論壇

連合に鳴り響くのは弔鐘か、女性会長が突進する「ガラスの断崖」

元連合大阪副会長 要 宏輝

1.統一は分裂の始まり、平和は戦争の始まり

最大のナショナルセンター連合(NC・日本労働組合総連合会)は、官民、あらゆる産別(産業)をカバーしているため、内部の政策要求の利害調整が難しい。利害対立は当然だが、妥協点を見出せないと政策要求は策定できない。政策が一致しなければ力の合目的的な発揮はできない。政権との対立軸のない連合の、漠とした状況が労働運動の方向感覚と活力を失わせてきた。連合、全労連、全労協とNCは鼎立しているが、三つとも組織拡大は果たせず、逆に減らしている。「戦争」には労働運動の建前上、右も左も賛成できないわけだから、NCの枠を超えた共闘をすべきではないか。安保闘争のように「1日共闘」でもしなければ、一般大衆には連合の「立ち位置」は見えてこない。

一方で、2017年7月、(当時、連合トップ就任と目されていた)UAゼンセン会長の逢見氏が「官邸で安倍と密会」などと報じられると、連合内外で戸惑い、混乱が生じるのは当たり前だ。この「脇が甘すぎる」パフォーマンスは何のためだったのか。非難を覚悟するほどの重要な意味があったのならば、それを「公人」として明らかにする義務がある。このほか、連合東京の舛添自民党支持(知事選)、橋下市長の不当労働行為攻撃に対する連合大阪の不作為、また構成組織(産別)の連合脱退はじめ、産別間の信義則を欠くような言動(JAMと基幹労連は選挙協力解消で関係悪化、自治労・UAゼンセンの間の札幌・大阪の「領土戦争」等)の数々。内外の信頼を損なうような事件の多発、目に余る大企業労組の「覇権主義」のような身勝手な振舞い、そして最近の役員選挙迷走の果ての連合初の女性会長、その人の「暴走」報道・・・末期症状のようだ。

過去に遡上するが、連合結成前後、「顔合わせ」「心合わせ」「力合わせ」が合言葉となって流行はやった。「ただ酒」「ただゴルフ」で「顔合わせ」はできたが、1987年の「民間連合」(全日本民間労働組合連合会)結成時には、総評・同盟間、社会党・民社党間の確執が尾を引き、「心合わせ」ができないまま、旧産別のまま構成組織として加盟するところも少なくなかった。1989年、官公労を加えての「連合」の誕生後、産別統一闘争ができる産業別労働組合の「進化」を次の課題とする「裸統一」(ゼンキン連合と金属機械の合併=JAM結成ほか)が先行され、また、対立の激しかった郵政や国鉄(JR)の職場では、全逓と全郵政がながく併存し、JR総連・JR連合・鉄産労の間では分裂・合従連衡が繰り返された。また、自治労が全国一般を吸収、ゼンセンが旧同盟の異業種を糾合する「複合産別」も生まれ、様々な離合集散が行われた。これが連合結成後も真の「心合わせ」に至らず、労働運動や社会運動における「力合わせ」ができ得ない大きな構造問題となる。

更に二・三の問題として、1987年「民間連合」発足以来、「悲願」であった安保・自衛隊・原発等の課題が現在に至るも棚上げされたままやり過ごされてきたこと(後述)、連合中央も地方連合も単産整理(合併)や産別間のトラブルにコミットしなかったこと、が大きな禍根となった。

連合は「言うだけ」「書くだけ」で主体的な闘いがなく、「やる、やる詐欺」みたいな世界になってしまった。連合は構成組織(産別)に対して「産別自決」でやりなさい、産別は単組に対して「単組対応」つまり好き勝手にやってよろしいといった、傘下の産別や単組に何の規制力もない融通無碍な「仲良しクラブ」に堕したままである。筆者は、会社>単組>上部組織(産別)>上部団体(NC)といった下剋上の組織構造、つまり企業主義=企業別組合主義の克服はじめ、「連合評価委員会報告」や「連合行動指針」を実践せよと訴え続けてきた。しかし、連合や産別は方針では企業別組合主義の克服をうたいながらも、実際に連合運動の構造問題にメスを入れることはなかった。十分に時間はあったろうに、不作為のまま、結成から3分1世紀を費やしてしまった。

今、労働界で、ある「杞憂」が現実になりつつある。それは、砂上の楼閣というか、寄木細工のように存在してきた連合が分裂、崩壊の危機水域に入ったような報道がなされていることだ(後に詳述)。

2.「アベノ春闘」にお株を奪われた連合労働運動

デフレ不況とグローバル化の圧力によるコスト削減のための賃金抑制と非正規雇用の拡大が進み、労働者は「下に向かっての競争」を強いられている。永年、中小零細の分野は「労働運動の不毛地帯」と言われ、100人未満企業の組織率は1%前後で推移している。「新しい不毛地帯」が組合の存在する職場にも急速に拡大してきた。有期労働契約の2000万人にのぼる非正規労働者群である。有期労働者の雇用年限は構造的解雇であり、権利と団結の芽を摘む。「年限を契約してしまった」と本人を呪縛し、周囲の同情も封じる。正社員組合からも排除され等閑視されている。

製造業の多国籍化は一層進み、2000年代に入ると企業業績の伸びが目立ち始め、「2002年から2008年までの長期好況のなかで、企業の収益は大きく伸びたにもかかわらず雇用者所得はほとんど伸びず、大企業セクターでは労働分配率が大幅に低下している」(「平成20年版経済財政白書」P74)。この間に、労働組合が交渉力を発揮した形跡は見られない。2002年はデフレの真只中、トヨタが史上最高益1兆円をあげてベア回答を用意するも、奥田経団連会長のいわゆる「奥田の一喝」でベアなし回答、「ベアゼロ春闘」が定着してしまう。

図表6-5① 名目国内総生産(GDP)の推移—日本だけ、1998年以降経済が縮小

図表6-5② 1人当たり平均賃金の推移—日本だけ、1998年以降賃金が低下

右掲の図表(山家やんべ悠紀夫「日本経済30年史」p189、岩波新書)「なぜ、日本だけ1998年以降賃金が低下し続けているのだろう?」の疑問。周知ことだが、賃金低下は図表の2013年を超えて21年現在まで続いている。その原因は「日本の企業別労働組合にある」と、山家氏は喝破する。

97年から2007年まで、日本経済は「構造改革」で最も大きな変化は「景気が良くなっても(企業が儲かるようになっても)賃金が上がらない構造へと変化したこと」。

ちなみに、98年以降、経済が停滞基調にあるのは、主要先進国では日本だけ(図表6-5①)、そして賃金が下落低下基調にあるのも日本だけ(図表6-5②)。その理由として「グローバル化説」があげられるが、グローバル化の進展は90年代初めからであり、その影響を強く受けたのは米国や西欧諸国も同じである。西欧はソ連圏の崩壊で旧東欧諸国と厳しい競争関係に立たされたがこれらの国では賃金は下落していない。また、構造改革に似た政策(新自由主義経済政策)を採っているが、賃金の下落は見られない。なぜ日本だけに?という疑問は残る。その答えは—―労働組合のあり方の影響が大きいのではないか。欧米諸国の労働組合は、主流が「産業別労働組合」である。これらの国では、産業別に、経営側と労組側が交渉して労働条件を決める。決定された労働条件で成り立つよう企業経営を行なわなければならない。一方、日本の労働組合は厳密には法内組合とは言えない「企業別労働組合」である。経営が成り立つように労働条件が決められる。この違いが大きい。

長期の賃金下降を憂慮した当時の福田首相は、2008春闘を前に経済界のリーダーを呼んで大幅な賃上げを要請した(2013年から始まった「官製春闘」の走り)。2007年夏から問題化し始めたサブプライム・ローン問題によるアメリカ景気の失速と外需不振を見越し、雇用者所得を引き上げ、内需拡大を図ろうとするものであった。しかしこの時も春闘の結果は政府の期待に沿うものではなかった。

2013年から10年間続いた「官製春闘=アベノ春闘」、つまり、政府が財界と「直接交渉」せざるを得なかったのは労働組合の交渉力が十分ではなかったからだ。交渉力が不十分というよりは組合の闘争力の低下といった方が正確であろう。争議行為件数の極端な減少は、個々の労使関係のなかで争議の伴わない「おしゃべり団交」が営々と行われてきたことを示している。筆者は、「こんな回答でストライキもせずに、どんなにして組合員を納得させているのだろう」と不思議で仕方なかった。組合員からもさしたる「異議申し立て」や組織的反発も起こっていない。御用幹部の所為(せい)ばかりとも言えない。正社員組合員も未来時間をローンで買い、自社株と企業年金等の見えない鎖につながれた囚われの身なのだ。

2016春闘からは、安倍首相は賃上げの奨励はじめ、「1億総活躍社会」とか「同一労働同一賃金」、連合のお株を奪うというか、「安倍は労働者の味方ではないか」と思わすようなキャンペーンだ。「月々6000円以上の組合費でベアなんて吹っ飛んでしまう。組合幹部はそのカネで飲み食いやゴルフ三昧。ベアだって官邸のおかげ。組合から脱退したい。」(大手電機メーカー社員、「選択」2016.6月号「四分五裂する労組『連合』」)といった「もの言う組合員」の声は予想外に広がっているのではないか。2016年7月10日の参院選では、労働組合員はじめ非正規労働者のなかからも多くのフダ(票)が自民へと流れ込んだ。比例区の世代別得票で、20~40代の世代で自民党の得票率が第一位で40%を超えている(NHK調査)。

労働運動理論の先駆者である清水慎三氏は、その時代を主導した民間大手組合の特質を解析・区分し、「企業別労働組合三段階論」を唱えた。その第一段階は<1940年代後半~50年代初期>の「戦後初期型」組合で、この原形を保っていたのは三井三池に代表される炭労や民営化以前の国労等であった。第二段階は<1950年~60年代前半>の、生産性に協力し、成果配分にあずかる「協調主義型」組合。第三段階は<1960年代半ば~1989年労戦統一前後>の「経営の末端職制と組合が融合した」組合。さらに筆者は、第四段階として<1990年代~今日まで>の、グローバル競争下で「組合機能が溶融(メルトダウン)した」組合を加え、「四段階」とする。第四段階の主導的労働組合の多くは、会社に忠誠を誓い、生産性を高めるよう最大の努力をするwilling slave(自発的奴隷)の構造を企業社会のなかに完成させた。一企業の利益よりも労働者全体のことが大事とする「階級闘争」派が刈りとられてしまい、活動家という「異分子」が駆逐されてしまった。

企業内の、とりわけ正社員意識の世界では、企業=イエ意識つまり自分の企業がもうかれば月給も上がるという考えの方が勝り、企業を超えて連帯して闘って賃金を引き上げる(「労働は商品でない」=カルテル規制の適用除外)という論理と運動が敗北した。そして、人事考課制度・職能資格制度・内部昇進制・福利厚生制度による企業主義への吸引、並行した組合役員の会社人事処遇化、団体交渉に前置される労使協議制の優位機能化、等によって、企業内組合はカンパニーユニオンと化している。

労働運動の頂上と谷間の極端な落差、その根拠のその一つは、役員資質の劣化と労働界の「2007年問題」といわれる、1945年敗戦後の二世代にわたる活動家層の払底である。この傾向は、連合といったナショナルセンター、単産、単組のレベルまで共通している。人材の劣化は年を追って深刻化し、労働運動の危機の主要素となっている。また、新役員のなり手がなく、ひどい単組では会社の手を借りて役員構成がやっとできるところも。会社にしてみれば、三六協定の代表者がなくなっても困るし、労使自治の外形が壊れてしまっても困るといった事情がある。

3.連合のアキレス腱:自由な連合体、脆弱な財政

2016年4月、化学総連(全国化学労働組合総連合。住友化学・積水化学・宇部興産・日本板硝子等20単組・約4万6000人)が連合を脱退した。

ブリッジ相手のJEC連合とトラブルがあったわけでもなく、JEC連合は一年間かけて説得を試みたが「取りつく島もなかった」と仄聞している。連合本部の逢見事務局長がUAゼンセン加盟の化学部会(東レや旭化成)も介して説得を試みたが失敗した。脱退理由も明らかにしていない、というか「理由がない?」というのが実相だ。脱退理由の不存在といった脱退は前代未聞だ。もともと化学総連の出自は、総評の合化労連の右派分裂組織の集まりだ。筆者に流れてくる情報では、連合に加盟していても何のメリットもない、お金(組合費)がもったいないといったところ。

また、2011年、セイコーエプソン労組(1万1000人)が、連合長野そしてJAMから脱退した理由も実はお金(組合費)だった。この労組は組合の闘争資金を株式に投資して大損し、その穴埋めに上部団体費を充てるための脱退だった。

脱退理由とされる上納組合費(連合会費ふくむ)といっても、所属する産別へ納める組合費は一人7~800円/月くらいだ。しかし「万単位」の組合員を擁する単組となると、800円×1万人×12ヶ月=9600万円と、年間1億円近い上納金負担となる。しかし単組では一人平均・月5~6000円の組合費を徴収しているから5000円×1万人×12ヶ月=6億円、6分の一程度の所属産別への上納金を高い(無駄)とみるかどうかは、単組の執行部の「志」のレベル、一般組合員の民意のレベルによる。それ以前に、産別などの上部組織は傘下の大手単組には上部組合費の納入実人員の調整(サバ読み)を認めるなどの「便宜」を払って、その引き留めに苦労しているのが実態だ。加盟する産別に魅力や統制力がなければ、カンパニーユニオンと化した企業別組合はいとも簡単に脱退していく。語るに落ちる話しだ。労働組合(「単組」、単位労働組合の略)は、組合員が理由もなく、何時でも脱退できる任意団体ではない。「脱退可」のケース(理由)は組合規約に定められ、それ以外の脱退は「脱退権の濫用」となり無効だ。ユニオンショップなどで団結強制が法認される法内組合だ。しかし、問題は上部組織(産別など)から単組が脱退するケースだ。圧倒的多数の上部組織は産業別労働組合(産別)を名乗りながらも、その組織実態は単組の緩やかな連合体だ。「緩やかな連合体」とは、規約で単組単位の団体加盟方式をうたい、単組組合員の個人加盟方式を認めていない。連合結成に伴う、新しい産別結成(産別合併)の際に作られた規約からは「個人加盟」が排除された。単組の組織脱退に際して、組合分裂などの紛議・トラブルを未然に防ぐためだ。会社の息のかかった単組を多く抱えていた旧同盟系が、加盟方式は「団体加盟」一本に強く固執し、旧総評系が譲歩した結果である。

連合を、三階建ての家に例えれば、一階は企業別組合(単組)、二階は産業別組合(上部組織)、三階はナショナルセンター(上部団体)ということになる。組織労働者の66%、800万人の結集というけれど、企業別組合の集合体にとどまっている。二、三階を強化しようとしていない。社会正義という労働運動の魂が薄れている。労働運動家が少なくなって、労働組合の管理者が増えている。「連合の家」は下剋上?の力関係になっている。それを許しているのが、財政(組合費)の問題だ。

問題は、労働運動の血液である財政(組合費)の大部分を単組が握っていることだ。「連合会費は組合員一人月額30円。かっての総評会費は90円、同盟会費は60円で、連合会費は総評の三分の一、同盟の二分の一という非常に脆弱な内容で年間予算規模は24億円。図体は26万人と大きいが所詮は単組にすぎない私(注:山岸章)の所属する全電通(注:現・情報労連)の予算規模が140億円だから、連合の予算規模は全電通の五分の一以下に過ぎない。昨年一年間(注:2013年)にわが国労働組合が集めた組合費は6000億円に達する。連合予算の24億円はその0.4%にしかすぎない。10%とは言わないが5%(それでも300億円になる)程度をナショナルセンターに集中する努力をしなければならない」(初代連合会長山岸章、2014.11「連合結成25周年 語り継ぐ連合運動の原点」所収、p17)。結成から25年経過しても「三階建ての下剋上」の世界は少しも変わっていない。産別・大単組の潤沢な予算・財政・共済の絡む不祥事報道も増えている(週刊ダイヤモンド2009.12.5号特集「労働組合の腐敗」ほか)。連合初代会長山岸氏の箴言は「道半ば」というより、「彼岸に」といった現状だ。

4.連合に埋め込まれた三つの「地雷」:安保、原発、自衛隊

原発再稼働、原発輸出

昔、連合大阪ができた頃、関電労組の役員と原発について論争したとき、彼らが言ったことを思い出す。曰く、原発は危険なものであることは認識している。だから完璧な安全管理を講じている。関電は、危険極まりない欠陥自動車(=原発)を買わされている被害者の立場だ。原発は小さな事故は起こしているが死者は出していない。自動車は公害(排気ガス)をまき散らし、交通事故で毎年何千人もの大量死を出しながら、「反自動車」運動が起きない。自動車には許されて、なぜ原発が批判されなければならないのか!

続けて曰く、「原子炉は電機連合、鉄鋼材は鉄鋼労連、ウラン鉱・核廃棄物の輸送に造船や日通、そしてJAM(筆者の出身産別)からは格納容器、バルブ、パイプ、バッテリー、消防自動車、送電鉄塔などを購入している。連合傘下の組合は『反原発』など言える立場ではない」(関電労組役員)。そして、納入業者からすれば、すべてを電気料金に転嫁できる「総括原価方式」を採っている電力会社は「言い値」で買ってくれる「おいしいお客様」、だから利益(儲け)も大きい。

連合大阪では、ここ長くは電力(関電)や電機(パナソニック)が歴代会長を占めてきた。連合の運動方針では「社会的労働運動」や「労働を中心とする福祉社会」をうたっている。「己(おのれ)の出身企業の立場を擁護するのであれば、連合役員(社会的役割)など辞めて、おとなしく、当該企業内組合の役員に納まるべき」と、筆者は説諭したものだが、彼らは反原発運動などを抑えることを使命として連合役員に派遣されており、人事処遇制度で厚遇されているから、聞く耳を持たなかった。

しかし、福島原発のメルトダウンの大惨事(2011.3.11)から7年余、国や電力会社が深刻な事故の可能性を知りながら、それでもなお、原発の再稼動あるいは輸出(輸出はことごとく失敗し、東芝・日立・三菱重工などが解体・身売りの憂き目に。国に助けてもらうために電力に続き、電機・鉄鋼・自動車の組合が自民党寄りにシフト!)へとむかうのは、リスクを超える経済的・政治的利益があるからだ。稼働停止のうちはまだいいが、一転、廃止になれば原発装置は莫大な不良資産化し、破産してしまう。

「原発はなくても電気は足りている」といった反論では十分ではない。早晩、原発なくしては電気が足りないくらいの成長をする国々が次々に登場し、日本はますます成長の競争で負け組になり、そうなればなるほど、「核」への欲望を募らせる自民党政府と電力会社(労組)・原発メーカー(労組)は一蓮托生を強める。

すでに始まっている武器輸出、戦争特需

2017年、戦争法が成立、武器輸出はすでに解禁となっている。需要創出の最たる即効薬は戦争であることは、古今東西の「常識」である。武器産業のすそ野は広く、市場も世界規模だ。原発どころの比ではない。ここ200年で地球上の資源は枯渇しつつあり、中国などの経済大国化で「資源戦争」は激化の一途だ。当時の、旧民主党や旧民進党の連合系民間組合出身の候補者のリーフレットを観る限り、反原発・反戦争法の記載もなし、所属政党の党名の記載もない。また、組織内候補者は比例区での上位当選を目指しているから、「投票用紙には政党名を書かず、とにかく、候補者名だけ書いて!」と懇願し、組合員を愚弄していた。出身産別の組合員数に見合った票数を叩き出せずに落選する候補者も(2019.7参院選比例区では、私鉄総連の立憲候補は8万票で当選、JAMの国民候補は19万票獲得するも落選)。戦争になると企業別組合が戦争協力させられてしまい、連合がそっくり戦前の「産業報国会」に衣替えするのではないか。

戦争法制は、海外派兵から有事法制、国民戦争動員へとまさに切れ目なくつながっている。 違法な戦争に送られるのは、自衛隊員だけではない。武力攻撃事態法によれば「指定公共機関」とは「独立行政法人、日本銀行、日本赤十字社、日本放送協会その他の公共的機関及び電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人で、政令で定めるもの」とある。政府のHPによれば、それは各電力会社、ガス会社、船舶、航空、JR、私鉄、バス、日本郵便、運輸、電話、テレビ、ラジオなど多くの企業が含まれる。国家公務員、地方公務員ほか、戦争に協力させられる危険の高い、産業の労働者は戦争法制反対に取り組むこと必要だったが、関係する組合が何か行動したという話は聞いたことがない。

「戦争法」が成立し、軍需産業が「戦争特需」でさらに潤う。しかし、すでに「戦争特需」と準国家総動員体制は展開されている。2003年に武力攻撃事態法が成立し、自衛隊法が改悪され有事法制が定められて以降、医療・通信・運輸関係の官・民が平時の軍需動員されている。以下は、筆者が知り得た日通のケース(その右傾化はひどい!)。2004年1月にイラク派遣された自衛隊の先遣隊が使用する装甲車などを日通が請け負って現地まで輸送した。1994年ルワンダPKOでは、自衛隊の帰国に際して、基地撤収の仕事を日通の社員がしている。全日通労働組合は、「自衛隊のイラク派遣にともなう輸送業務は、安全確保と本人の同意があれば従事できる」とする会社方針を受け入れ、「『自衛隊のイラク派遣にともなう輸送業務』は実施され、『イラク関連輸送などの特需』といわれるほどに、テロに遭う危険な業務と引き換えに戦争特需といえるほどに会社の大儲けとなりました」(『全日通労働組合第59回定期全国大会議案集』)。リスクの大きい仕事は利益率も大きく、味をしめると止められなくなる。戦争特需の、大きな利益率は麻薬のように労使をむしばむ。「安保」「原発」「戦争法」で動けないのも連合の構造問題だ。連合は、安保法制(戦争法)反対の声すらあげず、集会・デモの一つも行なわなかった。労働組合が「産業報国会」化され、国家に総動員されてしまった第二次世界大戦の愚を繰り返してはならない。戦争になったら、労働者の生活も命も会社も何もかも吹っ飛んでしまう。それを先の戦争、原発事故(2011.3.11)で目の当たりにしたはずだ。

5.連合初の女性会長が突進する「ガラスの断崖」

連合中央の会長選びは、まずは「立候補の受付」➡(立候補がなければ)「役選委員会の推薦」の建前をとっているが、実態は大単産の間で取引されて決まっている。会長・事務局長ポストは、旧同盟(ゼンセンor電力)・金属労協(=JC、電機or鉄鋼or自動車)間でタライ回しされ、会長代行は旧総評(自治労)の指定席となっていた。

連合結成=統一によって、最も遅れた「労働運動の陥没地帯」の民間大企業労組と「労働運動の封じ込め地帯」の官公労が連合の上層部を構成することになったが、「一致しないことはやらない、できない」(国連の安保理のような)申し合わせに自縄自縛され続けてきた。連合30年余の歴史は、闘いのなかから理論・政策を生み出さず、労働運動の「ノンポリ化」「御用化」が進んだ。EVに大きく後れをとったトヨタ等の自動車総連、ゾンビ大企業がひしめく電機、競争力喪失の鉄鋼・造船を抱える基幹労連、償却できない不良資産を抱える電力などは自民党政府の援助なしには立ち行かない・・・2021.10.6連合大会に向けての役員選びが難航したのには、このような背面事情があり、大単産(というより当該の大企業労組)にとっては会長・事務局長職は拾うことがはばかられる「火中の栗」だった。JAM(連合第5位の39万人、約2000単組の内60%が100人以下の単組)から連合トップの会長が選出されること自体が稀有な事態であり、長年にわたり中小労働運動の輿望を担ってきたJAMにとっても手の届かない「ガラスの天井」だった。

ところが、目の当たりにするのは信じられぬ光景、「火中の栗」を拾わされた芳野会長の「暴走」だ。会長に選ばれたのは産別組合のJAMではなく、実は連合の「女性枠」でキャリアを積んできた芳野友子その人だったのだ。彼女の出身は同盟系の旧ゼンキン連合、富士政治学校出のアクターで、幸運にも組合出世コースにのったステレオ・タイプの反共かぶれの女性と仄聞する。連合会長に就任以降の彼女の言動は首尾一貫し、ぶれることはない。バックにシテ役が付き、首相官邸に通じる人物が仕切っていると思われる。

「立場が変われば、言うことが変わる人がいますが、私はそうはならない。・・JAMの皆さん、応援してください」(JAMのホームページ「JAMインサイト動画」)と自己の信念=反共主義を貫くことを公言している。確信犯というか、天真爛漫というか、本人も「ガラスの断崖」(注記)がよく見えていないようだ。しかし、彼女の破天荒ともいえる言動はエスカレート、メディアへの露出も頻繁になる。初の女性会長ということもあって話題性もあるのだろう。事態の急展開に、連合やJAMの内外で困惑が広がっている。目にするネットでは批判の書き込みが激増している。

「芳野会長は、昨年12月には自民党本部を訪問し、茂木幹事長らに就任あいさつ。・・今月5日には岸田首相が自民党の首相として9年ぶりに連合の新年交歓会に出席した。そんな『与党すり寄り』が評価されたのか、芳野会長は岸田政権が肝入りで発足させた『新しい資本主義実現会議』のメンバーにも選ばれたわけだが、これじゃあ、ネット上で『会長は野党つぶしの工作員なのか』なんて批判の声が出るのも無理はないだろう」「法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)は、こう言う。『労働者の利益を高めるためにはいま、何をするべきか。・・このままだと、連合は労働者の信頼を失い、組織そのものが自滅しかねません』」(2022.1.9日刊ゲンダイ「労働者の味方ヅラ『連合』の噴飯ふんぱん いよいよ正体があからさまに」)。このほか、「女性会長が破った『ガラスの天井』 なぜ共産党に拒否感?」(12.25毎日新聞・東海林智)、「自民 連合に接近」(2021.12.31読売新聞)、今にも「引き裂かれる連合!」といった見出しが躍る。連合の新年交歓会では岸田首相に挨拶させながら、立憲や国民の代表には挨拶させなかった。連合も罪なことをする。組合大会で上部団体より先に社長挨拶を受ける御用組合の作法以下だ。

軸のぶれない立憲野党、与党になめられない野党共闘がなくなれば、日本はアメリカにロシアとかイラクと同じように扱われ、等閑視される。このことが、連合の女性会長にはわからない。官邸警察ならぬ官邸労組をこれ以上増長させてどうする。

日本の連合には傘下組合への指導・統制力がない。ドイツのナショナルセンターDGBの産別統制力やIGメタル(金属産業別労働組合)の労使共同決定(協約による拘束力)もない。北欧のような強力なネオ・コーポラティズム(政労使体制)もない。狡猾な男たちが逃げ出し、最大の危機にある連合を引き受けた女性会長をして「ガラスの断崖」に突進させてはならぬ。岸田政権の「ちょうちん持ち」の役回り、「反共」「反共闘」の二つの「反共」を演じさせてはならぬ。最大のナショナルセンターのトップの地位はもはや「ガラスの天井」ではない。すべての労働者に最大限利益をなしうる「社会的地位」なのだ。「私は女性にしか期待しない」という女性の輿望も大きい、危機はチャンスでもある。老婆心ながら、労働組合 JAMの芳野友子さんに二言三言、自分ひとりの力でトップになったと過信しないこと、労働組合と政党の分限をわきまえること、そして「ガラスの断崖」に突進しないこと。(2022.1.22記)

 

(注記)ガラスの天井/ガラスの断崖:「ガラスの天井」とは、資質・実績があっても女性やを一定の職位以上には昇進させようとしない組織内の障壁を指す。女性やマイノリティが実績を積んで昇進の階段をのぼってゆくと、ある段階で昇進が停まってしまい先へ進めなくなる現象。鉄でなくてガラスであるのは「目では見えない障壁に阻まれている」ことからの表現である。反対用語の「ガラスの断崖(崖っぷち)」とは、企業の経営者や女性の政治家の選挙候補者などについて、失敗する可能性が最も高い危機的状況や不況の時期に、女性が男性よりもリーダー的なポジションにつきやすいとされる現象を指す用語である(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

かなめ・ひろあき

1944年香川県生まれ/1967年総評全国金属労組大阪地方本部、91年金属機械労組大阪地本書記長、99年連合大阪専従副会長/93~03年大阪地方最賃審議会委員、99年~08年大阪府労働委員会労働者委員/著書に『倒産労働運動―大失業時代の生き方、闘い方』(編著・柘植書房)、『大阪社会労働運動史第6巻』(共著・有斐閣)、『正義の労働運動ふたたび』(単著・アットワークス、労働ペンクラブ賞)ほか。

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