特集 ● 歴史はどう刻むか2・8総選挙
高市・フェイクまみれの裁量労働制拡大を止めよう!
解雇の金銭解決制度など全く必要はない
全国一般労働組合全国協議会 中央執行委員長 大野 隆
フェイク(嘘)で長時間労働を押しつける高市施政方針
具体的に裁量労働制拡大に言及―経団連と一体だ
労基法解体策動が加速される
公労使三者構成を壊すな―労政審は労基法解体に手を貸すな
成長戦略本部に「労働市場改革分科会」新設
さらに解雇の金銭解決制度の検討会が始まる
フェイク(嘘)で長時間労働を押しつける高市施政方針
2月8日の衆議院選挙で圧勝した高市首相は、同月20日の施政方針演説で具体的に労働問題に触れ、新聞各紙によれば、次の通り発言した。
我が国の潜在成長率は、主要先進国と比べて低迷しています。しかし、技術革新力や労働の効率性などを表す数値は、他国と遜色ありません。日本人には底力があります。
圧倒的に足りないのは、資本投入量、すなわち国内投資です。その促進に徹底的なてこ入れをします。
コーポレートガバナンスの在り方を見直し、企業の長期的な成長に資する人的投資や新事業への投資がより積極的に行われるよう、株主への還元も含めた企業の資本配分戦略を成長志向型に変容させていきます。
また、働き方改革の総点検においてお聞きした働く方々のお声を踏まえ、裁量労働制の見直し、副業・兼業に当たっての健康確保措置の導入、テレワークなどの柔軟な働き方の拡大に向けた検討を進めます。
とにかく成長のスイッチを押して、押して、押して、押して、押しまくってまいります。
「技術革新力や労働の効率性などを表す数値は、他国と遜色ありません」と言うが、その根拠は全く示されていない。しかも「労働の効率性」などと、通常は使われない概念を裏付けなく持ち出している。これは台湾有事発言における「戦艦」と同じで、極めて無責任である。「底力」などという言い方も含めて、客観的な現状を無視して願望を述べているにすぎない。それどころか、都合のよい数字だけを見て「アメリカに勝てる」と言い、「神風が吹く」と信じていた第二次大戦前の日本のありようとどこが違うのだろうか。
実際には、日本の一人当たり生産性については、日本生産性本部などの資料によっても、「2024年の日本の一人当たり労働生産性(就業者一人当たり付加価値)は、 98,344ドル(935万円/購買力平価(PPP)換算)。順位は、OECD加盟38カ国中29位。主要先進7カ国でみると最も低い状況が続いている」とされている。「日本の一人当たり労働生産性は、米国の54 %程度で、主要先進7カ国の中では日本に次いで労働生産性が低い英国と比べても8割弱」となっているのだ。台湾、香港には大きく遅れ、韓国にも及ばない。その推移を見ても、最近は特に落ち込んでいる(先の折れ線グラフ、アークタイムズによる)。日本はともかく力もなく、貧しくなっているのである。そこから出発せざるを得ないのだ。
これを見れば明らかなように、高市は嘘を根拠にして「底力」があると、労働関係統計についても、国民をだましているのである(高市の嘘=フェイクについては、後述もするが、本誌掲載の金子勝さんの見解も参照されたい)。
具体的に裁量労働制拡大に言及―経団連と一体だ
その上で、具体的な労働政策に関して言う「人的投資」は、直接の賃金引上げでなく、企業が投資をしてその結果うまくいけば賃上げにつながるという主張であろう。まずは資本・株主を儲けさせようと言っているにすぎない。根拠のない政策は実現するはずもなく、結局は労働移動の促進(つまり首切りの横行)などに注力するとの表明である。「働き方改革」はその人的投資の一部であり、裁量労働制の拡大に具体的に直接言及し、「柔軟な働き方」を強調している。
柔軟な働き方とは、政府・財界の立場からストレートに言えば、さまざまな規制のない働き方ということであるから、結局現在進められている労基法解体など、労働者保護をなくすことを目指していることになる。高市の方針は、これまで労政審などで議論されている、労基法(国家による一律規制)を取り払う方向をさらに強化、急速に進めることを意味する。
その中で裁量労働制拡大が具体的に取り上げられている。裁量労働制は実際に働いた労働時間に関係なく決まった賃金のみが支払われる制度で、残業代を払いたくない企業にとっては「打ち出の小槌」だ。この間の労政審でも経団連が強く適用拡大を求めてきている。2018年には、安倍内閣が裁量労働拡大法案を出したが、調査データがインチキだったため、認められなかった経緯がある。
高市施政方針演説は、裁量労働制に触れた直後に「押して、押して、押して・・・」と「押す」を5回繰り返し、流行語大賞を取った「働いて」×5を連想させている。この「押して」×5は、「働け、働け」と労働者を長時間労働で押しつぶす高市の意志を表していると言えよう。
今回高市は「働く方々のお声を踏まえ」などと言うが、東京新聞によれば、「厚生労働省が昨年8月に自民党に示した資料によると、『就業時間を増やしたい』人は就業者全体の6.4%にとどまっている。また、時間外労働の上限規制の月80時間を超えて働きたい人はわずか0.1%」だ。またまた高市フェイク、つまり嘘なのだ。
日本労働弁護団も2月20日に次のように声明を発表している。
(裁量労働制は)実労働時間を規制して労働者の健康・生活時間の確保を図る労働基準法の大原則に対する「例外」の制度である。今でもなお、本来的適用要件を満たさないままに濫用されている事案も多数発生しており、かかる状況を追認するかのような改正は許されないし、対象業務が拡大したとなれば、かえって濫用事例が増加するおそれが高い。また、裁量労働制は、労働基準法の大原則の例外であって、長時間労働・健康被害の危険が高いからこそ、厳格な手続き・運用が求められている。
労基法解体策動が加速される
昨年末、毎日新聞(12月17日)と共同通信(同23日)が立て続けに、予定されていた労基法改訂法案の26年通常国会への提出は先送りされると報じた。しかし施政方針では、労基法解体をあきらめたのではなく、それを加速しようとしていることが明らかになったのである。上述の通り、高市の方針はこれまで労政審で経団連が主張してきたことを加速せよと言っている訳なので、さらに警戒・反対を強めねばならない。
この方向は、選挙前から強調されていた。高市は、昨年12月24日の規制改革推進会議で、生産性の高い柔軟な働き方が必要だと、短い挨拶のなかで相当の時間を使って、次のように述べた。
日本成長戦略本部とも連携しながら、労働時間法制の問題もございますので、働き方改革関連法、この施行から5年を経過したので、その施行の状況ですとか、労働時間の動向を勘案しながら検討しなくてはいけませんので、是非本部とも連携しながら、これは現在の労働時間法制の運用や実態に関する業種・会社規模ごとの状況についての調査ですとか、労働者の現場のお声なども踏まえながら、生産性の高い柔軟な働き方の推進につながるように、これも制度の在り方について、是非御検討をお願いしたいと思っております。
同じ日に、日本成長戦略本部の会議でも「特に」と強調して「労働市場改革に取り組む」と、次の通り話している。
特に、労働市場改革については、心身の健康維持と従業者の選択を前提として、柔軟で多様な働き方を実現することが重要です。必要に応じ追加調査を実施するなど、現場のニーズを更にきめ細かく把握しながら、規制改革会議などの関係機関とも連携して、労働時間規制の運用・制度の両面から、検討を加速してください。
ここでも高市は、前記の規制改革会議と同じことを言っており、政権の強い意志がうかがわれる(以上、高市発言は内閣府HPによる)。要するに高市主導で内閣府が労働時間法制の規制緩和を唱道し、具体的調査にまで言及したわけで、労基法改悪・解体問題の局面が変わったというべきであろう。2月20日の施政方針演説は、そのことを明確にしたことになる。
高市は「長時間労働規制のために働きたくても働けず、副業で健康を害する人がいる」と言っていた。だったら賃金をまともに上げればよいのである。賃金が低いために残業をせざるを得ない労働者が多いのは確かだから。
繰り返すが、高市は施政方針演説で、裁量労働制に触れた直後に、「成長のスイッチを押して、押して、押して、押して、押しまくって」と述べた。かつての「働いて、働いて、・・・・」発言と重ねると、明確に長時間労働を拡大する労基法改悪を求めた本音だということだ。それは公労使三者構成の労働政策審議会での議論も吹き飛ばそうとしていると、警戒すべきである。
こうした長時間労働推進方針を、メディアがまともに批判できない。2月8日の投票日当日の朝日新聞に「経済界の要請を受け、高市政権は規制の緩和の検討を進める。一方、過労死等の労災認定は、24年度は104件と過去最多に上る」との記事が載ったが、それは次の「識者の言葉」でまとめられている。
上限以上に働きたい人の具体的な声を聞き、どのような制度があれば無理なく豊かに仕事ができるのか、考え続けないといけない。
これを書いた記者は現在の時間外労働上限規制が960時間であることを知っているのだろうか。「上限以上に働きたい人の具体的な声」というが、現行の上限時間はいわゆる「過労死ライン」である。仮にそれを望む人がいるとしたら、その理由は賃金の低いことを超長時間労働で補わざるを得ないことに他ならない。貧乏な労働者がいることが問題だと、なぜわからないのか。
公労使三者構成を壊すな―労政審は労基法解体に手を貸すな
高市施政方針の大きな問題は、公労使三者構成の労働政策審議会での議論も吹き飛ばしかねないものであることだ。高市は労働法制改悪を内閣で勝手に進められると考えている節があり、労働者など関係者の意見を聞かない姿勢が明白だ。トランプと同じで、自分に全権限があると錯覚しており(全能感?)、実際そう行動しているわけで、「台湾有事」発言もその一環だろう。少なくとも労働法制に関しては、労働者の意見を組み入れることが不可欠であることを分からせなくてはならない。
三者構成破壊に関しては、昨年12月24日の労政審労働条件分科会でも、連合の冨高委員がその必要性を強く訴えている。
昨日(12月23日)より、労基法改正に関する次期通常国会への提出を見送るという報道が複数なされており、その中では、労働時間規制について、来年(2026年)の成長戦略や『骨太の方針』の策定に向けて日本成長戦略会議の中で検討を行うことも報道されております。まさにこの(労働条件)分科会で今年(2025年)2月から1年近くかけて労使で丁寧な議論を積み重ねてきておりますが、にもかかわらず、こうした動きがあることに対して、労働側として懸念をしているところです。改めて申し上げれば、この雇用・労働政策につきましては、職場実態を熟知した労使が知恵を出し合って論議・決定していくことが必要不可欠だと思っております。加えて、労使に政府・公益を加えた三者が政策の決定プロセスに関与する三者構成原則はグローバルスタンダードであり、日本ではこれを具現化している場が労働政策審議会だと考えているところでございます。報道の真偽というところは別としまして、もし日本成長戦略会議において、労働時間法制について検討されるとしても、本分科会での議論が尊重されることが非常に重要だと思っております。この労働政策審議会が官邸における新設の会議の下請になるようなことがあってはならないと思いますし、また、この場での議論が骨抜きにされるということもあってはならないというふうに思っておりますので、その点につきましては、ここで意見を申し上げておきたいと思います。
これに対しては経団連の鈴木氏も、「冨髙委員から三者構成主義の重要性、御指摘ございました。私も全くそのとおりだと思います。雇用・労働政策というのは、現場を熟知している労使、学術的な知見をお持ちの公益の先生が議論を重ねる中で結論を出す。これはILO条約の考え方にも沿うものだと思っております」と同意している。経団連が高市に反対するわけではなかろうが、建前としては鈴木意見が常識だから、そう言わざるを得ないのである。
そうした中で、労基法見直しを進める労働政策審議会労働条件分科会は、その進行のペースが緩やかになっている。厚労省はおそらく官邸に忖度して、高市の出方を伺っているのであろうが、官邸も厚労省も向かう方向は同じなので、これまで通り警戒を続けねばならない。
この間、労働条件分科会の議論では、使用者側の主張は長時間労働と裁量労働制の拡大に集中している。上記の通り官邸と厚労省も同じ意向なので、三者構成を意味あるものにするためにも、ここでの議論に注目したいし、連合出身の労働側委員の奮闘を願うところである。
労基法改悪の重要論点が「労使コミュニケーションの在り方について」であることについては、本誌前号まで何回か述べてきている。基本的にその状況は変わらないことを確認しておきたい。長時間労働や裁量労働制の拡大については、労基法の労使合意の作り方から団結権(労働組合要件)を外して、長時間労働が実現できる仕組みを作ろうとしているとみられ、それが「労使コミュニケーション」に議論をシフトさせる理由だからである。
また、労働条件分科会と並行して厚労省に設置された「労働基準法における『労働者』に関する研究会」は、きわめてスローテンポに進んでいる。見る限り、私たちが望む、ウーバーイーツの配達員などの「雇用類似の働き方」が労働者だと、ストレートに認められる状況には程遠い感じである。ここでは労働者の範囲をできる限り広げるように、努力したい。
成長戦略本部に「労働市場改革分科会」新設
因みに、日本成長戦略本部(内閣府)は、労働市場改革分科会を新設し、上記高市の方針を実現すべく動き出している。以下の図は、そのメンバーと現状認識及び方向を示した会議資料である。労働市場改革の一つの柱が労働移動の円滑化=首切り自由であり(だから、後述の解雇の金銭解決が出てくるわけだ)、もう一つが高市の強調する裁量労働などの長時間労働(つまり柔軟な働き方)であることが理解されよう。
この分科会の構成員に、労働側からは連合の神保事務局長が一人だけ参加しているのに対し、使用者側は3名の個別企業のメンバーを含め5名もいる。そもそも労働者の意見や立場を取り入れようという姿勢はほとんどない。
また、「現状と課題」についても、喫緊の課題であるはずの賃金引上げの具体的政策にはほとんど触れず、関心は労働移動(首切り?)に集中しているようである。
さらに解雇の金銭解決制度の検討会が始まる
一方、労政審労働条件分科会は昨年11月18日の会合で、解雇の金銭解決制度(分科会では「解雇の金銭救済制度」)について有識者による検討会を立ち上げる方針を確認した。政府も資本も「首切り自由」が欲しいのだ。実際に大企業を中心に(例えばパナソニックや第一生命)、黒字であるのに大量解雇する横暴が広がっている。
この解雇の金銭解決制度は、解雇された労働者が裁判に訴え、解雇無効の判決を勝ち取って初めて適用される。つまり不当解雇が無効であると裁判などで確定した後、労働者の申し出によって金銭解決ができる、というものだ。
この制度ができると、経営者はやめさせたければ理由なく解雇して争うだろう。たとえば労基法上で解雇が禁止されている妊娠中などでも解雇してしまう。労働者が裁判をして勝っても、後は金銭解決に持ち込めば、当初の意図が実現するというわけである。いまのところ雇い主からの金銭解決申し出は制度化されない見通しだが、ゆくゆくはそういうことが目指されている。
我々の常識からすれば、不当解雇が認められれば職場復帰させればよいだけだが、わざわざこの制度を設ける狙いははっきりしている。「金を支払えば首切り自由」という「社会通念」を作り出そうとしていることだ。政府・資本の目指すのは、労働者を長時間働かせ、それを拒む者は首を切るということにある。そしてそれに抗う労働組合をつぶそうとしている。断乎として跳ね返さねばならない。
分科会では金銭を受け取ることで契約を終了させたいというニーズがあると発言があったが、それは経営者が職場復帰に協力しないからであり、決して多くの労働者が求めているわけではない。下記に示す厚労省の規制改革会議に対する調査結果(2024年5月、訴訟を担当した弁護士らへの調査)にみられる通り、名誉、賃金、職場復帰を目指して提訴する労働者が圧倒的多数であることからも明らかである。
一番必要なのは解雇がない雇用が安定した社会をつくることである。
おおの・たかし
1947年富山県生まれ。東京大学法学部卒。1973年から当時の総評全国一般東京地方本部の組合活動に携わる。総評解散により全労協全国一般東京労働組合結成に参画、現在全国一般労働組合全国協議会中央執行委員長。一方1993年に東京管理職ユニオンを結成、その後管理職ユニオンを離れていたが、2014年11月から東京統一管理職ユニオン執行委員長。本誌編集委員。
特集/歴史はどう刻むか2・8総選挙
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