特集 ●第4の権力―メディアが問われる  

エコロジー社会改革は幻に終わるのか

ドイツ総選挙(9月26日)の動静、影落とすコロナ禍

在ベルリン 福澤 啓臣

緑の党は、前回の連邦議院選挙では得票率8.9%、議員数67名と最少の野党だったが、今年の選挙では第1党の座—3倍増—を狙おうとするほど、この3年間で支持者が大幅に増えた。グレタ・トゥーンベリさんが始めたFFF運動がドイツの若者に火をつけ、地球を将来の世代も住めるように残さなければいけないという意識が草の根のように社会に広がったからだ。それが環境保護を党の中心課題とする緑の党への大幅な支持につながった。一時与党のCDU/CSUと支持率が拮抗するほどになり、エコロジー社会改革が起きそうな雰囲気だった。

ところが、昨年春以来のコロナ危機がこの機運に水をかけてしまった。 現在ワクチン接種のおかげでコロナ禍も収束の気配になり、秋の投票に向けて選挙戦がたけなわだ。エコロジー社会改革を巡るドイツ社会の動向およびEUの取り組み、そして政党の紹介から、選挙戦について報告する。

Ⅰ.ドイツとEUの気候保護対策

温室効果ガス対策

2015年末に世界中の国々によってパリ協定が結ばれた時点では、2100年以内に温暖化の対策が実を結べば、世界平均気温の上昇を産業革命前に比べて2度以内、できれば1.5度以内に食い止められるだろうと見られていた。ドイツ政府もその目標に合わせて、一年後に温室効果ガス排出量を30年までに90年比で40%削減し、50年までに気候中立化する(同ガスの実質排出ゼロ)という政策を決めた。

ところが、温暖化が予想以上に進んでいるので、ドイツ政府は19年により厳しい気候保護法を制定し、30年までに90年比で温室効果ガスの55%削減という目標を掲げた。だが30年以降のロードマップを明記していなかった。そこで9名の若者たちが環境保護団体の支援の下に、「気候保護法が2031年以降の温暖化ガス排出量の上限値を明記していないことは、将来の世代が安全かつ健康に生活する権利を侵害している。国は将来の世代の生命と健康を保護する義務を怠っている」とドイツ連邦政府と連邦議会を連邦憲法裁判所に訴えたのだ。ドイツでは、国家による基本権侵害に対しては、同裁判所に直接訴えることができる。

彼らが依拠している研究成果の一つに「惑星の限界論(プラネタリー・バウンダリー論)」がある。ロックストローム博士(ポツダム気候影響研究所長)らの提唱するこの惑星・地球の限界論には9つのカテゴリー(気候変動、生物多様性の損失、海洋酸性化など)があるが、そのうち三つのカテゴリーですでに限界点を超えてしまっている。それでも、政治の世界も地球の多くの住民もこの厳しい状況を直視しようとしない。グレタさんの叱咤と苦悩の叫びがよく分かる。

憲法裁判所の気候保護法違憲判決

連邦憲法裁判所は今年の4月に、 政府の気候保護法が将来世代の自由の権利を侵害しているという判決を下した。具体的には、19年に施行された気候保護法が30年以降の温暖化ガスの削減に十分ではないと判断し、22年末までに厳格化するように政府に命じた。

ドイツの基本法第20条a項は、「国は将来の世代に対して責任があり、そのために立法及び行政と司法を通じて・・・自然的生活基盤と動物たちを保護すべきである」と規定している。気候変動による自然環境の悪化は生活基盤の破壊につながるので、国は適切な対策を講じて、生命と健康を守らなければならないと理解できる。裁判官たちは、「現在の気候変動法に30年以降の温暖化ガス削減の具体的な目標が記されていないことは、世代間の公平な削減負担を損なっている。それは将来の世代に過重な削減努力を強いることにつながり、彼らの生活の自由を侵害する恐れがある。だから、政府は22年末までに現行法を改めなくてはいけない」と判決を締めくくっている。司法によるエコロジー社会変革への後押しである。

この判決後のメルケル政権の対応も早かった。わずか13日後には、30年までに温室効果ガス65%削減と40年までに88%削減、最終的に45年に実質ゼロにする気候保護法の改正案を閣議決定した。さらに環境保護対策に関して、これまで省庁間の力関係で比較的弱い環境省が全体の責任を負わされてきた慣行を改めて、経済、運輸、建設などの各省が責任を持って30年までに達成すべき上限値を決めた。30年以降の上限値は24年に決めることにした。この法案は、6月24日と25日の二日間で連邦議会と連邦参議院をスピード通過したのだ。

EUのグリーン・ディール政策

ドイツだけの気候保護対策を見ていても、全体像を掴むことはできない。EU(メンバーは27カ国で、人口は4億4千万人)自体も温室効果ガスを50年までに実質ゼロにするグリーン・ディール政策を19年以来進めているからだ。さらに外国から脱炭素をクリアしていない安い製品に対して特別な関税を課する炭素国境調整メカニズム(CBAM )が導入済みだ。

EU内における意欲的な取り組みのひとつである多国籍プロジェクト「水素グリーン・スティール」を紹介しよう。鉄鉱石から酸素を取り除く(還元する)現在の製鉄法ではコークスを使う。その際に大量の二酸化炭素(CO2)が発生する。その量は、たとえばドイツの製造業の40%にも達する。ところが、還元の際に水素を使えば、二酸化炭素は全く排出されない。

水素還元法によるプロジェクトは2023年からスウェーデンで始まる。ドイツからは製鉄会社ティッセンクルップとザルツギッターが参加する。2026年に鉄鋼生産を始め、2030年には500万トンを製造する。ドイツ全体の鉄鋼生産量の八分の一に相当する。それに必要な水素は、電力大手のバッテンファル社が供給する再生可能エネルギーで作られる。日本ではこの工法の実現は早くても数十年先と言われている。

ドイツはEUの中で率先して経済のグリーン転換を進めている。中国、米国、東南アジアなどを競争相手とみなしているからだ。このグリーン産業化の競争に負けることは30年以降に先進工業国としての豊かさを失うことを意味している。

炭素税(CO2税)が気候保護政策の要

ドイツ国内では、長い間保守政党や経済界から拒否されてきた炭素税が今年になってやっと導入された。炭素税は市場メカニズムを利用し、温室効果ガス削減に効果があるとしていくつかの国では導入済みだ。

炭素1トンあたり3千円からスタートした。1年半前に同税の導入が議論されていた時に、政府は産業界及び国民への負担が重くならないようにと、トン当たり1200円を計画していたが、緑の党が3千円を主張し、実現させた。現在緑の党は23年には7200円への引き上げを求めている。政府案では4200円で、25年に6600円への値上げになっている。産業界はもちろん政府案を支持しているが、中には緑の党案に理解を示す先見の明のある経済人もいる。ちなみに日本は現在289円、スウェーデンは1万4400円である。

エコロジー社会とグリーン経済

筆者の理解するエコロジー社会とは、国民の相当部分が、人類及び生物の生存に適する我々の惑星・地球の自然環境が不可逆的に破壊されつつある事態を理解した上で、これまで我々が享受してきた豊かさが破壊の集積をもたらしたことを反省し、ライフスタイル及び社会構造を変えようとする社会である。その達成度指標として、ドイツでは緑の党の支持率に現れると見ている。

興味深いことに、エコロジー社会と似たような概念としてのグリーン社会はドイツ語圏や英語圏ではあまり使われていないが、日本語では使われている。菅内閣の定義では、「環境対策が経済の制約ではなく、社会経済を大きく変革し、投資を促し、生産性を向上させ、産業構造の大転換と力強い成長を生み出す社会」となっている。

同じような定義を英語やドイツ語では、グリーン経済と名付けている。経済成長をグリーン化によって求める考えには、「気候ケインズ主義」、「グリーン・ニューディール」、「緑の経済成長」などあるが、斎藤幸平氏は、非常に否定的だ。しかし、ドイツの議会内政党は、後に紹介するように多かれ少なかれグリーン経済に望みを託している。筆者もエコロジー社会の一環としてグリーン経済があるなら、一概に否定しない。

直接民主主義:社会の公平さを求める戦い

ドイツでは、市場主義経済が生み出す社会の不公平さを是正する戦いが直接民主主義運動によって随所に起きている。エコロジー社会変革を求める市民も多数参加している。ベルリンの例をいくつか紹介しよう。

ベルリン市内にあるテンペルホフ空港(オリンピックのために36年に開港。後楽園球場の32倍の大きさ)が閉鎖され、その利用目的について14年に住民投票が行われた。市政府は中心に公園を残して、周囲に集合住宅群を配置する計画を提案し、市民グループは新しい建造物は全く建てずに全面的に市民公園として残す案を提案した。その結果65%もの高い得票率で住民案が採択された。現在多くの市民がこの特に何もない巨大な公園を楽しんでいる。

さらに成功した住民投票は市の水道網の買い戻しだ。自由化の波に乗り、99年にベルリン市政府(CDU)は市の水道網を私企業に売ってしまった。07年に市民グループが買い戻しを求め、住民投票運動を始めた。市政府が提出された住民投票の結果を認めなかったので、市民側は州憲法裁判所に訴えて、認めさせた。そして、最終的に2013年に市政府(SPD)に買い戻させた。この買い戻しは1400億円と高くついたが、市の財政負担にならないように水道網の利益で2043年までに支払われる計画だ。社会的共通資本としての水道網が市民の手に戻ってきたのである。

現在進行中の戦いとして、3000戸以上の賃貸マンションを所有している巨大不動産会社の公営化を目指す住民投票が秋にベルリン市で行われる。その背景には、この10年間で家賃が平均2倍も値上がりしたという住宅事情がある。ベルリン市の選挙権を持っている住民の7%が署名すれば、住民投票への請求が有効になる。 250万人が選挙権を有しているが、必要な17万5千筆を超えたので、住民投票が9月26日、つまり総選挙の日に行われる。ベルリン市の州議会選挙も行われるから、ベルリン市民は三つの投票をすることになる。

II.ドイツの各政党と選挙戦

選挙戦について語る前に、コロナの現状を簡単に記しておこう。現在国民のワクチン接種は7月20日現在で国民の60%が一回目を、さらに47%が2回目の接種を終了している。そのせいか感染状況を見る指数として重要な10万人当たりの7日間のインシデンス数は、5月の150人から10人前後と急激に下がっている。そのため様々な規制が緩和されて、市民はコロナ以前の生活を楽しみ始めている。

政党紹介

現在5%条項をクリアして連邦議会に進出している政党は、キリスト教民主同盟CDUとキリスト教社会同盟CSU、社会民主党SPD、緑の党、自由民主党FDP、左翼党、ドイツのための選択肢AfDの7党である。CDUとCSUは二つの政党であるが、統一院内会派として協力しあっている。

CDU(キリスト教民主同盟、創立1945年、連邦議会議員200名、党員40万人) 

選挙のスローガンは「安定と維新」。CDUは戦後の主な期間政権を担当し、中道右派の政党であったが、メルケル首相が党首としてのこの15年間の間に左傾化した。特に15/16年の難民危機の際には、それまでの難民受け入れ反対をやめて、大量の難民を受け入れたメルケル首相の変身ぶりが目立った。そのためドイツのアイデンティティが薄まるという危機感を抱いた党員や支持者は少なくなかった。

これまでAfDとは議会内外で協力しないと明言してきているが、CDUの中には協力すべきだと考える党員も少なくない。特に旧東ドイツの州ではAfDは民主的な選挙で20%以上もの票を得ているので、無視すべきでないという考えだ。

CSU (キリスト教社会同盟、創立1945年、議員45名、党員14万人)

CSUはバイエルン州の政党であるが、議会ではCDUと統一院内会派を組んでいる。CDUより右に位置する政策が多い。特に15/16年の難民危機の際にはメルケル首相の受け入れ政策に真っ向から反対した。現党首マルクス・ゼーダー氏は、弁が立ち、カリスマ的なリーダーで、CDUの一部からも連邦首相候補として期待されていたが、結局CDUのラシェット氏に譲った。CSU独自の公約として、法人税の減税、さらに母親年金の増額を掲げているが、ラシェット氏は、脱コロナ禍の現在、財政的に余裕がないからと、賛成していない。

豪雨水害の直後ゼーダー氏は、バイエルン州は政府案を5年前倒しにして、40年に気候中立を目指すと発言したが、ポピュリスト的だと批判されている。

FDP(自由民主党、1948年創立、議員80人、党員7万人)

中心政策は「減税、規制緩和、デジタル化、財政赤字ゼロ方針の維持」である。自民党は戦後長い間得票率5%から10%の小政党であったが、連立政権の際にキングメーカーの役割を果たしていた。イデオロギー的に近いCDUとの連立政権を長く組んできた。支持者には中小企業の経営者、医者、上昇志向の強いサラリーマンなどが多い。気候保護に関しては、炭素中立の実現に、できるだけ市場メカニズムによる政策、つまりグリーン経済を積極的に推している。現在は支持率が伸びて10%を超える勢いだ。

AfD(ドイツのための選択肢、2013年創立、議員86人、党員3万2千人)

中心公約は「EU脱退、難民受け入れ反対、コロナ規制の廃止」である。13年に反EUを掲げて、創立された。特に15~16年の難民の受け入れ後に勢力を伸ばした。17年の総選挙では一挙に12.7%の得票率で97議席を獲得し、内外の民主主義者に大きなショックを与えた。

ドイツは過去の反省はすでに十分行なってきたと主張し、自虐史観に猛烈に反発している。党内の極右メンバーは憲法擁護庁の監視の対象になっている。すると、擁護庁は合法的に彼らの電話を盗聴し、郵便やメールを読める。地球温暖化は自然の現象で、化石燃料によるものではないと主張しているので、気候保護政策もない。

旧東独の3州では得票率が20%を超えている。これらの高い支持率は、住民たちが豊かさから置き去りにされたと感じているからだと言われている。

コロナ規制に反対するデモが時々あり、AfDの支持者も参加して、時には1万人も2万人も集まる。彼らはコロナウイルスは存在しないと主張し、行政によるコロナ規制を基本的人権の侵害として反対デモをする。そのため彼らのデモが始まった昨年の夏には裁判所もデモの禁止令を差し止める判決を何度も出した。ところが、デモ隊はマスク着用や最低距離の保持などのコロナ規制を守らなかったので、デモが始まると、たちまち機動隊によって解散させられるようになった。

緑の党(同盟90 /緑の党、創立1980年、議員67名、党員11万人)

緑の党の中心公約は「より積極的な気候保護対策を、より公平な社会を」。ドイツの経済体制の基礎になっている社会的市場主義に環境対策を加えたエコロジー市場主義を提唱している。さらに市民参加による直接民主主義の拡大を訴えている。

 環境問題プロパーの党から社会の公平さを目指す党へと脱皮しようとしている。支持層には学歴も収入も高い都市部の市民が多い。旧東ドイツの住民の間では人気がない。気候保護に関しては、脱石炭を政府案の38年に対して、30年を求めている。次の4年間で150万軒の住宅に太陽光発電パネルを設置する。炭素税の収入から市民にエネルギー補助金を支給するなどが選挙公約だ。

SPD(ドイツ社会民主党、1863年創立、議員153名、党員41万人)

スローガンは「未来、尊敬、ヨーロッパ」。気候変動に対しては、40年までに電力用化石燃料ゼロ、45年までに気候中立を求めている。首相候補のショルツ氏が財務大臣である事もあり、公平な社会を目指し、税制改革の実現を目指している。中間層には減税し、上から5%の富裕層への負担を増やすべきだと主張している。 さらに95年に廃止された財産税を復活させる。SPDは11年間もメルケル首相と連立政権を組んだが、その間党の特色をアッピールできなかったという悔やみがあるので、今回はCDUとの連立は組まないだろうと見られている。

左翼党(Die Linke、2007年に創立、議員69名、党員6万人)

中心公約は「気候保護と税制と健康保険の分野で社会正義の貫徹」。旧東ドイツの壁の崩壊後誕生した政党PDS(民主社会党)の支持者及びSPDの中道化に不満を抱き、より社会主義的政治を望む市民が中心になって結党した。より公平な社会、EU賛成、市場経済への大幅な規制、富裕税導入、最低賃金時給1560円、NATO脱退、国防軍の海外派兵絶対反対などを掲げる。共産主義を目指す党員も少なくない。

旧東ドイツの州では支持者が多く、テューリンゲン州では同党のラメロー氏が州首相を務めている。ドイツの16州の中で12の州で議会に進出している。ズザンネ・ヘニッヒ=ウイロー氏とジャニーン・ウイスラー氏の女性二人が今年党首に選ばれた。

気候保護に関しては、35年までに産業とエネルギーを気候中立にする。グリーン転換基金を設け、毎年6兆円の予算でグリーン転換企業を支援する。鉄道で5時間以内に到達できる地点への航空路線を禁止するなど、部分的に緑の党よりラディカルである。さらに市民参加による直接民主主義を強く支援している。

三名の首相候補

まずCDU/CSU候補者アルミン・ラシェット氏だが、同氏は現在1600万人と最も人口の多いNRW州の首相をしている。同州は重工業の盛んなルール工業地帯を抱え、伝統的にSPDが強かったが、4年前に3度目の挑戦で同氏が首相の座を射止めた。重工業が斜陽産業になり、失業率も高く、問題が多い。州首相としてのラシェット氏は高く評価されている。ただ、連邦首相候補の決定前には、CSUのゾーダー氏に党内の支持率の面で大きく引き離されていたが、CDUの幹部会の後押しがあり、最終的に候補者の椅子を勝ち取った。

SPD候補者のオーラフ・ショルツ氏はハンブルク市政府の市長(=州首相)を長く務め、評価が高かった。現在の連立政権では、副首相兼財務相として数字にも強く、手堅いとの評判を得ている。昨年からのコロナ危機では、2014年以来の赤字予算禁忌ルールを離れ、大胆な財政政策で対処し、存在感を発揮している。

緑の党候補者のアンナレーナ・ベアボック氏は連邦政府でも州政府でも行政畑の経験が全くないので、行政能力が疑問視されている。溌剌とした新鮮さは、未知数の魅力と言えなくもないが、候補決定以来いくつかのミスをしたせいで、さらに女性候補ということもあるのか、相手陣営及び保守的なメディアから激しい攻撃にさらされている。

特に同氏の著作が6月21日に出版されると、いくつかの箇所が出典なしで、引用している、つまり盗作だと専門家から指摘された。学術論文ではないので、厳密な出典は記さなかったと、同氏は防戦一方になっている。ここ数年ドイツでは大臣クラスの政治家が博士論文の盗作疑惑で辞職している背景がある。

ドイツ連邦議会の選挙に向けて首相候補者の三人が出揃った5月の時点で、 ベアボック氏は二人よりも人気が高く、幸先良いスタートを切った。ラシェット氏は出遅れたが、ベアボック氏のミスに救われたようで、追い上げてきた。7月16日の第二公共放送ZDFのアンケートによると、ベアボック氏への支持率は18%、ラシェット氏は37%、ショルツ氏は28%になっている。

ただし、年齢別の支持率では、30歳までの若い市民は56%がベアボック氏を、19%がラシェット氏を首相に望んでいる。だが60歳以上の市民は42%がラシェット氏を、11%がベアボック氏と年齢によって明確に分かれている。

エコロジー社会派対保守派

最終的に連邦首相が選ばれるのは、比例代表制の枠内で過半数を制した政党か、政党連合によるが、AfDがいるので複雑になる。同党は10%前後の票を得ることになるだろうが、どの政党も同党とは連立しないと宣言しているので、野党プラスAfDの得票率を上回らないと、政権が組めない。その上ドイツの小選挙区比例代表併用制という選挙制度のために、議席数が定数より増えてしまうので、もしかすると比例代表制の得票率だけでは決まらないかもしれない。これはとても複雑な制度なので、説明を省く。

現在の状況をZDF(Zweites Deutsches Fernsehen:第2ドイツテレビ)のアンケートの数字によって見てみよう。予想される得票率はCDU/CSU:30%、緑の党:20%、SPD:15%、黄色のFDP:10%、左翼党:7%、AfD:10%である。緑の党とSPDと7%の左翼党の緑赤赤(エコロジー社会派)は42%と、黒黄の40%を超えているが、AfD10%があるから、実効過半数に及ばないので、政権を獲得できない。同様に保守派も40%で及ばない。

三人の候補者が出揃い、選挙戦が本格的に始まった5月の時点では、エコロジー社会派対保守派の戦いに発展するかと思われたが、黒と緑の妥協政権になる公算が高い。やはりドイツ国民の多くは、緩やかな社会変化を望んでいるのであろうか。その点CDUのスローガン「安定と維新」は絶妙である。加えてコロナによる1年以上もの禁欲蟄居生活から解放されて、国民には再び生活を楽しみたいという気持ちが強くあるのだろう。しかし、先週からの豪雨による大規模水害によって、気候問題が再びドイツ社会の最重要テーマに復帰しつつある。まだ、戦いの帰趨は決まっていない。CDUの支持率が下がれば、緑の党とSPDとFDP連立政権の可能性も浮上してくるのだ。(ベルリンにて 2021年7月20日記)

 

ふくざわ・ひろおみ

1943年生まれ。1967年に渡独し、1974年にベルリン自由大学卒。1976年より同大学の日本学科で教職に就く。主に日本語を教える。教鞭をとる傍ら、ベルリン国際映画祭を手伝う。さらに国際連詩を日独両国で催す。2003年に同大学にて博士号取得。2008年に定年退職。2011年の東日本大震災後、ベルリンでNPO「絆・ベルリン」(http://www.kizuna-in-berlin.de)を立ち上げ、東北で復興支援活動をする。ベルリンのSayonara Nukes Berlin のメンバー。日独両国で反原発と再生エネ普及に取り組んでいる。ベルリン在住。

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