特集 ●第4の権力―メディアが問われる  

バイデン対トランプ攻防戦ヤマ場に

「大型投資計画」VS.「州選挙法改変」

国際問題ジャーナリスト 金子 敦郎

米国の分断はどこに行きつくのだろう。もう後戻りできないのではないかと思われるほど、ひたすらに進んでいる。バイデン民主党政権のコロナ貧困からの巨額の脱出計画に続く大型インフラ投資計画は、トランプ共和党の「100%阻止」(マコネル党上院総務)の抵抗を押し切ることができれば、グローバリズムを断ち切る新たな地平を開く可能性を秘めている。

トランプ党はバイデン政策潰しの他には、ただ「選挙を盗まれた」とする「虚構」(民主党は大嘘と呼ぶ)の上にさらに「虚構」を積み重ねることに集中している。これによって「トランプの世界」を固め、1年3ヶ月後の中間選挙で議会を取り戻し、2024年大統領選挙で政権を奪還する、というトランプ氏が描く筋書きが浮かび上がっている。その成否がかかるのが州選挙法の改変キャンペーン。バイデン対トランプのこの非対称な攻防がヤマ場に差し掛かっている。

バイデン・ニューディール

バイデン政権が「雇用創出計画」と呼ぶ2兆ドル(220兆円)超のインフラ投資計画は、➀インフラと呼ばれる道路、鉄道、港湾、下水道、電気、公共施設などへの投資だけでなく、➁気候変動、サプライチェーン、学校・教育、子ども政策、職業教育、AIやデジタルなども包括的な経済・社会基盤を「ヒューマン・インフラ」と呼んで、その整備、強化が盛り込まれている。そのための財源は企業増税に求める。

➀に当たるインフラは大恐慌対策としてルーズベルト政権のニューディールで建設されたものも残っていて、老朽化が進んでいる。この部分への投資には経済界は好意的。共和党も反対はしにくい。だが、➁の部分は民主党リベラルの社会主義的政策を抱き合わせにしたものと強く反発した(「現代の理論25号」拙稿「さらなる分断へ突き進む米国」)。

異例の超党派合意、上院審議へ

上院の両党議席は50対50、民主党は議長を兼ねるハリス副大統領の1票を加えて多数だ。「雇用創出計画」に対する共和党の反対をこの多数で押し切るべきではないと数少ない保守派議員の1人が強硬に主張、彼らに離反されると多数を失うので、党としては慎重に扱わざるを得ない。党派対立解消の努力を公約にしているバイデン大統領が引き取って、両党穏健派議員5人ずつからなる超党派グループが協議を重ねた結果5500億ドル(約60.5兆円)のインフラ投資計画で合意した。

バイデン民主党はこの両党有志合意をもとに1 兆ドル(110兆円)超のインフラ投資計画をまとめ、雇用創出計画から切り離した超党派のインフラ投資計画法案として、夏季休暇が迫る上院に出した。採決の結果、共和党から予想を超える17人が賛成、民主党全員50人と合わせて賛成67票、反対は共和党の32票(欠席1)で、審議に入ることが決まった。

バイデンの勝利、トランプ激怒

上院にはフィリバスターと呼ばれる独特のルールがあって、重要案件の採決には議題に取り上げるか否かをふくめて単純多数ではなく、議員定数100人の5分の3の60票の賛成を必要とする。両党の決定的な対立が続いている中、重要法案が反対党から17票も得てフィリバスターを突破したのは異例だ。リーダーシップをとったバイデンの大きな勝利と言える。

注目されたのは共和党上院トップ、院内総務を長年務めてきたマコネルが賛成に回ったことだ。これで同案は上院通過の見通しになり、民主党多数の下院で成立する。マコネルは議事堂襲撃事件でトランプが扇動したと公に発言、弾劾裁判にも賛成して関係が悪くなっていた。

マコネルは手練手管に長けた老練政治家として知られる。本心はわからないが、トランプが強引に共和党支配固めを進めていることに党人派や穏健派の反発が強まっているという党内事情を反映しているといっていいだろう。トランプは酷い取引だ、共和党は弱くてバカで、ものも言えないみたいに思われる、愛国者は決して忘れないなどと、驚きと怒りをぶちまけた。

「フィリバスター」の壁

バイデン民主党はこれで大型投資計画の「雇用創出計画」のうち、➀のいわゆるインフラ部分を切り離して、残る➁の「ヒューマン・インフラ」計画をポスト・グローバリズムの包括的経済政策として議会に提出する。総額は3兆ドル(330兆円)超。バイデンはこれを「米国家族計画」と呼んでいる。共和党はこれには強く反対している。民主党が多数の下院は通過だが、上院では共和党のフィリバスター突破のめどはない。

バイデン政権は3月、グローバリズムによる貧富格差の拡大の上にコロナ禍が重なり疲弊した生活・経済の救援のため、1.9兆ドル(約200 兆円)という大型「米国救援計画」を提示した。同計画も上院で共和党のフィリバスターの壁にぶつかった。しかし、フィリバスターには両党がそれぞれ1年度に1回だけ例外として、「60票採決」の免除を要求することができるというルールがある。民主党はこの例外ルールを使って民主党だけの単純多数で、このコロナ救援法を成立させた。

「米国家族計画」も10月からの2022年度に入ってから、例外ルールを使って成立を図るのではないかと伝えられていた(前出)。しかし、年ごとに1回しか使えない「フィリバスター」逃れは簡単には使えないという事情が浮かび上がってきた。

バイデン政権はトランプ共和党の「州選挙法改変」と真っ向から対立する連邦投票権法「国民のための法」の早期成立を目指している。主な内容は➀ 有権者の選挙人登録には条件を付けず自動的に受け付ける、➁ 期日前投票を含めて郵便投票の受付期間は15日以上とる、 ➂投票所は公共交通機関に近い場所に設ける、 ④ 国勢調査に基づく選挙区設定は第3者中立機関にゆだねる(自党に有利になる線引き禁止)、 ➄ 選挙資金の透明性の確保―など。

同法は下院通過の後、上院で共和党フィリバスターによって葬られた。党内から「インフラ投資計画」の例を引いて、共和党との対立点を修正して再提案する意見が強まって、近々修正案がまとまる。だが、トランプ派主導の共和党州選挙法改変に優先する連邦法を超党派で成立させる可能性は極めて低いのが現実。選挙法成立を目指すフィリバスターの例外ルールに頼るほかはなさそうである。「米国生活計画」と「国民のための法」のどちらを優先するのか。バイデンと民主党は難しい選択を迫られることになった。

「ジム・クロウの遺物」廃止論も

フィリバスターについて、もうひとつの選択肢がある。フィリバスターの廃止あるいは修正については単純多数決で決められることになっている。民主党では上下両院の多数を持っている今、フィリバスターを廃止して重要政策を一気に進め、バイデン民主党政権の2期目につなげるという主張が高まってきた。

フィリバスターは少数派の長時間演説などの議事妨害の権利を守るために1802年に生まれた。その後ほとんど使われることはなかったが、奴隷制度が問題になると、奴隷州がその制度を守るために多用した。1960年代の公民権運動では公民権法と投票権法を通すため、共和党フィリバスターを乗り越えるのに苦労した。「多数決原則」に反する「ジム・クロウの遺物」(オバマ元大統領、ジム・クロウは黒人差別一般を意味)と呼ばれ、民主党には廃止論が強い。だが、これも簡単には踏み切れない。

上院で保守派の数人が廃止に反対という党内事情と両党の対立が深まっている状況の下、自党が議会少数派になったら抵抗の手段はあるのかという問題がある。新政権の最初の中間選挙では与党が議席を大きく減らすのが通例、中間選挙で勝つ見通しはあるのか。2つの重要法案の成否はバイデン民主党政権の成否に直接つながっていることは間違いない。党内には大統領自ら保守派議員を説得して、党の足並みをそろえるよう求める声が出てきた。バイデン政権は正念場を迎えている。

「トランプの世界」

トランプはホワイトハウスに居座ることはできず、ツイッターからも閉め出されて影響力低下がささやかれていた。しかし、根拠なき「盗まれた選挙」を「事実」として、接戦で敗れた州の共和党に動員をかけ、独自の「再監査・再集計」を始めるとともに(投票済み票など選挙関連資料は連邦法で22カ月厳重保管が義務付けられているので、勝手な監査や再集計は違法と最近司法省が文書警告)、「再び不正投票を許さない」ために州選挙法を改変するキャンペーンを進めている。1月6日の議事堂襲撃事件についても、不正選挙を正すための平和的請願行動だった、暴力化させたのは左翼の陰謀という新たな「大嘘」を積み重ねている。

大きな「虚偽」を押し通すには新たな「虚偽」が必要になるものだ。これが極右・白人至上主義や陰謀論グループなどの過激な勢力の活動を勢いづかせ、党内批判派を封じ込めて、共和党はさらに過激化の道をたどり、トランプ党の色合いをますます濃くしている。トランプを救世主扱いするグループもあって、いまやカルト集団だとみるメディアも出ている。

狙いは少数派の投票妨害

トランプ共和党の州選挙法改変は2本建てになっている。まずは民主党支持が圧倒的に多く、昨年選挙でバイデン当選の決め手になったとされる黒人やヒスパニック(ラティノとも呼ばれる中南米系移民)、先住民族(いわゆるアメリカインディアン、イヌイット)が投票をしにくくなるように投票規則を厳格化する。

顔写真付きの身分証携行を義務付ける、郵便投票と期日前投票の条件もあれもこれもと増やし期間も短くする、居住地以外での投票を禁止、投票函の設置場所を大幅に減らすなどだ。住居や勤務先などの交通の便は悪いしマイカーも少なく、生活条件のほとんどで白人より劣っている少数派の投票を、より不便にするものばかり。人種差別があからさまである。

黒人が多数住む地域では今でも投票所・投票函数が少なく、投票日には長い行列ができて5〜6時間も行列待ちをするという。南部共和党の長年の根拠地だったジョージア州は昨年選挙最大の接線の末、民主党が奪取した。同州の新選挙法は、長時間行列待ちをする投票者に、さらに飲み物や食料を提供することまで禁止している。

「選管」権限を政党に

米国の州選挙法では、選挙で選ばれる州行政府トップ、州務長官の下に置かれている選挙管理委員会が実施、開票、集計の管理から投票結果の監査・承認の権限を担っている。有権者は民主党か共和党かの党籍ないし無所属かを登録することを求められる。選挙管理委員会はこの政治的立場のバランスをとって構成される中立機関で、選挙経験を積んだプロ職員が実務に当たっている。選挙の結果は同委員会が監査・承認すれば知事の署名を経て州議会に送られて認証を得る。

トランプが投票規則の厳格・複雑化と合わせて狙っているのが、この選挙結果の監査・承認の権限を選挙管理委員会から奪って多数党が支配する州議会に移すことだ。トランプは大統領のとき省庁の監査報告書に批判されると直ちに監査局長を解任している。監査とは権力に奉仕するものと考えているようだ。

トランプは接戦州の開票終了を待たずに「不正投票」と声を上げて、共和党員の州議会や州政府幹部、さらに選管委員にまでに選挙結果を認めないよう圧力をかけた。各州選挙管理委員会は繰り返し再集計を求められたが結果は変わらず、州議会もその結果を認証した。議事堂襲撃というクーデター未遂事件でもそれを覆すことはできなかった。この敗北がトランプを「選管乗っ取り」に走らせたと思われる。

監査・承認権を改変する州法が通ったという報道はまだないが、トランプがこれを手にすれば共和党が州議会多数と知事を握る州では、選挙で負けても勝利に覆すことが手続き的には可能になる。

「投票権」差別の長い歴史

トランプのこうした強引な選挙法改変は決して思い付きではない。背景には黒人差別・白人至上主義者の執念の歴史がある。南北戦争後の1869年、人種差別による投票権の差別を禁じる憲法修正15条が成立した。これは原理を謳っただけだったので、白人至上主義勢力が人頭税や読み書きテストを課して解放奴隷の選挙権を奪い、黒人は隔離するという新たな差別に閉じ込められた。96年後の1965 年、公民権運動の高まりによって、公民権法に続き投票権法が生まれた。この法律ができたことで、米国はやっと民主主義の国になった(ニューヨーク・タイムズ紙クライン記者)。

同法は投票権を人種によって差別することを禁じ、投票権行使に影響がでる州法改定には司法省の事前承認を必要とする条項がつけ加えられた。最高裁は48年後の2013年、同法をめぐるアラバマ州と司法省の係争について、人種差別を認定する基準が時代に合わなくなったとの理由で、事前承認条項まで一緒に違憲とする判決を下した。米国は再び民主主義国ではなくなった。「歯止め」が外されたことによって共和党保守派は、再び少数派投票権の抑圧を狙って動き出すことになった。テレビのリアリティ番組のホストで、執拗にオバマ攻撃を続けていたトランプはこの流れに乗って、3年後に大統領選挙に出馬した。

「白人差別」教育反対

トランプは2024年の大統領選挙に出馬するのか、まだ公には発言していない。だが、州選挙法改変キャンペーンが1年3カ月後の中間選挙(連邦議会や州知事・議会選挙など)で議会を取り戻し、続く大統領選につなげるためであることは明らかである。そのキャンペーンを通して、トランプが2016年大統領選挙戦以来のスローガン「米国を再び偉大な国に」が目指す「偉大な米国」とは、黒人などの少数派の政治参加を抑え、白人主導の国に戻すことであることも、はっきりと浮かび上がっている。

州選挙法改変と並行して共和党とFOXニュースをはじめとするトランプ支持メディアが力を入れているのが、小学校から大学までの教室や政府機関などで広く行われているとされる「白人差別教育」反対運動である。昨年5月に黒人男性が警察官の過剰な取り締まりで死亡した事件以来、「BLM運動」(黒人の命は大切)が広がる中で、黒人やその他の少数派差別は個人の問題ではなく、国の組織に組み込まれていると広く指摘されている。

ワシントン・ポスト紙電子版やニューヨーク・タイムズ紙などによると、この「白人差別教育」というのは「批判的人種論」(CRT)と呼ばれ、古くからある歴史研究におけるひとつの理論。学校教育などの場で広く教えられている事実はないという。

トランプ派は「CRT」は奴隷制度などの差別を過大に取り上げ、白人が果たしてきた功績を否定する白人差別、反米国の理論と捉えて(日本でいえばいわゆる自虐史観か)、民主党の「人種差別反対」に「白人差別反対」を対置させた。「CRT教育」反対運動は平穏に暮らしてきた地域の学校、教育委員会、父兄、生徒との間に突然、大きな混乱を引き起こしていると報じられている。

最高裁判決の衝撃

保守派優位の最高裁

米報道によると、既に48州で大小合わせると400件近い法案がそれぞれの州共和党から州議会に提出され、17 州で28法が成立している。最高裁は7月初め、そのひとつアリゾナ州法について(少数派の)投票に不都合な状況が起こることを認めながら、公開された博物館に行くにも都合の良し悪しはありえるので差別とは言えない、法改変の意図の有無は審理に関係ないと判断した。判事の顔ぶれはトランプ大統領時代にルール無視の指名権行使で保守派多数で固められていた。保守派6人が合憲、リベラル派3人が違憲と主張した。

民主党には大きな衝撃を与える判決だった。民主党はトランプの州法改変キャンペーンに対して正攻法の「国民のための法」を提示してきたが、最高裁が早々にこうした判決を出すとは想定していなかったようだ。ニューヨーク・タイムズ紙(国際版)は、投票権行使を博物館行きと並べるのはひどすぎる判決と批判した。

投票規制強化が実際にどの程度、民主党票を減らす効果があるかは分からない。身障者、病人などへの影響は共和党にも同じようにおよぶだろう。少数派も対抗して投票動員を強めるに違いない。しかし、アリゾナ州のほかジョージア、ペンシルベニアなど2016年、2020年と大統領選挙が接戦となった6州のうちバイデン候補が勝った5州の票差は数%。州法が代わったことによって、結果が入れ替わる可能性は十分にあるようだ。

監査・承認権を改変する州法が通ったという報道はまだないが、トランプがこれを手にすれば共和党が州議会多数を握る州では、制度上は選挙の敗北を覆して「勝利」を盗むことが合法になる。監査の意味を全く逆にもし得る選挙法が最高裁までまかり通るとは普通は考えられない。だが、アリゾナ州法についての最高裁判決は、民主党に「まさか」の不安を生んでいるようだ。米国の人種差別(主として黒人)の歴史は良くも悪くも、最高裁判決が支配してきたとも言える現実があるからだ。

最高裁は1896年、鉄道会社が白人用車両と黒人用車両を分けているのは憲法違反との訴えを却下した。「隔離は差別ではない」というのである。「ホワイト・オンリー」の差別を広げた判決だった。1954年に最高裁は黒人の子どもが近くの学校に行けずに遠くの黒人学校に行かされるのは憲法違反という訴えを認める判決を下した。「隔離は差別ではない」という1896年判決を明確に覆すものだった。黒人差別が当たり前の南部を中心に抗議と反対の運動が起こったが、1960年代の全米を覆う公民権運動へとつながった。

「州権力」の優位握るトランプ・共和党

昨年の議会選挙の結果、州議会上院・下院の多数と知事を独占したのは、共和党が2つ増やして23州、民主党は変わらず15州、ねじれたのが2つ減って12州だった。上下両院それぞれで過半数を取ったのは、上院は共和党32州、民主党18州、下院は共和党30州、民主党19州(1州は同数)。知事選は11州で行われ、共和党が1州を民主党から奪って、合計27州、民主党が23州になった。

この数字は州別に見た勢力争いで共和党が民主党を圧倒していることを示している。10年ごとの国勢調査に沿って行う議員選挙区の調整で、州議会を握る共和党が自党に有利に線を引き直してきたのが理由のひとつとされている(「ゲリマンダー」と呼ばれ、数は少ないが民主党にもある)。

米国の法体系には大英帝国の13植民地が一緒に独立した歴史から、今も州の自治権が強く残っている。選挙法が州法に任せられているのもそれだ。これがトランプと共和党の強みになっている。2016年トランプ、2000年ブッシュの両氏は大統領選で当選したが、総得票数では敗れた民主党ゴアは50万、クリントンは300万多く得ていた。大統領選挙の当落は建国当初から各州を代表する大統領選挙人の投票で決めると憲法に定められていて、有権者の1票の積み上げである得票総数より、州権代表の票を優先する間接選挙だからだ。

大統領選挙人の数は各州の上院議員数と下院議員数の合計である。下院議員数は人口比で決められるが、上院議員は州代表という意味から人口の多い少ないに関係なく同じ2人。大統領選挙人はその州で多数票を獲得した候補に投票することが義務づけられていて(勝者総取り)、同州で敗れた候補者の得票は当落には関係しない。

総得票では民主党が有利

共和党が中西部と南部を中心に「田園州」の多くを支配しているのに対して、民主党支持地域は北東部と西部の大西洋と太平洋に面した「大都市州」を中心に少数派も含めて大きな人口を持つので、大統領選では共和党をしのぐ得票力を持っている。冷戦終結後の9回の大統領選で共和党候補が得票数で多数を獲得したのはわずか1回(2004 年ブッシュ再選)だけ。それでも大統領は民主党が2人で8年、共和党は2人で6年(バイデンを除く)と拮抗している。

奴隷制度と白人至上主義という「業」と州権主義という歴史の重荷を背負いながら民主主義国のリーダーを務めなければならないというのが米国民主主義。バイデン民主党の挑戦はどこへ行くだろう。あと1年余りで一つの答えが出ようとしている。(敬称略、7月30日記)

かねこ・あつお

東京大学文学部卒。共同通信サイゴン支局長、ワシントン支局長、国際局長、常務理事歴任。大阪国際大学教授・学長を務める。専攻は米国外交、国際関係論、メディア論。著書に『国際報道最前線』(リベルタ出版)、『世界を不幸にする原爆カード』(明石書店)、『核と反核の70年―恐怖と幻影のゲームの終焉』(リベルタ出版、2015.8)など。現在、カンボジア教育支援基金会長。

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