論壇

接種の積極勧奨を再開させてはならない

子宮頸がんワクチン接種被害事件をめぐって

前札幌学院大学教授 井上 芳保

子宮頸がんワクチン(正確にはヒトパピローマウィルス対応ワクチン。以下HPVワクチン)の接種をめぐっては、接種を推進したい側と副反応被害を訴える側との攻防が続いている。2016年7月27日には15歳から22歳の被害女性計63人が製薬会社2社を相手どった集団訴訟を東京、大阪、名古屋、福岡の4地裁で起こした。製薬会社側は症状とワクチン接種との因果関係を一切認めていない。裁判は長期戦になると予想されている。2016年は問題が訴訟局面に変わり、攻防が激しさを増した年だったと言える。本欄ではこの問題のこれまでの経緯を振り返りつつ考えてみたい。

1.重篤な被害が出て定期接種の積極的勧奨は中止された

日本ではこのワクチンは、グラクソ・スミス・クライン社製のサーバリックスが2009年10月に、MSD社製のガーダシルが2011年7月に承認された。政治家の強力なバックアップを得ての異例の速さでの承認であった。そして、2013年4月から定期接種が開始された。しかし、被接種者の一部に副反応が顕著に出た。そのことに鑑みてわずか2カ月後の同年6月に厚生労働省は積極的な接種勧奨を中止した。これは矢島鉄也・健康局長(当時)の英断が最初にあっての会議決定であったと聞いている。はたともこ参議院議員(当時)が同年3月28日と5月20日にこのワクチンの危険性と不要性に関して国会で厳しい質問を重ねた折に答弁に立っていた一人が彼である。ただし完全に接種をやめたわけではない。その状態が現在まで続いている。

日本国内ですでに338万人に接種され、被害者はわかっているだけで3017人(2016年12月時点、厚労省の副反応追跡調査結果)に上る。被害の発生は日本だけではない。このワクチン接種後の副反応は、アメリカはじめ各国で問題となっている。TBSの「News23」は、デンマークの少女の様子を2015年1月12日に報じた。

しかしながら、WHO (世界保健機関) のGACVS (ワクチンの安全性に関する諮問委員会)は、世界中で副反応被害が出ている事実を全く無視して「HPVワクチンが接種された国においてこれまでに懸案すべき事項は報告されていない」(2013年6月)、「本ワクチン使用の推奨を変更しなければならないような、いかなる安全上の懸念も見出されていない」(2015年12月)とのコメントを重ねており、特に被害者運動が組織的になされている日本については「根拠薄弱なエビデンスに基づく政策決定は安全で有効なワクチン使用を控えることになり、(子宮頸がんの発生という)真の害をもたらしうる」とまで述べている。WHOというと信頼できる機関と思われがちだが、もはやWHOは製薬会社にコントロールされていて、世界の人々の健康を真に守る機構ではなくなっているとみなす識者は少なくない。

私は2014年秋以降、被害者およびその母親たちに会ってお話を伺っている。それまで健康そのものだった少女たちに甚大な被害が出ている。他のワクチンでも一定数の割合で被害者は出るが、このワクチンの場合、重篤な副反応の発生率がケタ違いに高い (インフルエンザワクチンに較べてサーバリックスで52倍、ガーダシルで24倍。参議院厚生労働委員会2013年3月28日のはたともこ議員質疑)。接種直後に急性症状が出る場合もあれば、かなり時間が経ってから症状が出る場合もある。副反応には単に接種後に疼痛がしたというレベルにとどまらない深刻なものがあるのだが、残念ながらマスコミはその点を十分に報じていないし、人々の認識も乏しい。

訴訟を起こした被害者たちは、激しい身体の痛みや不随意の痙攣、記憶障害などに日々悩まされている。例えば、光の眩しさに過敏になり、サングラスが手放せない被害者は少なくない。さらに母親の顔や家への帰り道がわからなくなる、簡単な計算ができなくなるような記憶障害、寝たきりの状態が続くなどの深刻な被害も出ている。ある被害者は「頭の中で爆弾が破裂しているみたい」と表現した。あまりの激痛に襲われた際に「私を消して!」と叫んだ被害者もいた。

2.従来のものとは原理の異なる、有用性の疑わしいワクチン

HPVワクチンとは、子宮頸がんを予防できるとのふれこみのワクチンである。子宮頸がんは、性行為によって子宮頚部粘膜に生じた微細な傷からHPVが粘膜細胞に侵入し、感染が数十年にわたって持続した後に発症するとされている。ただし仮にHPVに感染してもがんに至るのはごく稀であるし、このワクチンを打ったとしても検診は必要であるなどのことから、HPVワクチンそのものの有用性についての疑問の声が出ている。

従来のワクチンは、速やかな免疫応答を記憶させることによって体内に侵入したウィルスの増殖を阻止して感染症の発症を防ぐものであったが、HPVワクチンはHPVの粘膜細胞への侵入を阻止するものであり、従来のワクチンとは原理的に全く異なっている。このワクチンは性行為などでHPVに感染した女性にはその効果が期待されないことから、初交前の女性に接種することが求められた。つまり、接種後何十年もの間、HPV感染予防のために高い抗体産生を維持し、血中から子宮頚部の表面にその抗体が長期にわたって常時浸み出してくるよう設計されたワクチンであり、そのために強力な免疫増強剤(アジュバント)が用いられている。

何らかの原因で産生された自己抗体により、深刻な脳障害が引き起こされているとの見解が神経内科の専門家から出ており、打出喜義・小松短期大学特任教授は、産婦人科医の立場ながら、「アジュバントは非特異的に免疫を活性化させるので、自己免疫疾患発生の可能性が高くなるのでは」と説明している(2016年11月12日、患者の権利オンブズマン秋期研修会講演)。「痛み」やギランバレー症候群など自己免疫疾患の専門家たちの集まりである、日本線維筋痛症学会 (代表 西岡久寿樹・東京医科大学総合研究所長) では、ワクチン接種被害者にみられる症状を2014年6月に「HANS症候群」と命名し、9月13、14日に開催された同学会の学術集会ではその診断基準を発表した。その折の記者会見の様子は全国紙各紙で大きく報じられた。「脳内視床下部が重大なダメージを受けていると考えられる」と同学会の研究者は述べている。

3.国際査読誌『VACCINE』の動物試験論文掲載後不正撤去事件

ところが、ワクチンを推進したい側の医師たちは、被害者の副反応を「心的要因による」で済ませようとしている。しかも不随意の痙攣などの重篤な症状についてはその医師の理解を超えているものだから「詐病」扱いしたケースも出ている。そのことは被害者を傷つけ、余計な苦しみを与えている。

2016年2月には、HPVワクチンの毒性に関する動物実験結果を記したShoenfeldらの論文を、国際査読誌『VACCINE』が、査読を経て一旦はオンライン上に掲載しながら、その後、ワクチンメーカーと利益相反のある(研究費などの形で金銭などを受け取っている)同誌編集長の介入により、著者らに無断で撤去(撤回)されるという驚くべき出来事も発生している。その後この論文は投稿し直して他誌に掲載された。この一件の経緯は、長く薬害と取り組んできた薬学者の寺岡章雄と保健学者の片平洌彦臨床・社会薬学研究所長との共著論文「HPVワクチンの安全性――国際査読誌が動物試験論文を掲載後に不正撤去」 (『日本の科学者』2017年1月号) が明らかにしている。

ShoenfeldらのHPVワクチンの毒性に関する動物実験は、アジュバントとして使われている水酸化アルミニウムやガーダシルなどを4群に分けたマウスに投与してみたものである。その結果、抗体レベルの上昇、ガーダシルがアルミニウムのアジュバントとHPV抗原とを媒介として神経炎症と自己免疫反応を惹起する事実が確認されている。こうした結果は、HPVワクチンの有害性を示す重要な証拠であるがゆえに『VACCINE』誌編集長は不正撤去に及んだと思われる。

4.危険性を指摘し被害者に寄り添う池田教授への攻撃が続いている

『新潮45』誌の2016年12月号、2017年1月号に医師で社会学修士の肩書を持つ村中璃子による「薬害でっちあげ――あまりに非科学的な子宮頸がんワクチン阻止運動」という刺激的なタイトルの論文が二回にわたって掲載された。内容的にはワクチンの危険性を指摘し、被害者たちの治療にも精力的にあたってきた信州大学の池田修一教授による実験プロセスの細かな問題点の強調や「HANS症候群」を支持する医師たちへの批判が目立つ。また必死の思いで治療方法を模索している重篤な被害者の気持ちを思いやることなく、それらの治療方法を危険なものと印象づけて批判する箇所もみられる。

「副作用」の問題以前にこのワクチン接種はそもそも不要であるという重要な論点があるのに村中論文ではそのことに全く触れていない。ワクチン阻止運動への妨害を意図して影響力の大きい『新潮45』という媒体を使って書かれたことは明らかである。「あまりに非科学的」なのはいったいどちらだと言いたくなるような内容の文章であり、書かれていないのは何かという視点から読まれねばならない代物である。

村中は『Wedge』誌7月号でも池田教授の研究を捏造だと批判する記事を書いている。この時点で池田教授は村中らを名誉棄損で訴えている。村中はまた信州大学と厚労省に対して「捏造」を通報した。これを受けて信州大学は調査を行ったが「研究不正はなかった」との結論を11月に出した。『新潮45』誌の村中論文はこのことを受けてのさらなる池田批判のために書かれたものだ。

厚労省の動きもおかしい。『月刊日本』誌2017年1月号の「子宮頸がんワクチン――悪のトライアングル」記事が詳細に報じているが、11月24日に同省は「池田氏の不適切な発表により、国民に対して誤解を招く事態になったことについての池田氏の社会的責任は大きく、たいへん遺憾に思っております」との声明を出した。同記事によると、こうした声明はきわめて異例のことで、厚労省は池田班の解散を目論んでいる可能性があるという。

なぜ村中と厚労省は池田バッシングにかくも力を入れるのだろうか。それは池田班によってなされた実験の成果が推進側にとってきわめて都合の悪いものだからに他ならない。このワクチンの安全性についての疑問を池田教授が厚労省の成果発表会で表明したのは2016年3月16日のことだった。 厚労省は、ワクチンと被害との因果関係に否定的な牛田班 (代表 牛田享宏・愛知医科大学教授)のほかに被害者への配慮の姿勢をみせるべく仕方なく池田班をつくった。牛田班に比べると、池田班は継子的扱いを受けている。『月刊日本』誌で記されているように双方に与えられている予算規模が全然違う(牛田班7640万円、池田班450万円)。そこに同省の基本的なスタンスがよく現れている。ワクチンの危険性を公的な形で報告した池田班は今や厚労省にとって目障りな存在になっている。

2013年6月以来中断状態が続いている定期接種を再開しようとする動きが同省内部に強くみられる。ワクチンの積極勧奨を中止している日本を名指しで批判する内容の2015年12月のWHOの提言を厚労省の主流派は早く受け入れたい。『月刊日本』誌は、ニュージーランドで公開された情報に基づいてWHOのGACVSと厚労省との水面下でのやりとりの経緯をも明らかにしている(情報源は、薬害オンブズパースン会議の資料)。背後にはこのワクチンを今後大々的に使っていきたい製薬会社側の思惑が垣間見える。

5.12月26日の「非接種でも『副作用』」報道の問題点

ワクチン接種と症状との関連を否定するニュアンスの報道が続いている。接種再開へと誘導する意図的な力がマスコミまで巻き込んで強く働いている。

例えば、2016年12月26日に厚労省の研究班(代表 祖父江友孝・大阪大学大学院教授)は、接種後の「副作用」として報告されているのと同様の症状が非接種者にも出ていたとする大規模調査結果を専門家会議で報告した。そのことを同日夜のTVニュースと翌日の各紙は報じた。例えば、27日の北海道新聞朝刊は「非接種でも『副作用』――厚労省 子宮頸がんワクチン調査」という奇妙な見出しの記事を載せた。そこには10万人あたりの発生が「接種者で27.8人、非接種者で20.4人」と記されている。

これだけみると読者は「非接種者にも『副作用』が出ているだって。それはワクチンのせいじゃないでしょう。『副作用』と呼ぶのがそもそも変なのでは」と思うだろう。同記事には、「症状のうち、頭痛や腹痛は両者同数だったが、全身の痛みや歩行障害、脱力、握力低下などは接種者のほうが多い傾向が見られた」との記述もみられる。副作用と一口に言っても様々な段階のものがある。先にも記した自分の母親がわからなくなるなどの重篤な記憶障害は非接種者ではゼロのはずだ。そのようなことをはっきりと書かないところにこのワクチン被害をめぐる報道の問題点がある。厚労省の役人や研究班のお偉方や推進派の医師たちの多くは、重篤な被害者に実際に会っていないから彼女たちの「副作用」がどれくらいたいへんなものなのかわかっていない。

同記事では「会議では接種から発症までの期間を調べることや、接種者と非接種者で年齢構成が異なるため、年齢を補正して分析することなどを求める意見が出た」ともある。そのような補正への配慮抜きに専門家会議に安易に研究成果が出されてしまうことを知って研究そのものの杜撰さを感じた読者も少なくないだろう。「はじめに結論ありき」の調査であるために本腰が入っていなかった可能性もある。

6.名古屋市の調査データ解析速報の問題点

補正は適切になされなければならない。逆に不適切な補正のために真実が歪められてしまっているケースと思われるのが、過日公表された名古屋市の調査結果である。2015年9月に名古屋市では予防接種対象者約7万人(被接種者5万人、非接種者2万人)を対象とするアンケートを実施し、同年12月に調査結果の速報を発表した(調査担当者は、鈴木貞夫・名古屋市立大学教授)。それは「予防接種を受けた方と受けていない方に分けた上で、24項目の症状について症状のある方とない方の割合を比較し、年齢による影響を補正して比率を算出したところ、予防接種を受けた方に有意な差はなかった」というものだった。

これについては、医薬ビジランスセンター(代表 浜六郎)発行の『薬のチェック』誌65号(2016年5月)掲載の「HPVワクチン被害と『病者除外バイアス』」記事がなぜこのような結果になったかを分析し、年齢調整のやり方に問題があることを厳しく指摘している。例えば、24項目中の「18.簡単な計算ができなくなる」は、年齢が一歳上がると1.38倍に増えると推計されているが、この割合で有症状者が増加すると、26歳では15歳の30倍超という数字になってしまう。こうした過剰な補正のために被接種者と非接種者との有意差が出なくなったわけだ。また「病者除外バイアス」を考慮していないという問題も指摘している。名古屋市では接種率が90%にまでなっていたから、残り10%の非接種者に「病気がち」の女性が集中したと考えられる。つまり、もともと病気の人や接種当日に発熱などのあった病弱な人が接種から除外された結果、非接種者にはそもそも病気の人が多くなるわけだ。

同記事では、名古屋市の速報はこれらのことを見落としているとして速報の撤回と適切な解析のやり直し、速やかな素データの公開を求めている。前述の『新潮45』誌の村中論文は名古屋市の調査についても触れているが、『薬のチェック』誌で指摘している問題には一切言及がない。

7.政治的な裏事情と深層にある我々の欲望を問い直すべき

以上に述べたことから、政治的な裏事情が背後にあって厚労省サイドによるHPVワクチン接種を何とかして再開させようとする動きが強まっており、非科学的で理不尽なことが無理矢理に進められようとしている経緯が見えてきたのではなかろうか。

政治的と言えば、そもそも導入の時点からこのワクチン接種は政治的な裏取引の産物であった。すでに公にされていて一部ではよく知られていることだが、2009年当時、日本政府は、「新型インフルエンザが流行するのでは」との予測に基づいて10月1日に7700万人分のインフルエンザワクチンを確保するとの方針を立て、国内外の製薬会社に大量注文をした。外資系の会社ではノバルティス・ファーマ社とグラクソ・スミス・クライン社が受注した。ところが、インフルエンザは全く流行せず、ワクチンは必要なくなった。日本政府に対してノバルティス・ファーマ社は違約金を要求し、日本政府は92億円を支払った。グラクソ・スミス・クライン社は、違約金は要求しない代わりに自社のHPVワクチン、サーバリックスを買って使って欲しいと言ってきた。

こうしてサーバリックスが日本では先行して承認され、全国の自治体が積極的に推奨して公費で接種され始めた。2013年4月に定期接種になる前の話である。自己負担額が無料なら接種しようと思う人は少なくないだろう。「今、打たないと損」と思わせるキャンペーンが繰り広げられた。そして「中学入学お祝い」として全額公費負担で接種した杉並区で最初の犠牲者が出た。その後被害は全国各地に広がっていった。未発見者も含めて被害者の救済は急がれねばならない。

問題の深層にあるものは何だろうか。むろん貪欲に利潤を貪ろうとする製薬会社とそれに協力してしまう厚労省などの責任は大きい。だが、その動きに巻き込まれてしまいがちな我々の側の欲望も問われるべきなのだろう。すなわち、自然治癒力を忘却して予防医学絶対賛美の雰囲気がつくられている問題も見逃せない。いわゆる「革新」側が当初はこのワクチンの推進役を担った。よかれと思って進めたこととはいえ、「医療」というと無条件でよきものとみなす思考停止状態は反省されてもいい。そもそもこのワクチンが接種開始されてからまだ女性の平均寿命に相当する期間が過ぎていないので実質的に「予防した」と証明するのは不可能という事実に気づくべきだった。また予防医学的な言説に弱くなっている我々の中にある「正常」への過剰な志向性が疑われていいはずだ。

もう一つ、女性を管理する発想が問題の根底にはある点も指摘しておきたい。このワクチン接種では性交未経験の少女たちが接種対象とされた。そこには子宮の健康管理を通して生殖を管理したい社会の欲望が見られるのではないか。ジェンダー論の視点から言えば、ヒトパピローマウィルス対策というのなら性交のパートナーとなる男性にも接種されるべきものだろう。現に男子にこのワクチンを接種している国もある。それがいいこととはむろん断固言わないが、「なぜ女子だけなのか」という疑問自体は有効なものだ。

8.HPVワクチンに代わるものは何か

不安を煽り、打つ必要がないものを製薬会社の営利追求の都合から「予防のため」と称して進めようとしている。これこそが問題の本質である。HPVワクチン推進派の産婦人科医たちは、HPVワクチン接種後も検診を勧めるが、おかしな話だと気付くべきだろう。自ら「このワクチンには効果がない」と白状しているようなものだからだ。その検診にしても分類し易くつくられた診断基準に基づいて正常者を「病気」にする装置として機能してしまう可能性は常について回る。それゆえ検診への過剰な依存には落とし穴がある。

今回の事件の教訓は何だろう。HPVワクチンが従来のワクチンとは原理が異なっていてリスクが大きいのにその事実が市民によく知られぬまま、接種が進められた結果、甚大な被害が出ている。しかも接種する合理的根拠は実は見当たらないのである。ワクチン導入の必然性の是非について市民が自ら考えて判断できるような十分な情報提供をメディア等が怠ってきた点は反省されねばなるまい。

浜六郎は、検診率が80%と高い英国でも子宮頸がん死亡率の減少は明確ではなかった点に着目している。また公開されたデータに基づく精密な検証からHPVワクチン接種では10万人中630人が自己免疫疾患に新たに罹患する、他方このワクチン接種の最大期待予防効果は10万人中2人にすぎないと推定し、HPVワクチンの中止を強く主張している。そして脂質やたんぱく質の摂取と子宮頸がんの死亡率には逆の相関がみられる事実から、脂質やたんぱく質の摂取は子宮頸がんの予防因子であることを指摘し、特に若い女性は過剰なダイエットにならないように警告を発している。普通のきちんとした食生活もワクチンの代案になるのである。(浜六郎「HPVワクチンの作用と害について」『性の健康』vol.14、性の健康医学財団、2015年6月、http://www.npojip.org/chk_tip/No65-file10.pdf)。

いのうえ・よしやす

1956年、北海道小樽市生まれ。東京学芸大学大学院教育学研究科修士課程修了。前札幌学院大学教授。現在、日本社会臨床学会運営委員&日本女子体育大学非常勤講師。社会学者。社会意識論・知識社会学専攻。主要なテーマは、人間の高尚ではない諸問題。医療等に関わる知の消費形態。著書に『つくられる病――過剰医療社会と「正常病」』(ちくま新書)。編著に『健康不安と過剰医療の時代』(長崎出版)、『「心のケア」を再考する』(現代書館)など。論文に「ルサンチマンの社会学の構想」(『思想』773号)、「牧人=司祭型のカウンセリングを超えて」(『現代思想』28巻9号)など。

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