察への特別派遣について」という通知がだされた。「みだしの件については、沖縄県公安委員会から関係都府県公安委員会あて要請が行われる予定であるが、派遣期間および派遣部隊については次のとおりであるから、派遣態勢に誤りなきを期されたい」と記されている。そこにはすでに各都府県警別に割り当てられた派遣期間と人員が記されており、それは事実上の命令書とみられる。

7月12日、沖縄県公安委員会から6都府県公安委員会に「警察法60条第1項の規定に基づき、次のとおり警察職員の援助を要求します」という文書がだされる。文書には、援助を必要とする派遣期間と人数が都府県ごとに表で指示されている。その任務は、「米軍基地移設工事等に伴い生ずる各種警備事象への対応」とされている。同日、東京都公安委員会から沖縄県公安委員会に対し、派遣に応ずる旨の回答がなされている。

これと同じ一連の手続きが8月と9月にも繰り返され、計3回の派遣手続きにより7月から12月までの長期にわたる派遣が実施されたことになる。

私たちは、このような手続きも違法であると主張している。そもそも、今回の派遣の根拠法令である警察法60条第1項は、「都道府県公安委員会は、警察庁又は他の都道府県警察に対して援助の要求ができる」と規定するにすぎない。本来は援助要求の決定(機動隊派遣の要請)は沖縄県公安委員会の専権であるはずなのに、今回の派遣では公安委員会の決定以前に国の警察機関である警察庁から各都府県警察に派遣指示がなされている。

現行の警察制度の基本は、警察法36条の各都道府県を単位とする自治体警察であり、その本務は当該都道府県の住民の生命・身体・財産の安全を守ることにある。この原則に従えば、今回の機動隊派遣は、多くの市民(とくに住民)の意思に反した米軍基地建設を目的として、住民150名前後の地域に全国から500名以上の機動隊を送り込んだというものにほかならず、混乱と摩擦を助長させ、本来の警察の役割を逸脱していると言える。

東京都知事への請求―被告東京都知事は、現警視総監に対し2億0240万0059円を、前警視総監に対し7881万0643円を請求せよ

この見出しが本件訴訟での請求だが、念のため確認しておきたい。訴訟はもともと住民監査請求を経ている。東京都が責任を担う都税支出に対する見直しを求め、それが却下されたことを不服としているので、被告は東京都となる。整理すると、⑴警視庁が機動隊を違法な手続きで派遣し、機動隊は派遣先で違法な行為を行なった。⑵警視庁機動隊員は東京都の職員であり、原告である都民として、違法に派遣され、かつ違法行為を行なった機動隊員に対する都税(公金)からの給与支給は認めない。⑶警視総監は機動隊員に対する給与支給の責任者であるとともに、違法な派遣を是正する行動規範があるのに、その是正をしなかった。

だから、私たちは、東京都が警視総監に対して不当に使用した税金を返すよう請求せよ、と訴えている。

訴訟の経過と東京都の主張

本訴訟は、すでに提訴から1年半以上が過ぎ、8回目の口頭弁論を今年7月23日に終えた。9回目は9月26日である。1回目から4回目においては、主に私たちの訴えが住民訴訟に適しているかどうかが争われていた。被告(東京都)は常に、「本件支出は、本件派遣決定や当該機動隊員の実際の職務行為との間に、直接の関係または結びつきがないから、住民監査請求における却下決定は正当である」と主張している。

これに対して、私たちは、本件監査請求及び住民訴訟の対象は「本件派遣決定により、沖縄県高江に派遣された警視庁機動隊員らの基本給与の支出」であって、不適法な請求ではないと反論した。また、行政法学者である芝池義一京都大学名誉教授の住民訴訟の違法性判断に関する判例検討に依拠しつつ、基地反対運動の抑圧というような「違法な目的のために公金を支出することはそれ自体も違法だというのは常識ともいえる原則」だとして、派遣の実態からするならば、私たちの訴えは適法であることを強調した。

5回目期日、私たちは、機動隊派遣の実態を明らかにするため、沖縄現地から6名と原告1名、そして警視総監2名について、証人尋問等の請求を行なった。

6回目期日、被告との議論が一方通行であったところへ、裁判所が被告に対し「本件機動隊派遣の必要性・相当性について、東京都としてどのように考えているのか、具体的に主張をしなさい」と求めた。そして、7回目期日において、本件機動隊派遣がなぜ必要だったのか、東京都ははじめてその認識を明らかにすることとなった。内容の一部を紹介する。

東京都は、2016年7月に機動隊派遣が必要であった理由として、そのずっと以前に「ヘリパッドいらない住民の会が結成され」たことや、派遣の前月である6月に「県民大会が開催され、約6万5千人もの参加者が集まり、大会決議には『在沖海兵隊の撤退』が盛り込まれた」ことなどをあげている。また、抗議参加者の実態として、そのなかには「県外からの参加者も相当数含まれていたほか、いわゆる極左暴力集団や反差別勢力の活動家又は外国籍の者も確認されている」などと主張した。

以上のようなことを理由として、沖縄県警だけでは対応がきわめて困難であったという。さらに、「本件派遣は『沖縄県内における米軍基地移設工事等に伴い生ずる各種警備事象への対応』を目的として行われ」、「抗議参加者らを含めた現場周辺の安全確保、交通の危険の防止、違法行為の抑制等のための必要かつ適切な警備活動を実施していた」という。

事実に反する歪んだ認識をもっていることに失望さえ感じるが、一方で被告のひどい認識を引き出すことができたのは成果のひとつとも言える。

8回目の期日で、私たちは、被告の認識が事実と反していることを示した。たとえば、派遣決定がなされる前に機動隊が出動せねばならないほどの混乱が引き起こされたという事実はまったくなく、高江集落に多くの人が集まったのは機動隊派遣が報じられた後のことである、などだ。

    ▽    ▽    ▽

今後、私たちは、訴訟において、次のことが実現されるよう頑張らねばならない。それは、私たちが請求した証人尋問について、ひとりでも多く実施されるようにすること、そして機動隊派遣によって実現しようとしたヘリパッド建設という目的の意味、警察法60条が規定する派遣決定の手続きに違反してなされた派遣であること、及び派遣された機動隊により高江で行なわれた警備行動の多くが法的根拠のない弾圧行為であったことなどを明らかにすることだ。派遣実態を示すことで、機動隊が、なぜ市民に暴力を行使することが可能なのかを明らかにする必要があり、東京都が基地建設に無関係ではいられない責任ある立場であることを示すことにもなる。

原告の意見陳述から

機動隊が派遣された当時、連日の報道や現場報告から機動隊派遣の実態を私たちは知ることになった。派遣元が自分の住む地域であることの責任を痛切に感じている。これが「警視庁機動隊の沖縄への派遣は違法」と申し立てた主な動機である。

今までに口頭弁論で10名の原告が意見陳述を行なった。以下にそれらの一部を抜粋する形で紹介する。本件訴訟の意義などを感じとってもらいたい。

<原告1>

私は、裁判官の皆様にお尋ねしたい。国策は常に正しいのか? 国の内外に屍を累々と築いた先の敗戦は、果たして自然現象だったのか? 日本が三権分立に基づく真の法治国家であるなら、米軍基地はいらない、という沖縄の民意はなぜ常にきき入れられず、今日に至るまで、圧倒的な暴力で制圧され続けているのか?

<原告2>

確定申告の時期に納税者は朝早くから税務署の前で並んでいます。憲法で国民には納税の義務が定められていますが、憲法前文、9条、25条等からすると「国民が平和に生存するために税を使うこと」が前提とされているのではないでしょうか。やんばるの森という緑豊かな環境のなかで、ごく普通の生活を望んでいる人々の願いを踏みにじり、東京から多額の都税を投入して、警視庁機動隊を派遣したことに反対します。

<原告3>

私は、沖縄の北部の本部町で1947年に生まれ、復帰前の1966年パスポートを持って日本にやってきました。いまも沖縄は基地から派生する被害に苦しめられています。これ以上の基地はいらない! という沖縄県民の悲痛な思いを、若い機動隊員はどれほど知っているのでしょうか。N1ゲート前のテント撤去の映像を見て、1879年に琉球国が武力で制圧された「琉球併合」を彷彿とさせられました。

<原告4>

かつて公務員の労働組合で執行部を務めていたことがあります。当時から今日に至るまで警察の決算や予算は、ほとんど議会でも審査されることのない「聖域」=ブラックボックスであり続けています。警察官の給与・手当等の具体的な中身は未だ検証されていません。今回の長期派遣で支給された日当や特殊勤務手当等が法令に反することなく執行されていたのか、重大な疑問と関心があります。

<原告5>

日本にある米軍基地の70パーセントが日本の面積の0.6パーセントを占めるにすぎない沖縄に集中する理由のひとつは、75年前にさかのぼる。天皇がいる本土への米軍上陸を防ぐため、沖縄住民に総力戦を強いた。東京にいれば、遠く沖縄で人々の暮らしが脅かされても見て見ぬふりをできる。しかし、権利を奪われる人がいる社会を放置すべきではない。東京の地から、戦争のために使う土地=基地がもたらす暴力の連鎖をやめさせたい。

<原告6>

法の番人としての義務を負う武装した集団が、市民を暴力的に威圧していたのです。司法がそれを正そうとしないなら、それは法の支配に名を借りた、単なる暴力による一方的な凌辱と抑圧にすぎません。法を踏みにじって暴力と脅迫を行なった警視庁から、私たちの税金を取り戻し、憲法で保障された自由と人権を取り戻したい。

<原告7>

沖縄には何の縁もない私がここに立つのは、沖縄で行なわれていることは、権力による「弱い者いじめ」だと思ったからです。世界中に人間がつくった対立から生じる火種があり、それを恐怖で煽り、戦争や排斥主義に駆り立てる、それによって利益を得る支配層と、虫けらのように殺される市民との「命の重さの格差」が広がりつつあります。司法の役割がいま発揮されるべきときではないでしょうか。

<原告8>

47人のクラスのうち「沖縄くん」だけが35個のランドセルをずっと背負わされ、沖縄くんは苦しそうに「これ以上背負いたくない」と言っている。それなのに、いじめっ子が「もっと背負え」と言う。そのまわりを、見て見ぬふり、あるいはいじめに気づかない子どもたちが取り囲んでいます。自分の税金が使われて、つまり、自分の一部が機動隊の手足となって人々の暮らしを弾圧するのは、耐え難い。

<原告9>

(東京都の主張は)東京MXテレビのバラエティー番組「ニュース女子」が沖縄の基地反対運動を取り上げ、「反対する人達はテロリスト、機動隊に暴力を振るう、中国人はいるは朝鮮人はいるは」などの放送内容と共通点があります。人権を擁護すべき自治体の東京都が、機動隊の沖縄派遣の適法性の根拠のひとつとして、偏見に満ちた「虚構の事実」を持ち出したことは驚くべきことです。東京都の主張に抗議するとともに、その削除を求めます。

<原告10>

高江に足を運ぶたびに、警察機動隊による数多くの違法な行為を目撃していますし、自分自身も何度も被害に遭いました。検問や道路規制だけでなく、より直接的に身体の自由や表現の機会を奪われるという事態も毎日起こっていました。個人の意思に反して強制的に排除すること自体がおかしいのはもちろん、機動隊員の男性が女性の身体を触って怪我をさせるというのは異常だと思います。

いしかわ・あい

「警視庁機動隊の沖縄への派遣中止を求める住民訴訟」の原告のひとり。「辺野古リレー 辺野古のたたかいを全国へ」でも活動。

警視庁機動隊の沖縄への派遣中止を求める住民監査請求実行委員会  ブログ

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