この一冊

『どの子も笑顔で居られるために―学童保育と家族支援』(下浦忠治、高文研、2018年6月、1404円)

悲しみの防波堤になりえる学童保育

放課後児童クラブ支援員 川島 祐一

『どの子も笑顔で居られるために―学童保育と家族支援』

(下浦忠治、高文研、2018年6月、1404円)

本書は、これまで東京都品川区で学童保育指導員として三十五年間働き続け「学童保育と家族支援」に関わってきた著者による子どもの放課後やあそび、学童保育等に関するさまざまな論考を再構成したものである。その構成は、学童保育のみならず放課後の子どもの福祉・子育て支援問題に広く目配りをしてきた著者ならではのものである。本書を読む学童保育関係者は学童保育の独自性・役割について理解を深めることはもちろん、それ以上に、広く〈子どもの放課後〉や〈家族支援〉の問題に目を向ける契機となるだろう。

その理由として、本書では〈子どもの放課後〉という枠組みと〈家族支援〉の議論とを区別せず論じようとする姿勢が、タイトルや章構成を通して一貫して示されていることが挙げられる。このことは、近年の制度変容の影響や日々の多忙な実践に追われ、近視眼的になりつつある学童保育関係者に対して、「「子育て」とは「子どもに、手を尽くす」ことです。しかし、大都市で広がる全児童事業は、個別化とは反対に、広く浅く「小学生全般」という括りに対して「遊び場・活動の場」を提供すればよしとする施策になっています。これでは「援助を必要とする子ども」は置き去りにされているのではないか」(99-100頁)と疑問を呈しているように思われる。

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たしかに、子ども・子育て支援新制度との関係から、学童保育のあり方がこれまで以上に問われる時代となったことは事実である。さらに、放課後の子どもの生活とあそびの保障を学童抜きで実現するのは難しい時代とさえ言えるだろう。それゆえ、ともすれば学童保育の議論や制度の充実を〈子どもの放課後対策〉の充実と混同することも多いのではないだろうか。そのことは「2013年、社会保障審議会児童部会の放課後児童クラブの基準を検討する専門委員会で、学童保育に携わる指導員の資格が検討されました。そこで『児童の遊びを指導する者』と謳えばいいのではないかとの意見が多く出されました」(86頁)によくあらわれているように思われる。たしかに「遊びを軸とした生活を営んでいる」(86頁)学童保育だが、それだけでは仕事全般に対応できない。

小学1年生から6年生の性格もそれぞれ異なり、家庭環境も異なる異年齢集団と時を共にする「学童保育指導員は生活支援(プレイワーク+ケアワーク+ソーシャルワーク)と言う固有の役割を担う職種として認知されてしかるべきと私は考えています」(88頁)と指摘する。

例えば、「三十五年間の流れの中で出会い、寄り添った子どもたちの中には、厳しい生活環境のなかで暮らしていた子どもたちが何人もいました」(2頁)その子どもたちや養育者を「子育ては親の責任というのではなく、閉ざされた孤立の子育てにならないように、かかわりあって子育てをしていく関係づくりこそが大事だと思うのです。困り感を抱いたときには社会的資源の援助を受けることが当たり前という認識を広げていくことが必要だ」(57頁)という視点を軸に「社会的資源」(保育園・学童保育所・児童館・福祉事務所・子供家庭支援センター・児童相談所・小児発達支援センターなどや、ファミリーサポート事業などの子育て支援事業)と紡がれるノットワークの実践に目を向ける必要は大きいだろう。

課題は多いが、いま学童保育に通う児童は110万人。様々な事情に蓋をして通う子どもたちに、安心して過ごせる居場所にするために、「学童保育(放課後児童健全育成事業)は社会福祉法で第二種社会福祉事業に位置付けられている事業であることをもう一度しっかり意識」(101頁)し、学童保育こそがコーディネーターやセンター的機能を発揮することができるということももう一度しっかり認識しなければならない。

というのも、日本の子どもの貧困率は、相変わらず高く、所得再配分後に格差が広がるといった異常な状態にある。また、顕在化している「虐待相談件数」は統計を取り始めた26年前の実に110倍になっているとのことだ。学童保育は、子どもの生活を「丸ごと」とらえるので子どもの困難に気づき易い職場である。さりげなく隣に居て、心に寄り添う。「変化」をキャッチ出来る感性をもって向き合える場に居るのだから。

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最後に、「今日の子どもたちが置かれた環境のなかで、二度とこない子ども時代に、いきいきとした生活を保障していくには、学童保育指導員として何が求められているのかを綴り、伝えていきたいと思いました」(3頁)と本書をまとめた意図が述べられている。

「あらためて、学童保育の社会的役割って何ですか? と聞かれれば、これまで、子どもたちの生き生きとした放課後の生活を継続的に保障することで、働き続けながら子育てする家庭を支えること、と答えてきました。福祉としての学童保育は、福祉の視点から必要とする子どもたちすべてに保障され、貧困・養育困難家庭を支える役割を担う事業であることを添えたいと思います」(99頁)を受けて、著者が講演の際によく言うフレーズでもある「そこに行けば受けとめてくれる大人がいる、そこに行けば安心できる仲間がいる明日を楽しみにできる生活」を、実践的課題として、読者が引き受けていく論点だと思う。

ちなみに、本書は「そこが知りたい学童保育ブックレットシリーズ」の3冊目にあたる。シリーズ1冊目に刊行されたのが、糸山智栄・小林隆司編著『学童保育に作業療法士がやってきた―困った行動には理由がある作業療法士の視点に学ぶ発達障害児支援』。2冊目に刊行されたのが、糸山智栄・鈴木愛子編著『子どもにやさしい学童保育―学童保育施設を考える』である。

これら3冊を通して読むと、人が支えあうってどういうことなのか家庭支援、保護者会のつながり子どもたちが放課後の時間を過ごす施設の大切さなどを考える契機となるだろう。指導員にとって励みになるだけでなく、学童保育のさらなる充実にもつながるはずだ。また、学童保育にお子さんが登所している保護者はもちろん、これから学童保育を利用する方にとっても励みになると思われる。

かわしま・ゆういち

1982年生まれ。高等学校教員、障害者福祉職業指導員、放課後児童クラブ(学童保育)支援員。季刊『現代の理論』【若者と希望】に「心が困ったときの家出先」2011年春号VOL27。「安心して絶望できる社会」2014年デジタル夏号VOL2に寄稿。

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