特集●どこに向かうか2019

「トランプ再選」はあるのか

攻防の焦点はロシア疑惑/リベラル民主主義の命運かかる

国際問題ジャーナリスト 金子 敦郎

トランプという人物は何をしているのか。大統領の2年間に選挙戦の1年を加えた3年間で、それははっきりしたと思う。2つの世界大戦をはじめ多くの戦争を乗り越え、半世紀の冷戦に勝利したリベラルな民主主義の基本理念や制度を嘲笑し、破壊しようとしているのだ。そのトランプを産み落としたのが、欲望を野放しにして途方もない「格差と分断」を世界に広げたグローバリズムだった。

「トランプの米国」だけではない。大衆の憤懣をエリートに対する反感と偏狭なナショナリズムへと駆り立てるポピュリズムは欧州でも右翼政党台頭の潮流を作り出した。英国は戦略なき「欧州連合(EU)からの脱退」という自縄自縛の混迷に陥った。フランスも改革を掲げた若きマクロン政権が「黄色いベスト運動」に包囲されている。ひたすら成長を追い求めてきた資本主義は、グローバリズムと情報技術革命が相まった繁栄を謳歌しているうちに、危険な横道に入り込んでしまった。爛熟した文明が蛮族に滅ぼされてきた歴史のアナロジーが頭をよぎる。

トランプ政権が3年目に入った2019年からの20年11月の大統領選挙までの間、米国政治の動きは世界が注視する中で一点に収斂する。トランプ氏が再選を果たすのか。民主党がそれを阻止できるのか。

「政府閉鎖」―民主抵抗で長期化

トランプ政権は与党・共和党が上下両院の多数を占めるという有利な情勢の下でスタートを切った。トランプ氏は「アメリカ・ファースト」のスローガンのもと、選挙公約に掲げた無理筋の政策を、大統領命令を乱発することによって次から次へと強行突破を図り、米国内外で反発と混乱を引き起こしてきた。与党・共和党はトランプ氏の権力にひれ伏して傍観を決め込み、両院の少数派・民主党の抵抗は無力に終わった。

トランプ氏は「ツイート」を通して国民に政策を訴えた。その2 年間でトランプ氏は8,158回の「ウソ」(false)ないし「誤った理解に導く」(misleading)発言をした(1月21日ワシントン・ポスト紙)。トランプ氏は発言内容を正したり、非難したりする報道を逆に「ねつ造」(fake)報道と決め付け、自分に批判的なメディアを「国民の敵」と攻撃した。トランプ氏の「事実」に基づかない発言を追及されたホワイトハウスのスポークスマンは、大統領の発言は「もう一つの事実」だと答えた。

各種の世論調査によると、トランプ氏を強く支持する人の8、9割はトランプ発言を事実または真実と受け取っている。彼らのほとんどはトランプ支持の立場を鮮明にしている一部の新聞やテレビ・ラジオを通じてしかニュースに接していない。民主主義社会はこうした「政治手法」を取る権力者に出くわしたことはなかった。はじめは戸惑ったメディアも体制を立て直し、トランプ政治のはじめの2年間はトランプ対メディアの攻防戦に終始した。2019年入りとともに、トランプ氏との対決の構図はトランプ党と化した共和党対民主党へと移行した。

昨秋の中間選挙で野党・民主党が下院の多数を奪回したことによって、民主主義政治の原理となる大統領と議会の「力のバランス」が回復されたからだ。2大政党が競い合う米国政治では、上下両院の勢力がねじれることは珍しくない。むしろ普通だ。しかし、「ねじれ」がこれほど重要な意味を持ったことはなかった。

問題をはらむ選挙公約の中でもトランプ氏が重視してきた一つが、「不法移民」の流入を阻止するためにメキシコとの国境に壁をめぐらす計画。2019年度予算に盛り込まれた57億ドルの「国境の壁」建設費に、下院民主党が「壁はなにも解決しない」と反対した。つなぎ予算の協議も行き詰まり、国家公務員の給与支払いができなくなった昨年末の22 日、政府機関は閉鎖に追い込まれた。国家の安全にかかわる軍・情報機関、警察その他の一部要員が無料奉仕で業務を続けるだけで、米政府の機能は停止した。

トランプ氏はフロリダの豪華リゾートでの休暇を断念して大統領執務室で「1人寂しくクリスマスを過ごす羽目になった(自身のツイート)」が、政府閉鎖が長引けば世論の批判が民主党に向かうと読んでいたようだ。しかし、下院議長(多数党のトップのポスト)についた民主党ペロシ氏はオバマ政権の下でも下院議長を務め、ワシントン政治の表も裏も知り尽くした鉄の女。80歳に近く、トップの座を譲るようにとの党内一部の声は広がらなかった。同党上院のトップ、シュマー院内総務と組んで、トランプ氏が小出しの譲歩をちらつかせても揺れることなく、反対を貫いた。

「思惑外れトランプ氏敗北」

政府機関が長期にわたって閉鎖されると、給料をもらえない80 万人だけでなく一般市民の生活が大きな影響を受け、国の経済活動がその分、停滞することになる。閉鎖が1カ月におよび、なおも解決の見通しがつかないとなって、世界中にあわただしい動きが出てきた。トランプ氏が仕掛けた米中貿易戦争で高関税の引き上げ競争が始まり、中国経済は減速に追い込まれた。だが、貿易戦争には勝者も敗者もない。米国経済にもじわじわと影響が表れ始めていた。そこに政府封鎖の長期化が重なったのだ。

国際通貨基金(IMF)は最新世界経済見通しを3.5%へと、昨年10月の前回予測から0.2ポイント引き下げた。世界中から官民の経済関係者数千人が毎年スイスのダボスに集まる世界経済フォーラム(ダボス会議)がちょうど、この時期に開催された。会議の話題はもっぱら、米政府閉鎖は世界の景気後退を加速させる、いつまで続くのだろうーとの懸念だったと伝えられている。

ワシントン・ポスト紙記者が大統領選挙でトランプ氏支持が多数を占めた地域を歩いたルポ記事によると、「次の選挙ではもうトランプには投票しない」という声がかなり聞かれた。同紙は上院の多数を占める共和党議員54人のうちの40人の議員ないし補佐官にも直接取材したところ、閉鎖を解除すべきと考える議員が少なからずいた。しかし、トランプ氏が怖くて声を上げることはできないという。共和党上院が解決案をまとめてもトランプ氏が受け入れるとは思えないという傍観者も少なくなかった。

政府閉鎖が35日目に入った1月25日、ワシントン・ポスト紙・ABC放送の世論調査が明らかにされた。泥沼化した政府閉鎖の責任はトランプ氏と共和党にあるが53%、ペロシ下院議長と民主党にあるが34%、さらにトランプ大統領支持は37%、不支持は58%。トランプの思惑は全く外れた。景気の足を引っ張っているとの国際的な批判の圧力も重なってトランプ氏は大きな譲歩を余儀なくされた。民主、共和両党が「壁」建設資金抜きのつなぎ予算を通して、閉鎖は一時解除となった。

トランプ対ペロシの初戦はペロシ氏が勝った。しかし、トランプ氏は「壁」をあきらめたわけではない。同世論調査がトランプ、ペロシの両トップのこの間のパーフォマンスを別々に聞いたところ、評価せずがトランプ氏60%、ペロシ氏が54%だった。ペロシ氏には強硬策だけで世論の支持を得るのは難しいとの警告だろう。

トランプ氏は共和党の大統領候補を選出する予備選挙で、同党幹部の候補者に荒っぽい攻撃を加え、党主流から強い反感を買った。しかし、党候補指名獲得から大統領選勝利へと権力を強めながら、得意の脅し透かしで党を支配下におさめていった。マケイン氏(2018年死去)など少数の穏健派、良識派といわれる有力議員もいた。しかし、トランプ氏は全く無視、何人かは昨年の中間選挙で引退したり、出馬を取りやめたりして、共和党はトランプ党になってしまった。選挙を控える議員は党を支配する権力に弱い。にらまれて選挙がやりにくくなるのが怖いからだ(日本でも安倍一強体制)。

共和党ではもとは民主党穏健派と重なりあう有力議員が一角を占めていた。これが米国政治の大きな横ブレを防いで、政治の安定を保障してきた。しかし、冷戦終結のあと、両党の対立が年々、先鋭化の道をたどって穏健派は徐々に排除されていった(「現代の理論」デジタル17号の拙稿「中間選挙は『内戦(南北戦争)第Ⅱ幕』」参照)。ソ連崩壊で主要な外敵がいなくなり、政治の重点が内政に移ったことが理由の一つとされている。争点になったのが、死刑廃止、人工中絶の是非、男女同権、同性愛者を含めた少数派の権利と差別など保守とリベラルを隔てるイデオロギー問題だった。

待ち受ける「ロシア疑惑」

トランプ氏は大統領として大きな「成功」を収めていると自賛はするが、これはナルシシズム(自己陶酔)。大統領として嘘を事実といい、公には言ってはならない人種や性差別の言葉を繰り返して、本音を言えなかった人たちの鬱積した不満を政治勢力に動員した「政治力」は、良かれ悪しかれ大したものだ。しかし、その政策は混乱を引き起こすばかりで、「成功」といえば、四半世紀にわたって歴代大統領が何もできなかった北朝鮮核危機を、金正恩氏とのトップ会談でひとまず、話し合いに持ち込んだことぐらいだろう。

これまでの政治の常識では、このままでトランプ氏が再選を果たす可能性は低い。しかし、簡単にそうとは言い切れない事情がある。トランプ政権が発足したときの支持率は40%前後と歴代の最低水準だった。新大統領は70%とか80%とご祝儀相場の高い支持率をもらうが、この数字は順次、下がっていくのが普通。しかし、トランプ氏の支持率はこのまま下がることなく安定、2年経ってみれば普通の数字になっている。トランプ氏が固い支持層を持っていることを示している。

前回2016年の大統領選挙で、民主党はリベラル派のエリート、元大統領夫人のクリントン氏を立て、異端のトランプ氏に敗れるとは全く予想できなかった。民主党はこの敗北のトラウマを重く背負い込んでいる。トランプ氏には図りがたい破壊力もある。トランプ再選阻止を果たせるか、不安感はぬぐい切れない。反トランプのメディアも同じような状況にあるように見える。

だが、トランプ氏には乗り越えなければならない高い「壁」が待ち受けている。なかでもトランプ氏に決定的なダメージを与える可能性を秘めているのがロシア疑惑。それに続くのが「大統領のビジネス」が憲法違反の権力乱用(利益の相反)に問われるケースだ。

大詰めの特別捜査

ロシア疑惑とは。トランプ氏が予想外の勝利を収めた大統領選挙で、プーチン大統領の直接指揮下にあるロシア情報機関がトランプ選挙対策本部の幹部と共謀して、フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアに対立候補クリントン氏の不利になるフェイク情報を大量に流したとされる。秘密工作がトランプ勝利につながったのかは、立証は困難だ。しかし、司法長官任命の特別検察官モラー氏(元FBI長官)によってロシア情報機関の工作員ら13人(ロシアに戻っている)がすでに起訴されていて、この選挙介入工作が行われたことに疑いはなくなっている。

これからの焦点は、トランプ陣営の誰がどうかかわっていたのか、トランプ氏が知っていたのか、あるいは直接関与していたのか。

さらに事件は「でっち上げ」「魔女狩り」と強く攻撃するトランプ氏には、大統領特権を乱用して特別捜査を妨害した疑いがかかっている。  

事件解明のカギを握るとみられる人物が3人いる。トランプ選対本部長を務めたM・マナフォート氏。弁護士でロシアにコネクションを持つロビーストで、2013年のウクライナ政変で大統領の座を追われロシアに逃亡したヤヌコビッチ氏の政権にかかわっていた。モラー特別検察官によって資金洗浄、脱税の罪で逮捕、起訴され有罪。減刑の代わりに捜査に協力する司法協力に応じると伝えられたが、取り消したとされる。トランプ氏は喜んで勇気ある男と褒め上げた。

M・フリン氏。元米軍国家安全保障局長でトランプ陣営の軍事問題顧問から政権の最初の安全保障問題補佐官に。政権発足前から駐米ロシア大使と接触するなどロシア疑惑にかかわっていたことを否定、偽証したとして逮捕され、補佐官は1カ月で辞任、減刑の見返りに司法取引に応じモラー捜査に協力することになっている。

M.・コーエン氏。長年トランプ氏の顧問弁護士を務めた。トランプ氏と関係があったとする女性2人に「口止め料」を支払い、選挙資金不正使用で逮捕された。トランプ氏への過剰な忠誠心からその悪行を隠すことが義務だと思ってきたと反省し、司法取引で疑惑捜査に協力を約束した。

モラー特別検察官の捜査は最終局面に入っており、近く報告書がまとまるとみられている。ロシアは長い冷戦の敵対国・ソ連の後継国で、冷戦後も対立関係が続いてきた。米国の大統領選挙の結果を左右しようとするロシアの陰謀にトランプ氏が何らかの関わりを持っていたとなれば、大統領による国家に対する裏切あるいは反逆という、米国史最大の政治スキャンダルだ。トランプ氏再選かどうかの話ではなくなる。民主党は直ちに議会の弾劾裁判に取り掛かるに違いない。

トランプ氏が疑われている捜査妨害も重罪だ。ロシア疑惑が浮上し、FBIが捜査に乗り出したことを知ったトランプ大統領はコミー長官(当時)に、自分に対する忠誠の誓約を要求、同長官は拒否した(トランプ氏は捜査は政治から独立という原理をしらなかった?)。トランプ氏はコミー長官を解任した。トランプ氏はその後もセッションズ司法長官に、執拗にモラー特別検察官の解任や捜査打ち切りの圧力をかけ続けた。

トランプ氏はこれを拒否するセッションズ長官を昨年11月更迭した。トランプ氏が捜査報告書の公表を拒否させるための人事ではないかと観測されている。今月はじめ後任に指名されたW・バー氏は議会聴聞会での追及を受けて報告書の原則「公開」を約束はしているが、自己防衛のためには手段を選ばないのがトランプ氏だ。

現職大統領は訴追できないという有力な解釈がある。しかし、この特権があったとしても辞職後は消滅する。ロシア疑惑、および司法妨害でトランプ氏が法律違反に問われなくても、何らかのかかわりを持ったと判断されれば、再選はありえないだろう。

「プーチン好き」の謎

トランプ氏はなぜ、モラー特別検察官をこれほどまで恐れるのか。トランプ氏が自ら疑惑をさらに深めさせている背後には、トランプ氏のビジネス上のロシア・コネクションがありそうだ。トランプ・ファミリーの本業はニューヨークの高級マンションの建設・経営やリゾート地でのホテルやゴルフコースの開発・経営だが、この資金調達を引き受けたのは冷戦終結後に勃興したロシア財閥系の金融機関だという。モスクワでミス・ワールド大会を開催し、ビジネスの根拠地、ニューヨークのトランプタワーに倣ってモスクワ・トランプタワーの建設計画を進めていた。こうしたビジネスを通してプーチン周辺との関係ができたことは想像できる。

トランプ氏は前任大統領のオバマ氏ら歴代大統領を蔑視し、プーチン大統領を素晴らしいリーダーと称賛する。プーチン氏はウクライナ秘密戦争やクリミア半島併合で欧米から激しい非難を浴びているが、トランプ氏はプーチン批判をしたことはない。  

なぜだろうか。プーチン大統領記者会見で米国人記者が「あなたはトランプ氏の何か弱みを握っているのか」と質問したことがある。もちろんプーチン氏は「馬鹿らしい質問」と言い捨てただけだった。中国との経済戦争を進めながらも習近平・中国主席を「優れた指導者で、好きだ」と評価、北朝鮮の金正恩氏も素晴らしい指導者で話が分かると持ち上げている。東欧を支配する極右指導者たちとも親交を求めている。しかし、プーチン礼賛には「独裁者好き」だけではない何かがありそうだが、まだ謎だ。

「大統領のビジネス」

政府高官は金銭の問題で身をきれいにすることが求められる。法律によって資産を公開し、株や証券類は全て売却することが定められ、ビジネスにかかわる資産は第3者が運営する基金(blind fund)に預託することが義務付けられている。大統領選挙に出馬する者は納税証明書の公開が条件になっている。しかし、大統領と副大統領には憲法に、大統領は外国から金品を受け取ってはならないという条項があるだけで、法律の対象から外されている。自主的に対応してもらうということである。歴代大統領はみんなこれに従ってきた。

トランプ氏はこうしたルールをすべて無視してきた。ビジネスを統括するトランプ・オーガニゼーション(トランプ社)の運営は2人の息子にゆだね、直接はかかわらないとしているが、最高責任者の地位は握ったままだ。

トランプ社はワシントンのホワイトハウス近くに豪華なトランプ・インターナショナル・ホテルを経営していて、就任式の大パーティーがここで開かれ、外国政府の高官らが多数宿泊した。その後も同ホテルは内外のロビーストの宿泊や商談の場所として賑わっている。ニューヨークのトランプタワーには外国政府の事務所が入っているし、多数の高級アパートにも米政府にかかわるビジネスに従事する外国人が住んでいる。

トランプ氏は休暇をお気に入りのフロリダのリゾートクラブ、「マラ・ラ・ゴ」で過ごすことが多いが、ここは安倍首相や中国の習近平主席など外国首脳との会談場所にも使われている。トランプ氏の長女は高級ファッションなどのビジネスを手広く展開し、公の中国訪問の機会を利用して、そのブランドを売り込んだ。夫のクシュナー氏も不動産業や投資ビジネス、2人の息子も同じように不動産、投資ビジネスにかかわっている。

こうした「大統領のビジネス」が多額の利益を生んでいることは間違いない。憲法や法律違反の疑いが濃厚だが、それ以前に民主主義国では倫理的に許されない「利益相反」である。ワシントンの弁護士や大学教授らでつくる『ワシントンの責任と倫理を求める市民(CREW)』などが各地で訴訟を起こしている。

民主党は多数派を取った下院の調査権を発動して、まずはトランプ氏に納税証明書の提出を求める準備を進めている。そのあとも「利益相反」の追及をトランプ攻撃の有効な戦術に使う方針を決めている。トランプ氏は拒否して裁判闘争になり、結果を得るには時間が必要になると思われるが、世論に訴えトランプ氏を追い詰める効果は大きいとみられる。

拮抗する両党勢力基盤

トランプ氏が1期大統領で終わるのか、あるいは再選されて8年の長期政権を全うできるのか。最終的にそれを決めるのは選挙である。米国民の政治地図は民主、共和両党と無党派にほぼ3分されている。大統領選挙や連邦議会選挙で勝利するには、両党がそれぞれ自分の支持層を固めたうえ、無党派層の多数を獲得し、できれば相手党の一部も取り込まなければならない。最近の大統領選挙の記録はそれを示している。

        民主党候補得票率(%)    共和党候補得票率(%)

2000年   ●ゴア    48       ○ブッシュ  48

    (実数ではゴアが50万票上回った)

2004年   ●ケリー   48       ○ブッシュ  51

2008年   ○オバマ   53       ●マケイン  46

2012年   ○オバマ   51       ●ロムニー   47

2016年   ●クリントン 48       ○トランプ   46

    (実数でクリントンが300万票上回った)

獲得票数で上回りながら敗北した2000年のゴア、2016年のクリントン両氏を含めて、勝者と敗者の獲得票数は46~53%の幅の中に納まっている。ランドスライド(雪崩)大勝とされるオバマ氏の2008年の勝利でも獲得票53%で、敗れたマケイン氏との差は7ポイント。予想外の勝利を収めたトランプ氏の獲得票は46%で、負けたクリントン氏より2%少なく、2012年にオバマ氏に敗れたロムニー氏の得票も下回っている。

こうした大統領選挙戦の結果は、民主、共和両党ともに、それぞれが固い支持基盤を持っていることを示している。選挙結果はその基礎の上に5%前後の上積票を獲得できるかで決まる。加えて、米国の独特の大統領選挙制度が選挙結果の予測をさらに難しくさせている。トランプ氏の当選をほとんど予測できなかった世論調査機関や主要メディアの世論調査が批判を浴びたが、クリントン氏が得票総数で2%に当たる300万票差でトランプ氏を抑えたのは、予想通りの結果だったとも言える。

2020年までの2年間に「トランプ失脚」といった劇的な政変が起こる可能性は、決して低くはない。それが起こると、冷戦終結後に固定化してきた民主、共和両党勢力の力のバランスに大きな変動を伴い、米政治の転換が始まると思う。

(注:英国から独立するとき、英国直轄の13植民地の連合体として米国を形成した。その後、各州の権限を順次国家へ集約していくが、この伝統が今も州代表が大統領を選ぶというこの制度に残されている)。

かねこ・あつお

東京大学文学部卒。共同通信サイゴン支局長、ワシントン支局長、国際局長、常務理事歴任。大阪国際大学教授・学長を務める。専攻は米国外交、国際関係論、メディア論。著書に『国際報道最前線』(リベルタ出版)、『世界を不幸にする原爆カード』(明石書店)、『核と反核の70年―恐怖と幻影のゲームの終焉』(リベルタ出版、2015.8)など。現在、カンボジア教育支援基金会長。

特集・どこに向かうか2019

  

第18号 記事一覧

  

ページの
トップへ