コラム/今日この頃

裏ビジネス化した「特殊詐欺」

顛末記その3―現代社会の鬼っ子を根絶できるか

本誌編集委員 池田 祥子

1 「特殊詐欺」の現況

「オレオレ詐欺」に端を発して、「かあさん助けて詐欺」「振り込め詐欺」「還付金詐欺」「架空請求詐欺」さらにはさまざまな災害や事故に乗じての「カード無効」を口実とする新手の詐欺や、高額の「投資詐欺」など、いわゆる現代の「特殊詐欺」は巧妙な手口の開発?とともにしたたかに生き延び続け、多発している。

図1 特殊詐欺の推移

警察庁が発表した今年上半期(2018年1~6月)に全国の警察が把握した「特殊詐欺」の被害額は174憶9千万円、認知件数は8197件である。いずれも、図1に見るとおり、最大値を示している2014年と比べても、また昨年度の上半期と比べても減少してはいる(昨年度とはほぼ7%の減)。しかし、これほど「詐欺」情報が認知され、銀行、ATM、コンビニなどでの詐欺警戒体制が敷かれていても、一番有名な?「オレオレ詐欺」は4560件、被害額は96憶3千万円、22.7%の増であるという。

また、全国38道府県では認知件数は減少しているものの、東京、神奈川などの首都圏を中心にした9都県では増えている。私が関わってしまった収納代行業ウェルネット社を騙る「架空請求詐欺」は、今では「アマゾン」あるいは「アマゾンジャパン」の名前を堂々と掲げた手口となり、それとは別に「法務省管轄支局(民間訴訟告知センター)」を名乗る葉書が舞い込むケースなども増えている。

それについては、『週刊女性』2018年7月17日号に「偽Amazon詐欺に気をつけて!」という記事が掲載され、さらには、最近のテレビの「ビートたけしのTVタックルSP」(テレビ朝日、9月30日)は、特殊詐欺に真正面から対峙しその実態に迫ろうと、ゲストが次々と詐欺犯に電話をかけたりするものだった。(たまたま、10月9日の新聞で「山口組本部特殊詐欺で捜索」と報道されたが、総本部は神戸市灘区、2次団体「中島組」は大阪市淀川区である。番組でゲストが電話をかけたのはいずれも「06」の局番、関西の一つの拠点だったのだろう)

2 「オレオレ詐欺」の発端とそのシステム

新聞のスクラップ帳の中から、たまたまこんな記事を見つけた。朝日新聞2008年11月29日「明治・大正時代の紙面から」の中で、「振り込め詐欺、オレオレ詐欺の被害が続くが、似た犯罪は大正からあった」として、偽装(その1)「名士の家に声色を使いずうずうしい電話詐欺」(1925[大正14]年4月30日)、(その2)「治療費と称したニセ電報も」(1926年2月9日)という記事が再掲されている。後者は、東京に息子を勉学に出している高知県の親元に、「大けがをして入院中なので費用150円を送れ」という電報が来て、実家は慌てて50円を電報為替で送った、というものだ。実際は、同郷の少年の偽装と判明し検挙された。

離れて暮らす息子や娘の事故をでっち上げて親を混乱させ、また顔の見えない電話や電報、お金を送れる電報為替、これは、現代の「オレオレ詐欺」とまったく「手口」は同じである。ただ違うのは、時代によって変化した道具立て(ツール)と、個人の犯罪ではなくきわめて組織的なもの、という二点であろう。

私は、3月、架空請求詐欺にまんまとひっかかってしまった後、2冊の本に出会った。一冊は、鈴木大介著『振り込め犯罪結社―200億円詐欺市場に生きる人々』(宝島社、2013年12月)である。これは、ライターである著者が、秘密厳守の約束の下、振り込め詐欺の当事者と接近してインタビューを重ねたものである。この本の中にすでに「架空請求詐欺」も登場していて、もっと早くにこの本と出会っていたら・・・と悔いたのであるが。

以下は、この本を参考にしたものである。

3 発端は2001年から2003年

この頃、山口組を始めとする暴力団対策が強化される。2003年夏に、闇金業界総本山だった「五菱会」の「カジック」=梶山進(山口組系美尾組幹部、五菱会ナンバー2)が逮捕され、ある意味「総崩れ」になってしまった。そこで、「回収代行業者として債務者にオラオラ言ってたガキが、闇金でこさえた金で詐欺を始めたというわけ。言わば、振り込め詐欺の組織は五菱会の『再生』だね」(154頁)

ただ、2003年からのオレオレブームを牽引した人々がいわば第一世代に該当するのだが、「脇が滅茶苦茶甘く」て、しかもヤクザは、「人と金の流れが上下一本になっちゃうんで、下が捕まったら上まで一発でアウトですよね。それにヤクザは下の人間の面倒見る組織だから、詐欺屋みたいにいざってときは下だけ逮捕させて、上は安泰みたいな組織にはできない」(239頁)そういう中で、「きちっと組織を固めれば、こんな危うい詐欺でも継続して捕まらずにやっていけるって考えた人たちがいた。・・・これが第二世代なんです」(153頁)

4 詐欺屋としての組織化

中心になるのは、当時は「番頭」(主犯格、リーダー)と呼ばれていた。金を出すのは「金主」だが、「店舗が稼働してすぐに摘発入っちゃったりしたら、金主の持ち出し分の全部が凹みますよね。だから、金主は複数で出し合うことで、リスク分散するんです」(151頁)

当時の金主には、「半グレ資産家、元闇金系の初期振り込め勝ち上がり組」さらには「クラブ、飲食店、風俗、広告代理店、不動産、建築、人材派遣、その他現役経営者」など、見るからにヤバイ?業者が列記されていて、それらのいくつかがそれぞれ「共同出資」することになる。

金主と番頭の取り分は、場合によってそれぞれで、配分率は折半ということもあるし、「番頭が8割持って行く場合もある」という。というのも、この番頭が、電話のかけ役から始まる人の確保を担わなければならず、さらには、「道具屋」(通信環境=トバシのケイタイ(見つかるとすぐに破棄)購入など・口座設置)や「名簿屋」とつるむ人脈や才覚が求められるからである。

個人情報保護が厳しくチェックされる時代だからこそ、逆に、個人情報の漏洩には、その質?の良し悪し、危険度の高低が絡み、それに応じた金銭授受が伴う。「元々旦那が肩書きある仕事だった婆さんとか、高額布団買ったことがある客」とか「バリアフリーリフォームをした顧客リスト」「自治体の米寿お祝いリスト、介護施設の資料請求者名簿」など、これらをエクセルのファイルで納品してくる「太い名簿屋」もいる、ということである。こういう高精度のネタ満載の名簿だと、「ハローページで片っ端からローラーやるのに比べてヒット率は十倍以上かな・・・」(203頁)とも。また、国勢調査も利用するのは当然、中には、詐欺で三回騙されたターゲットだけを集めた「三度名簿」もあるそうだ(216頁)

現代ではそれに加えて、ネットでの通信販売が、氏名、住所、電話番号、カードの番号、あるいは銀行の口座番号、メールアドレスなど、個人情報を自ら丸々提供していることになっている。

図2 詐欺グループの構成図

図2は、「金主」を除外した、詐欺グループ実行犯の構成図である。お金の「出し役=ダシ子」「入れ役=イレ子」や「運び役」の報酬は、相場は扱ったお金の10%だという(現実には、100万円引き出しても2万円から3万円程度とも)。逮捕される危険性も大きいが、彼らには、上部の人間の名前も、組織の実態も知らされていない。トカゲの尻尾切りである。しかし、タカハシは次のように語っている。

「最前線で人柱にするっていうのは、そのダシの人間のことを分かってない人の感じ方ですよね。それは違う。食い物にするんじゃなくて、俺らに協力してもらうことで、そいつらも金を得るんですよ」(149頁)

また一方で、詐欺屋として組織的に実践するためには、「電話かけ役」の役割は大きい。2004年9月には、大規模なオレオレ詐欺の「研修機関」である「オレオレ中野学校」が設けられたそうだ。何と、中野区は私と因縁が深い。

図3 2008年(1~5月)に検挙した容疑者の年齢別構成比(警察庁)

それだけに研修には真剣に取り組むのだと、タカハシは言う。「皆さんには具体的な目標を持ってもらいたいと思ってます。何のために、いくら稼いで、ここを卒業するのか。もし、単に稼いでいい暮らしがしたいぐらいに思ってるんだったら、今日の研修受けないで帰っていいよ、と言います。・・・でも逆に、稼いだ金のデカさに溺れて、酒と博打と薬で廃人になった奴もいます。言っとくけど、ここで真面目にやれば、馬鹿みてーに稼げる、信じられねーほどに! けど、金は怖いです」(166頁)

図3は、2008(平成20)年(1~5月)に検挙された詐欺容疑者の年齢別構成比である。組織上当然であろうが、20代、30代前半合わせて80%となっている。

5 警察庁の対策と増え続ける詐欺被害の件数

もっとも警察庁の方でも、手を拱いているわけではなく、2004(平成16)年以降、次のような対策が講じられている。

2004(平成16)年 12月改正本人確認法施行
2005(平成17)年 5月携帯電話不正利用防止法一部施行
2006(平成18)年 2月電信為替送金停止依頼開始
3月金融窓口における注意喚起依頼
4月携帯電話不正利用防止法全面施行
7月現金書留等送付先住所公表
2007(平成19)年1月ATM10万円規制
2008(平成20)年6月警察庁振り込め詐欺対策室設置
7月振り込め詐欺撲滅アクションプラン公表
10月強化推進期間実施
 

以上の対策の中でも、2006年4月の携帯購入の際の本人確認強化は、詐欺犯にとっても「ケイタイショック!」と呼ばれていたという。しかし、何万円かのお金の代わりに「名義貸し」に応じる若者?も少なくなく、携帯会社の契約数競争という事情も幸い?してここはクリアしたようである。この後の警察庁の対策と被害状況、検挙数との対応は充分に把握できていないが、先の「ビートたけしのTVタックルSP」によると、2010(平成22)年度から昨年度までの被害件数(概数)は以下のようになっている。

2010年度6500件2012年度8500件
2013年度12500件2016年度14500件
2017年度18212件

これは、警察と詐欺犯の「いたちごっこ」というよりは、明らかに詐欺犯が裏を掻いていると言わざるを得ない。ただ、2014(平成26)年の被害総額の600憶円からは減少傾向にあるが(図1参照)、それにしても400憶円前後の途方もない被害金額である。

6 詐欺犯の言い分

私が出会ったもう一冊の本は、NHKスペシャル「職業"詐欺"」取材班による『職業"振り込め詐欺"』(携書フォーマット、2009.10)である。放映は、2009(平成21)年2月9日だったという。

この本では、前書以上に多くの詐欺当事者が語っている。それは、すでに摘発され逮捕された人物からの情報収集によるものだからである(一介のライターとNHKの違いもあるだろう)。ここでは、この2冊目の本に語られている詐欺当事者の言葉を紹介しよう。

▽名義貸し、人集め、罪意識?

まず、詐欺屋を運営していくためには、マンションの部屋の契約、携帯電話の購入、銀行口座の開設などが必要である。そして、そのためには個人の名義がなければならない。ところが、リーマンショック(2008年9月)以降の不況下では、キャッシュカード、障害者手帳、介護保険証、健康保険証などを1万円(中には5万円、10万円)ほどの報酬で売る「世の中にあぶれているフリーターたち」が溢れていた(221頁)。さらに困った時には、「養子縁組させて、苗字が変わる(から)、口座も携帯も全部作れる。(ただし)1週間サイクル」(52頁)だと。

また、電話をかけて騙す仕事や、お金を入れたり、出したりの一番危険な「イレ子」「ダシ子」を集めてくることに対しては次のように言う。

「人を殺すわけでもないですからね。人殺しや強盗やれって言われたら、それはできないですけど、カネを引き出すだけなら・・・」(78頁)

「部下となるメンバーを集めるのは簡単だった。日払いで3万円以上などという条件でインターネットの掲示板に求人を書き込むと、すぐに問い合わせがきた。地方から出てきて、友人の少ない大学生。契約を打ち切られた派遣社員。・・・中には、友達がいなくてとか、誰かと一緒に何かやりたいという、そんな思いを持っているやつも結構いましたね。」(99頁)(もっとも、現在は、中国籍、台湾籍など外国籍の人間も増えている)

▽これまでとは違う新しい犯罪層

「有名私立大学の現役の学生、全国でも有数の進学校の出身者など、周囲からは「エリート」と見られている若者たちが加わっていた」(128頁)

2007年9月16日に逮捕された戸田雅樹は当時29歳。小学校2年の時に両親が離婚。本人は母親と暮らす。

逮捕当時は、府中の23階建てマンションの19Fで一人暮らし。インターネットオークションで、1000万円かけて買いそろえたアニメなどのキャラクターフィギュアがあり、愛車はトヨタのセルシオ(600万円)。さらに2億4000万円の現金がそのまま部屋の中にあったという。府中市の全日制都立高校出身。バスケ部で活躍した後、大学受験のはずだったが・・・。180センチの長身で、「俳優になりたい」とも言っていた。詐欺の仲間内からは「キング」と呼ばれていたと(128-134頁)

野島知紀(逮捕当時24歳)松山市出身。父親は地方公務員、母親は薬剤師。剣道初段だが中途で止める。医学部志望。ただし一浪後の受験でも失敗し、その後上京したという。

森村裕司(逮捕時23歳)

早稲田大学の現役学生。高校も早稲田の付属校。高2の時に両親が離婚し、本人は父親と相模原市に住んでいた。高校で1年留年したが、2004年早稲田大学に進学。だが、周りは個性派ぞろい。そこで「ホリエモンとかヒルズ族の影響があるからだと思いますが・・・やっぱりカネで何とかなる世界じゃないですか、今の日本は。」(161頁)彼は、他人名義の携帯電話の斡旋が仕事だったという。

この他、就職にあぶれたり、内定取り消しを受けたりした学生に対して、幹部は次のように語っている。

「あんなの、超オイシイですよ。・・・俺はできる人間なのに、やってらんねえよと思って、腐って、腐りかけた人間が一番オイシイですよ。こっち来い、こっち側に来い、と引っぱりますね。・・・こいつらは、本当、"スーパー原石"ですよね」(229頁)

▽詐欺ビジネスの「虎の巻」(社外秘)を紹介しながら、ある幹部の話

「目標の売り上げを達成するためには、綿密なミーティングが必要ですが、その際も注意が必要です。最低、2駅以上離れたところでやります。なんで2駅かというと、警察の管轄が違うからです。」「風呂場には水を溜めておいて、何かあったら、携帯をバキッと折ってバコンぶち込めって言ってあります。」(226頁)

「(部屋を引き上げる時)最後は掃除です。全員で隅々まで掃除させますね。ハウスクリーナーや粘着テープ、それにコロコロクリーナーを使って。髪の毛一本も残すなと。髪の毛一本でもDNA鑑定できますからね。あと持ち込んだゴミですね。サンドイッチとかのゴミも。だ液が残っている可能性があるんで、全部回収しますね。指紋ももちろんですけど。」(227頁)

「捕まったやつを徹底的に研究して、反面教師として勉強するんですよね。なんでパクられたんだろうって。だから、いま生き残っているやつらというのは、究極にセキュリティ能力が高いですよ。」(227-228頁)

「(海外口座は)香港の銀行が3つ。ドイツ、アメリカ、韓国でそれぞれ2つ。あとイギリスで1つですか。全部で10個。オフショアと呼ばれる租税回避地ですね。日本というのは世界で一番税金が高い国なんで。日本の銀行に1000万入れたところで、年利いくらつくかの話ですよね。けど、海外のオフショアの銀行に入れたら、年利10%とか20%ですよ。これが、振り込め詐欺の行き着く最後の砦だと思うんですよね。」(232-233頁)

「オモテの社会のビジネスでも、結局、だまし取って商売やってるみたいなものですから。買わせてなんぼ、売ってなんぼという意味では、結局は人をだましていることに変わりはない。商品はありますけど、同じじゃんって。」(245-246頁)

7 現代社会の「鬼っ子」を根絶するためには

さて、ここまで現在の詐欺屋(裏ビジネス)の内部に立ち入ってきたが、ある人から次のように言われた。「あなたは詐欺に騙されていながら、何だか詐欺屋に感心したりへエ~と驚いているばかりで、人の金を騙してふんだくる詐欺集団への怒りがあまり感じられないのですが~」と。

確かに半分は当たっているかもしれない。なぜなら、私の怒りは、詐欺屋たちに直接に向けられる前に、彼らを生み出し、育て、そして、「日本には、もう金持ちか"コジキ"しかおらんのですよ」(NHKスペシャル前掲書222頁)「やっぱりカネで何とかなる世界じゃないですか、今の日本は」(同161頁)などと詐欺犯に堂々と? 言わせてしまっている日本の現実が悔しい。怒りと悔しさの多くが現代社会に向かってしまっているためだろう。

また、「闇金も保証金も、金のないところからむしり取る稼業です。でもオレオレは違う。そりゃ、大事に貯めていた老後生活の資金とかってあると思いますよ。それでもオレオレはその日にアタック即日集金なんで、金借りさせてまでとか、ないものを無理やり用立てさせるって絵図じゃないんですよ。あるから払える。これ全然違うことですよ」(鈴木大介著、118頁)という彼らの、罪意識を覆い隠して完全に開き直る盗人の態度は断じて許せない。同時に、それを半ば支えているような現代社会。盗人の言うように、「ビジネスとは、買わせてなんぼ、売ってなんぼ」「オモテのビジネスも結局お客からだまし取って商売やってるみたいなもんだ」という言葉に暗澹たる気分になる。

若い人も高齢者も、暮らしそのものに著しい格差がついたままである。格差是正の動きはあまりに微弱である。働く場の「正規・非正規・派遣」労働の格差是正も遅々としている。高齢者の世界だけに限っても、アンチエイジングを銘打つ多くの美容化粧品、頭髪産業、さまざまな健康食品、多種多様な医療品、健康のための運動ビジネス等々、冷静に見ても、何と多くの誇大広告という「だまし」を含むビジネスが蔓延し、それらに多額のお金が動いていることか。

そして、政治もまた、それにブレーキをかけられてはいない。経済にモラルが希薄になっているのに輪をかけて、政治にモラルのカケラも見えない。それでいながら、今年から「道徳」が教科として教えられ、評価されるのだという。

「特殊詐欺」という裏ビジネスは、このような現代社会にまんまと紛れ込んで、さほどの「違和感」なく生き延びているのではないか。

詐欺に騙される人間を、詐欺犯自身だけでなく、多くの周りの人も、「何と馬鹿な、愚かな人よ!」と、かつての私自身もそうであったように、他人事として嘲笑しているような気がする。携帯電話業界、不動産業界、その他の大手産業も、「詐欺犯」かも?と分かりつつもお金が入って来る限り無視を決め込んでいるのではないか。警察の対応も、いまいち本気度が見えないのは私の僻みか・・・。

今では、詐欺集団は、電話よりもメールに力点を置いているようである。「三菱UFJ銀行」名で「アカウント情報の有効期限が切れました」というメール。あるいは「OCN 重要なお知らせ」など、ログインを求めるものも増えている。これらもすべて詐欺である。

「騙されやすい」私に向かって、周りは声高に「読むな」「聞くな」「関心を持つな」「すべからく瞬時にシャットアウトせよ!」と言う。詐欺の蔓延する社会で、騙されない智恵だとは思うが、これだけでは、ますます「人と人との関わり」を切り捨てる社会が加速するだろう。

もちろん、詐欺に騙されない智恵を共有することは大切である。彼らは知恵をフル回転させて、手口をさまざまに更新し、バージョンアップしてくる。それには十全に賢く「手を出さない」ようにしつつ、一方で、「生きる」こと、「共に生きる」ことをじっくりと考えられる社会づくりが、改めて求められているのではないか。詐欺屋たちは紛れもなく現代社会の「鬼っ子」なのだから、このままならばいつまでも生き続けるかもしれない。

それだけに最後にひとこと言っておきたい。「人を騙しての盗み」は、「人として最低の」、夜眠れなくなるほどの破廉恥な行為であることを、誰に向かっても、常に明らかにしておきたい、と。

いけだ・さちこ

1943年、北九州小倉生まれ。お茶の水女子大学から東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。前こども教育宝仙大学学長。本誌編集委員。主要なテーマは保育・教育制度論、家族論。著書『〈女〉〈母〉それぞれの神話』(明石書店)、共著『働く/働かない/フェミニズム』(小倉利丸・大橋由香子編、青弓社)、編著『「生理」――性差を考える』(ロゴス社)、『歌集 三匹の羊』(稲妻社)、『歌集 続三匹の羊』(現代短歌社、2015年10月)など。

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