特集●問われる民主主義と労働

政府の「雇用類似の者」でいいのか?

連合は非正規やフリー労働者を「働く仲間」として組織する「秋闘」を

グローバル総研所長 小林 良暢

令和2年は庚子(かのえね)の年。庚は植物が新たな形を産み出す意、子も種子の中に新しい生命がきざすという意だ。「NEWウェーブ」の年である。

AI・5G革命の只中で、労働組合にとってどんなNEWウェーブの年になるかと注目していたら、二つの大波にみまわれた。

1.NEWウェーブな20春闘

第一波は、経団連の2020経営労働政策特別委員会報告。今年の経労委報告は、「デジタルトランスフォーメーション」とか「エンゲージメント」など、やたらと横文字が多い上に、「ジョブ型雇用」とか「脱一律賃金」など、聞き慣れない「新語」が登場する。

デジタルトランスフォーメーションとは、「デジタル技術の浸透で、既存の枠組みや制度を覆すイノベーション」のこと。また、エンゲージメントとは、「従業員の会社への愛着心や思い入れをつうじて、会社も従業員との絆を強め高め、一体となって互いに成長していく」という人事管理用語として使われてきたが、転じて最近では「社外でも通用する能力を高め、機会があればより良い活躍の場へと転職していく」とする新しい意味になった。もちろん、経労委報告では後者の意味で使われている。

また「ジョブ型雇用」についはて、経団連は、とくに注を付けて次のように記している。

「ここでいう『ジョブ型』は、当該業務等の遂行に必要な知識や能力を有する社員を配置・異動して活躍してもらう専門業務型・プロフェッショナル型に近い雇用区分をイメージしている。『欧米型』のように、特定の仕事・業務やポストが不要となった場合に雇用自体がなくなるものではない」と、エクスキューズしている。

ところが、本文の方では、これまでの人事処遇において「年齢や勤続年数の上昇に伴って優遇される年功型の制度設計が、同じ企業で働き続けることの誘因となっている反面、転職を含めたキャリア形成を検討する際の阻害要因となっている可能性がある」と書かれている。

中西宏明経団連会長自身は、講演等で「今後は、日本の長期にわたる雇用慣行となってきた新卒一括採用に加え、ジョブ型雇用を念頭に置いた採用(ジョブ型採用)や複線的で多様な採用形態に、秩序をもって移行すべきとの認識のもとでは、会社の方針転換や経済状況が変化した際には、『仕事』がなくなることはあります。その際に、ジョブ型雇用の従業員を雇用契約終了とし、解雇させることが比較的容易なのです」との主旨を述べている。(註1)

要するに、ジョブ型雇用ならば、そのジョブがなくなれば、雇用契約を解除することは可能であると言っているのである。こうみてくると、経労委報告と会長個人の意見を使い分けているけれども、会長見解の方が本音であろう。

第二波は、2月に入ってからの、中国の湖北省・武漢発の新型コロナウィルスの騒ぎで、政府が感染拡大防止措置の一環として大型イベント中止を要請、連合は3月3日の春闘決起集会を中止にした。こうした経済活動の規制がもたらすマクロ経済面へのマイナス効果と、20春闘への影響が懸念される。しかし、新型コロナウィルスよりも、経団連が発した「ジョブ型雇用」という先制攻撃の方が、労働組合にとって要警戒だ。

今年の経営労働政策特別委員会報告は、中西会長の考え方が色濃く反映されていると言われているが、なかでも「デジタルトランスフォーメ-ション」には、「既存の枠組みや制度を覆す変革」という意味が含まれているという点で、日本型の人事管理という視点からみて、重要な問題提起だと受け止められている。たとえば「ジョブ型雇用」はそのスタート台として、「ジョブ型採用」への転換とセットになっている。そうしないで、現行どおりの一括採用をそのまま続けていくと、70歳までの47年にわたり、その雇用を維持し続けることになる。それができると断言できる会社が、経団連会員会社に何社あるだろうか。

だが、デジタル技術が既存の枠組みや制度を変革していくことには同意できるとしても、また、個々の労働者の雇用や働き方を変えていこうという考え方、つまりいわゆる「ワークス・トランスフォーメーション」に同意するとしても、中西会長とは大きなギャップがある。

例えば、日本経済新聞(2020/2/20)が報じた「世界の大手会計事務所PwCの調査」の記事によると、日本の社会人で人工知能(AI)に仕事を奪われると答えた人は3割にすぎないという。この調査は、PwCジャパングループが、日本の社会人約2千人と海外(アメリカや中国など11カ国)で約2万2千人を調べたものである。

その中で「今後10年間に(AIなどによる)自動化で自分の仕事がなくなる可能性があるか」との質問に対して、海外11ヵ国全体では53%の人が「仕事がなくなる」と答え、とりわけ中国では89%、インドは82%と高い比率の人がそう思っている。これに対して、日本は「そう思う」は30%と低くなっている。また、プログラミングなどの新しいITスキル獲得に向けて学習している人の割合は、海外諸国では85%だったのに対して、日本では29%にすぎない。

この背景は、日本では海外諸国とは雇用契約も異なるし、少なくとも正社員とりわけ大企業においては、雇用が安定していて、まさか「自分の仕事を奪われるようなことはないだろう」と考えている人達が多いからだろう。しかし、こうしたフワッとした根拠のない安定意識は、AI・5G時代の「デジタルトランスフォーメーション」のもとでは通用しない。

2.「自分の仕事はなくならない」?

こうした危機感の欠如は、政府や労働組合にも広く共有されている。

厚生労働省の労働政策審議会は、2019年9月に労働政策基本部会がまとめた「働く人がAI技術の将来を実現する報告書」を了承、公表した。その内容を要約すると、ME革命の時には、労使双方で納得を得つつ、配置や職種の転換で対応して乗りきったことを参考にして、AI化においても、教育訓練などで労使のコミュニケーションを図る事を通じて対応しようとしていることが、最大のポイントである。

だが、これでAI・5G革命に対応できるのだろうか。否である。

1980年のME革命の時には、世界で実動する産業用ロボットのうち、70%が日本で稼働していて、日本は「MEの最先端国」だった。当時、電機労連は「ME化三原則」を策定して、企業の中での雇用の維持を図ることを基本に、職種転換や配置転換に必要な新技術の修得や転換教育に取り組むことを、労使協議の場で求め、合意して実行させた。当時の日本の電機産業は、電子立国ニッポンの先頭を走る最先端産業で、世界市場における比較優位は圧倒的で、会社も従業員に技能再訓練を実施して、新たな雇用機会を提供する余力が充分にあって、それで日本は1980年代の半ばに「ジャパン アズ ナンバー1」に登り詰めたのである。

それから40年、AI革命を迎えた日本の現在地は、IoT先進国ドイツに比べると、政府や労働組合も取組みが4~5年遅れている。すなわち、ドイツでは連邦政府がアクションを開始したのは2011年、13年には政労使が参画するIoT推進団体「プラットフォーム」を発足させている。これに対して、日本政府が取組みを始めたのはやっと2016年になってから。ドイツの「インダストリー4.0」のような総括的なAI対応の政労使の協議機関は、未だできていない。

なによりも、日本産業の比較優位は劣化しており、しかも、企業の教育訓練費は減額され続けており、企業内に余剰人材を抱え込む余力もない。さらに重要なのは、会社で新技術を修得しても、社内にはその仕事の場はもう無い。

なのに、労政審の労働政策基本部会の「労使のコミュニケーション」でこと足りるとするような暢気な政策では、AI・5G時代の「デジタルトランスフォーメーション」に立ち向かうことはできないだろう。

3.NEWウェーブなフリー労働者

日本最大級の仕事発注サイトを運用するプラットフォーマーであるランサーズが実施した「フリーランス実態調査 2018年版 」によると、広義のフリーランスの経済規模が初めて推計20兆円を超えたという。

①フリーランス1119万人

フリーランス業界は、プログラマー・Webデザイナーなどの【IT系】、経営コンサルタント・ファイナンシャルプランナー・塾講師などの【コンサル系】、ライター・編集者・翻訳・通訳などの【マスコミ系】、弁護士などの【士業(サムライ資格)】に四分類される。このうち【マスコミ系】は、かつては一人で仕事をすることが多かったが、いまはチームや組織を組んでテレビ局などから仕事を受託する形で働く人が多くなっている。

働き方の形態別の従事者数をみると、副業系すきまワーカー454万人、複業系パラレルワーカー290万人、自由業系フリーワーカー53万人、自営業系オーナー322万人の4タイプがあり、これらフリーランスで働く従事者の合計は、1119万人に達している。

一方、内閣府の2019年の推計によると、フリーランスは国内就業者の約5%にあたる306万~341万人程度とされる。この二つの数字の落差は大きすぎるが、この業界ができてから間もないこととフリーランスの定義も確定していなこと、統計上のダブルカウントもあるからだろう。

②クラウドワーカーも400万人

クラウドソーシングとは、クラウド(群衆)とソーシング(業務委託)を合わせた造語で、そうした形態で働く人たちをクラウドワーカーと呼ぶ。会社に所属せずに、ネットで人材マッチングを業とするプラットフォーム会社を媒介にして、紹介先とは個人で契約して働く。

この業界では、2008年に立ち上げられたランサーズと2012年創業のクラウドワークスが双璧で、その仕事依頼件数(年間)は、ランサーズ210万件、クラウドワークス207万件である。業界全体で約400万人の従事者がいるといわれる。

③副業・複業600万人 

正社員として働きながら、異業種などから新たな発想を取り込む新しい働き方が注目されている。副業に関する調査によると、副業をしている人が454万人で、複数の仕事をしているのが290万人いる。

厚生労働省はこれまで、就業規則で副業を規制するよう指導してきており、実際に日本企業の85.3%が副業を禁止してきた。だが、安倍内閣が「働き方改革」の一環として兼業・副業を推進したため、厚労省もHP上の就業規則モデルを「(兼業・副業を)認める」方向に変更している。会社にとっても異業種などから新たな発想を取り込むメリットもあると注目し始めており、「副業元年の」業務委託ベースの副業経済は、8兆円規模へむけて本業3日+副業2日等のパラレルワーカー数が伸長している傾向にある。

④「雇用類似」の者

こうした中で、厚生労働省の労働政策審議会・労働政策基本部会は、「発注者から仕事の委託を受け、主として個人で役務を提供し、その対象として報酬を得る」かたちで働いている人、具体的には、経営者、個人事業主、自由業、フリーランス、クラウドワーカー、テレワーク、副業などで働いている人たち約 228万人を、「雇用類似の働き方の者」と限定して検討し、同部会報告書(2019年9月5日労働政策審議会了承)が出されている。

⑤急増するフリー労働者 

AI・5G革命の進行につれて急拡大しているフリー労働者は、筆者の推計によれば、政府の職業分類に従って独立自営業者、副業、専門職、テレワークなどを含めると、1800万人の規模に達しようとしている。(註2)

しかも、これがこれから急増するとみられている。例えば、クラウドワーカーとして働いている人は、現在400万人ということになっている。だが、NTT東日本系のクラウドワークスが、クラウドサービスやフリーランスに対して情報を提供するプラットフォームの運営会社の大手5社の登録者数を基に推計したところによると、2020年代にはクラウドワーカーだけでも1000万人に倍増するとされている。

アメリカでは、クラウドワーカーだけでも既に4000万人に達しており、経済規模からすると、我が国も2000万人をこえていくことは、自然の流れだろう。

仮に、近い将来、フリー労働者が2000万人になるとすると、その増加分の約1500万人が、正社員と非正規からそれぞれフリー労働者にシフトしていくことになり、フリー労働市場が確固たる位置を占めるようになる。

⑥ないない尽くしの業務委託慣行 

ところが、フリーランスにしろ、クラウドワーカーにしろ、これらフリー労働者が置かれている状況は、発注者サイドの一方的な都合で、業務委託を突然切られても文句が言えない。また、ライターは取材をして原稿を週刊誌などの編集部に持ち込んでも、ボツにされれば取材費も原稿料も出ないというのが、半ば業界の慣習になっている。事ほど左様に、契約書もなければ、最低報酬の保障もなく、紛争処理の制度もなしと、ないない尽くしの業務委託慣行が横行している。こうした状況の下で働いている人々にどのように保護の網を被せるかが、現在の最大の問題である。

労働政策研究・研修機構(JILPT)が、フリーランスの業務委託について調査したところ、「決まった専属のとり決めがない」人が60.4%となっており、その多くは取引先に対して弱い立場に立たされている。また期日までに報酬が支払われないなどのトラブルが起きても泣き寝入りをするしかない場合も多い。企業に属する働き手と異なり、最低賃金や労働時間なども保証されず、不安定な働き方を強いられている。

4.フリー労働者の未来戦略

以上のような状況下で、上記労働政策審議会の報告も踏まえて、厚生労働省では「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会」が続けられている。だが、この問題についての考え方が、検討会と私とでは、まったく違う立場に立つようだ。こうした観点から、今度の検討会の提起を読むと、3つの問題点がある。

①「雇用類似の働き方の者」と「雇用フリー労働者」

検討会は、フリーランスやクラウドワーカー、テレワーク、副業などについて、「雇用類似の働き方の者」と記し、「労働者」という言葉を使うことを避けている。

②労働者性

まず、フリーランスやクラウドワーカー、自営業者などを、どこまで労働者とみなすか否かである。これを労働法学では「労働者性」の有無という。検討会の席上においては、労働者性の判断基準を拡張して、雇用類似の働き手を保護すべきだという意見が委員から出されたが、この意見は無視された。

③フリー労働者を阻む原因 

検討会は、「雇用類似の働き方の者」の法的な保護は、「雇用類似の働き方の者」が個々に置かれている状況が異なるので、画一的に定義することは困難だとして、「使用従属性」を有している者と「その類似の者」に限定して検討を進めるとした。その結果、もっとも保護の網が必要な人たちを追いやってしまっている。

この問題は、労働基準法と労働組合法で「労働者」の概念が異なることに由来している。

労働基準法の第9条では「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」となっている。一方、労働組合法の第3条では、「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」としている。

【労働者たる要件】

このうち、労働基準法の法的根拠に基づいて、【労働者たる要件】として以下の二つの基準が導かれる。

ⅰ.【使用従属性】

労働基準法第9条は、事業主の①「指揮監督」、②「時間の拘束」、③「場所の拘束」、④「報酬の労務対価」の四要件を以て、労働者にたるとしている。

ⅱ.【労働者性判断を補強する要素】

これは、①「事業者性の有無」、②「専属性の程度」などである。

以上の二つの要件に基づくものをもって「労働者」とし、それを【労働者性】があるとする。他方、それに欠けるのは「労働者に非ず」となる。故に、クラウドワーカーもフリーランスも「労働者性」を認められないのである。

④日本型雇用の「ドグマ」

以上の概念規定に至るのは、その背景に、日本型雇用の3つの「ドグマ」が岩盤のごとく存在するからだと、私は思っている。それは、①会社主義、②雇用労働者中心主義、③メンバーシップ (正社員)至上主義である。そして、現行の労働法は「正社員の正社員による正社員のための」法律であるから、もともと非正規労働者の存在を想定していない。したがって、パート労働法、労働者派遣事業法は、労働基準法や職業安定法の例外として立法したのである。

これに対して、「働き方フリー」の労働者については商法上の民・民契約だとして「労働者性」を排除してきたのであって、唯一の例外として家内労働者については保護法をつくってきたのである。

ましてや「フリー労働者」に至っては、「労働者性」の議論もほとんどされずに、無権利状態のままに放置されることになっているのである。2020年4月から働き方改革関連法の「同一労働同一賃金」が施行されると、パートタイマー、契約社員、さらには派遣社員についても労使協議会への参画が現実的な課題になってくるが、フリー労働者の多数はここからも排除される。

5.問われる労働組合、その課題

2020年から施行される働き方改革関連法の「同一労働同一賃金」では、パートタイマーや契約社員には正社員との均等・均衡の処遇を求め、その実行を労使協議に委ねている。派遣社員や契約社員についても協議会の場への参画が現実的な課題になってくるが、これをフリー労働者にも同様に適用するには、課題が山積している。

①労使協議制の優先課題

さし迫る具体的な課題としては、処遇格差の是正の場たる労使協議会に、その一方の当事者たるパート・契約社員、派遣労働者の“ヴォイス(発言)”をいかに吸い上げることができるか、である。それが、最大の課題になっている。

しかしながら、今度の政府の改革法とガイドラインには、それら非正規労働者の“ヴォイス”を労使協議の場にどうすくい上げるかについては、具体的に記されていない。これは何の問題かと言えば、結局のところ労使協議の場における労働組合の問題だからだ。

そのために労働組合としては、とりあえず次の順番を踏んで、労使協議制の再構築に向けて漸進的に取り組んでいく構想を、労働組合全体で共有することが重要である。

②“ヴォイス(発言)”の場の構築

同一労働同一賃金が本番となると、正規社員と非正規の社員・労働者との処遇の差を巡って合理性・不合理性を判断するときに、会社との労使協議の場で、その当事者が「不合理な格差だ」と“ヴォイス(発言)”を発する機会を設けることが必要になる。また、これにはパート・契約社員、派遣労働者の代表として、その声を聞くことを担保する有効な手段として、これら非正規労働者をユニオン・ショップに組み込んでいくことも重要である

だが、この二つ課題を労働組合が会社に要求しても、実現には時間がかかる。

③現場の慣行を先行させよ

したがって、現行の労使協議会の現場での運用を一工夫して、漸進的に現実的な労使協議に取組んでいくことの方が、近道であると考えている。

じつは、これまでにも、職場の慣行として、パート・契約社員や派遣請負労働者が、カイゼン提案や安全衛生運動などの諸活動に、日常的に参画してきている。また、製造工場での派遣・請負の現場では、工場側から派遣会社の労使に対して「同じ内容の36協定を締結してもらいたい」との要請があり、それをうけて、派遣労使が印をついたものを労基署にも提出している現状がある。こうしておかないと、3ヶ月単位の生産計画をうまく動かすことができないからである。既に現場では、事実上の労使協議会が実質的にワークしている基盤が存在しているのである。こうした工場やショップ、事業所における現場の慣行を積み上げていくのが、重要である。

現場では、要員計画を事前に協議することを通じて、事業所を動かしている。例えば、派遣や製造請負の現場では、3ヶ月の生産計画・営業計画(フォーカスト) について、協議している。そうしないと、急に言われても、それから労働者を募集しても間に合わない。

6.労働組合に、今できること

これからの労働組合は、いまできることから着実に取り組むことである。

①職場で働く「同僚」「仲間」

工場でも、ショップ・飲食店でも、いろいろなタイプの労働者が混在して働いているのが、日常的な職場風景である。そこで働いている人たちに、そのことの意味を気づかせることが大切だ。

その上で、正社員でも、契約社員や派遣労働者でも、あるいはフリーランスやクラウドワーカーに対しても、労働組合が取り組む第一歩として、職場で一緒に働く人は「同僚」であり、雇用契約している会社が違っても同じ仕事をしている人は「仲間」として認め合う風土作りが必要である。この同僚・仲間づくりの風土を創ること、これが出発点である。

②「労働組合が組合員と言えば労働者」

フリー労働者の現場では、全ての人に「労働者性」を担保し、現行労使協議体制から排除されている労働者の“Voice”が届くよう労使協議(会)への参画を慣行化する。例えば、クラウドワーカーのように雇用関係が曖昧なケースでも、プラットフォーム会社と「労使」契約を成立させる運動を展開することで、「労働者性」を実質的に作り上げていくことが急務である。

③ロールモデルは全建総連

フリー労働者には独立自営業者もいる。これは、「ウチの会社では“社長”と呼んでいるが、これも労働者でいいのか」と言われる。

この疑問に対して、私は「全建総連では、社長も組合員だ」と答えている。

全建総連は1960年に結成したと言っても、それ以前は土建総連、全建労、東建産に分かれて活動していたので、実際はもっと前から運動してきた。連合結成までは中立労連に加盟し、電機労連と同じ「仲間」だった。

全建総連の組合の強さは、一つに職種賃金の労使協定の運動、今一つは共済保険制度にある。共済制度は、国民年金の事務組合の資格を早くから取得して、独自の付加給付をつくり、親方も社長も現場に出れば、一緒に働く「同僚」「仲間」という組織である。この辺りが、企業内組合とはひと味違う希有の労働組合である。

こうした社長も組合員にしてしまうことが通るのは、「労働組合が組合員だと言えば、労働者だ」という「働く仲間」意識と共済の思想だ。これは、クラウドワーカーやフリーランスの労働者の「労働者性」と組合への「組織化」を考えるときに、ロールモデルとして大いに学ぶべきことが多いと思う。

④「秋闘」で連合運動の再生を

「働き方改革法」の「同一労働同一賃金」の施行は2020年4月である。このため連合は、その他の各労働団体や合同労組や各地の地域ユニオンと連携して、パート、有期契約や派遣・請負社員の“ヴォイス”が届くような対抗ガイドラインを掲げて対抗するべきであろう。 

それを踏まえて、全国の本部・本社、支部・事業所間の労使協議会に臨む運動を強化するために、労働協約闘争を再構築しなければならない。

それには、連合が春闘から賃金以外の労働協約に関わる項目を秋に集約して「秋闘」を再構築し、全ての労働組合と連携して、国民的な運動展開を図ることが重要である。まさに、春闘に加えて「秋闘」という運動のヤマ場を今一つ作り、本稿で論じてきた労使協議の取組み項目を労働協約「秋闘」に集約して闘う。連合は「働き方改革」を巡る労使協議制の再構築をはかる責務がある。

1989年に結成した連合は、組織人員800万人で、近い将来1000万人をめざしている。しかし、一時は、700万人を割り込んだ。連合結成30年を迎えたのを機に、「働き方フリー」の労働者の組織化に取り組むことを、2050年に向けた<AI時代の連合運動の再生>の契機にしてもらいたい。

註1 溝上憲文「終身雇用見直しだけではない経団連会長発言の真意」(BUSINES INSIDER Jun. 10, 2019,)

註2 拙稿「AI革命と労働組合」(「現代の理論」第19号)の付表参照

こばやし・よしのぶ

1939年生まれ。法政大学経済学部・同大学院修了。1979年電機労連に入る。中央執行委員政策企画部長、連合総研主幹研究員、現代総研を経て、電機総研事務局長で退職。グローバル産業雇用総合研究所を設立。労働市場改革専門調査会委員、働き方改革の有識者ヒヤリングなどに参画。著書に『なぜ雇用格差はなくならないか』(日本経済新聞社)の他、共著に『IT時代の雇用システム』(日本評論社)、『21世紀グランドデザイン』(NTT出版)、『グローバル化のなかの企業文化』中央大学出版部)など多数。

特集・問われる民主主義と労働

  

第22号 記事一覧

  

ページの
トップへ