論壇/資料――東京五輪中止署名

東京五輪の中止呼びかけオンライン署名に多数の賛同集まる

2021年8月8日、コロナ感染が爆発するなか閉幕した今次TOKYO2020は、新型コロナウイルスの感染が全世界を覆うななか、多くの内外の人々の“中止または延期せよ”の良識ある声に耳をかさず、菅政権が自己の醜い政治的目的で強行したものである。それにしても今次五輪はスキャンダルにまみれた大会であった。IOCが美しい理念を掲げようとも、その実態が徹底した商業主義に毒され、利権に塗れたのであることを世界の人々の心に焼き付けた。会長のバッハなど「ボッタくり男爵」と全世界の流行語になる始末であった。

開催国日本も、当初の「復興五輪」など吹き飛んで、ただただ菅政権の延命を図るどす黒い政治目的で強行されたものであった。それにしても開催への過程でスキャンダル続発、それも人権や差別、歴史修正主義に係わる深刻なものであった。開催権をめぐっては驚愕の贈収賄が指摘され、フランスの司法当局は、前JOC竹田恆和会長を起訴すべく今も捜査を続けている。

こうしたなか弁護士の宇都宮健児さんが署名サイト「Change.org」を通じて「人々の命と暮らしを守るために、東京五輪の開催中止を求めます」を呼びかけ、5月5日に開始、わずか32時間で10万筆を突破した(8月10日午前7時現在459,303)。7月15日には45万1867筆の署名を集め、IOCバッハ会長、菅総理、小池都知事らに提出した(この署名は、2012年に同サイトの日本語版が開設されて以来、最多を更新している)。

また菅政権による東京五輪の強行開催の動きが強まる中、上野千鶴子さんや飯村豊(元フランス大使)らが、緊急の「危険性がますます明らかになっている東京五輪開催の中止を訴えます!」を7月2日から同サイトで呼びかけ開催直前の7月20日には14万を突破した(8月10日午前7時現在143,167)。(編集部)

 

人々の命と暮らしを守るために、東京五輪の開催中止を求めます

宇都宮 健児

宛先トーマス・バッハ(国際オリンピック委員会会長)/アンドリュー・パーソンズ(国際パラリンピック委員会会長)/菅 義偉(内閣総理大臣)/丸川珠代(五輪相)/小池百合子(東京都知事)/橋本聖子(東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長)

 

現在、国際オリンピック委員会(IOC)、公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)および東京都は、2021年の東京オリンピック・パラリピック開催を強行しようとしています。ところが、周知のように東京都のみならず、国内各地、さらには世界各国では今日に至るまで新型コロナ感染拡大はまったく止まっておりません。昨年末から開始されたワクチン接種も、現在のところ欧米などの一部地域で普及しているにすぎず、感染防止の決定打とはなっておりません。

命や暮らしを危険にさらしてまで東京五輪を開催するのか

このような状況下で、本年7月に東京オリンピック・パラリンピックを安全に開催できると考えることは極めて難しいと言わざるをえません。この状況で開催すれば、「平和の祭典」であるはずの五輪は、その理念から大いに逸脱することになります。出身国によって、満足のいく準備をまったくできなかったアスリートとそうでないアスリートのあいだに、多大な格差が生じます。また、東京に来たところで、感染のストレスにたえずさらされ、厳しい制限を課せられては、満足のいくパフォーマンスを発揮することは不可能です。

東京オリンピック・パラリンピックを7月に開催するためには、大勢の医療従事者の方々、また医療施設や医療設備などの貴重な資源、その他のさまざまなリソースを割かなければなりません。しかし、すでに各種団体が指摘するように、現在の東京都および日本全体にその余裕はまったくありません。外国からの観客を制限したところで、五輪は1万5千人にも及ぶ大規模な人の移動と接触を引き起こします。五輪によって感染状況が悪化することは大いにありうると言えます。

ただでさえ深刻な不足に直面している医療資源を五輪に回すことは、コロナ禍で疲弊している医療従事者の方々をさらに苦しめ、住民および参加者の命と暮らしを危険にさらす ことになります。

人々の命や暮らしを守ることに資源を割くべき

また、新型コロナ感染症により、多くの人々は命を脅かされると同時に、経済的にも困窮を強いられています。とりわけ、非正規雇用で働くことの多い女性・若年層・老年層の暮らしは、わずか一年たらずで劇的に悪化しました。現在、多くの方が、民間団体の主催する食糧や住居の各種支援に頼って暮らしています。このような状況のなか、五輪の延期にともなう追加費用は3000億円にも上りました(経費総額は1兆6440億円)。

人々の命と暮らしを守ることが自治体の本義であるならば、東京五輪は一刻も早く開催中止を宣言し、窮乏にあえぐ人々に資源を割くべきではないでしょうか。

国内外から高まる五輪中止の声に耳を傾けて

すでに国内外での新聞等による各種世論調査では、五輪開催の中止または延期を求める声がいかに多いかが繰り返し示されています。また、国内外のメディア、多くの政治家たち、またアスリート自身も五輪開催を難しいとするとの意見を繰り返し発表してきました。

政府や都がいまだに五輪中止の判断や要請をしていないことはあまりに遅い失策ですが、今からでも東京オリンピック・パラリンピックの今夏開催中止を即刻決断し、五輪中止によって利用可能になった各資源を、新型コロナウィルスの感染拡大を防ぎ、人々の命と暮らしを守るために向けることを強く求めます。

 

危険性がますます明らかになっている東京五輪開催の中止を訴えます!

◆呼びかけ人

浅倉むつ子(法学者)/飯村豊(元外交官)/上野千鶴子(社会学者)/内田樹(哲学者)/大沢真理(東京大学名誉教授)/落合恵子(作家)/三枝成彰(作曲家)/佐藤学(東京大学名誉教授)/澤地久枝(ノンフィクション作家)/田中優子(前法政大学総長)/津田大介(ジャーナリスト)/春名幹男(ジャーナリスト)/樋口恵子(評論家)/深野紀之(著述家)

 

◆宛先

トーマス・バッハ(国際オリンピック委員会会長)/アンドリュー・パーソンズ(国際パラリンピック委員会会長)/菅 義偉(内閣総理大臣)/丸川珠代(五輪相)/小池百合子(東京都知事)/橋本聖子(東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長)

 

東京五輪開催の危険性がますます明らかになっています。私たちは五輪主催者が状況をしっかりと直視し、開催を中止することを緊急に求めます。

この内閣総理大臣、IOC,OC、都知事への要望書にご賛同の署名を頂ければ幸いです。

いよいよ五輪開催が予定される期日が迫ってきました。私たちは昨年の開催延期の決定以来、日本政府と五輪主催者が「安心安全」のスローガンをどのように実現するのか、国民に納得のいく説明を行うのを待ってきました。残念ながらそのような説明が行われていないどころか、逆に感染防止体制の様々な欠陥が明らかになってきました。また、現在首都圏ではコロナの感染者数が再拡大する傾向にあり、感染力の強いデルタ株の割合も増えています。高齢者以外の方々にあまねくワクチン接種をおこなうことも不可能であると報道されています。このように低いワクチン接種率で行うことになろうとは1年前に考えてもみませんでした。私たちの不安は急速に高まっています。

私たちの怒りも深くなっています。日常生活の抑制を求めながら、数限りないコロナクラスターを無数につくる可能性を秘めた五輪開催を強行しようとする不条理に、また子どもたちから運動会を奪いながら観戦を求めようとする大人の身勝手に怒っています。

中止を訴えるデモや署名運動が各地で行われています。当然のことです。

このように1年前に延期を決めたときと現在では、開催をめぐる条件が変化しているにもかかわらず、IOCと日本政府は開催ありきで、市民の声を聞く気が全く無いようです。市民の間には今さら何を言ってもと無力感が拡がっていますが、それでもこの切迫した時期だからこそ、最後のチャンスと考え、あえて言うべきことを言っておきたいと、私たちもこの署名をもって、その隊列に加わります。 日本国民の健康と命、そして世界の人々の健康と命が守られなくてはならないと考え、政府に改めて訴えます。歴史的暴挙ともいうべきこの東京五輪が中止されることを求めます。

心配しているのは日本人だけではありません。世界の人々が心配しています。それは感染のくり返しは新たな変異株を生み、世界中に広がるからです。菅総理大臣は、"安心安全"のオリンピックにすると言われますが、世界の方々も納得していません。日本は世界に迷惑をかけようとしています。この心配が海外のメディアから伝わってきます。これは「スーパー感染拡大イベント」だ、なぜ中止しないのかと。

感染を防ぐためには入国、移動、競技場のアレンジ、選手村やホストタウンでの生活、病室の確保、保健所による体制作り等、極めてきめ細かな対策が取られる必要があります。

すでに海外の選手6名が実は陽性者であったとのニュースが流れています。これから10万人近くの海外の選手やオリンピック関係者が入国してくると何が起きるのかを予想させるのに充分です。「スーパー感染拡大イベント」にならないようにすることはほぼ不可能だと思われます。バブル方式は空想の産物です。

もはや残された時間は少なくなってきました。私たちは切羽詰まったお願いをしております。遅くなる前にこの暴挙を中止する決断をしていただきたいと。

 

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