特集 ● 歴史はどう刻むか2・8総選挙
政治の終焉か、世界と結ぶリベラル政党の
再建か!
人々の仕事と生活を守る>国益>日本ファースト>日本人ファーストを論じる
本誌代表編集委員・日本女子大学名誉教授 住沢 博紀
1.「中道」、比例区で18.2%、悲観することはないが「中道」には未来はない
2.中道政党ではなく世界に通用するリベラル政党に
3.現代のリベラルとは、トランプ大統領が破壊しようとしているもの
4.トランプ台頭の背景にある、リベラルエリート批判に対して
5.トランプ批判が日本と世界を結びつける:進歩連合への加盟
6.人々の仕事と暮らしを守り発展させることが優先課題
7.日米安保を継続するなら憲法9条は不可欠
1.「中道」、比例区で18.2%、悲観することはないが「中道」には未来はない
まずファクトを確認しておこう。高市人気投票選挙の結果、自民党は289の小選挙区のうち249を制し、比例代表を合わせると316と、単独で3分の2の勢力となった。比例14議席を多党に譲ったうえでの結果である。しかし多党化現象は継続している。
政党への支持(あるいは首相候補)を示す比例区投票では、自民党は約2103万票(36.7%)、つまり3分の1少々に過ぎない。これは選挙前の世論調査でも、高市政権に対する70%前後の高い支持率と、自民党に対する30%台の支持率との乖離がみられ、そのとおりの結果である。しかし小選挙区では、数パーセントの投票の移動が大きな結果をもたらす。野党が分裂して統一候補を擁立できない状況なら、ましてその「効果」は大きい。
その上、首相の「専決条項としての衆議院解散権」なる違憲の疑いの濃い(これこそ日本政治が4年間という展望で政治が行われない元凶)、野党の準備が整わないことを見越した「大義なき解散」。さらには、有権者の最大の関心事項であったとされる「ガソリン暫定税率」の廃止、これは国民や立憲など野党の提言に高市政権が乗ったものだが、その成果を簒奪したといわれても仕方がない。いずれにしても、高市自民党の選挙参謀の見事な戦術的勝利であった。
ここで二つの問題を提起しておきたい。
第一は、政治は結果がすべてといわれるが、衆議院選挙が党首の人気投票になってもいいのかという問題である。欧米諸国でも、伝統的な政党システムが崩壊しつつあり、ポピュリスト政党が台頭している時代に、「民意なるもの」の時代的な背景と特徴を、デモクラシーの立場から検討することが不可欠である。民意は誤ることがある、国を亡ぼすこともある、それらは歴史で何度も経験している。
もう一つは、最大野党、立憲民主党の指導部の問題である。総選挙直前の、立憲民主党と公明党の合同は、だれが見ても無理があった。ひょっとすれば、自民党の反安倍派の議員の一部が合流するかもしれないという深慮遠謀が、「中道」という党名に隠されていたのかもしれないが、指導部のひとりよがりの誤りであった。民主党から立憲民主党への流れのなかで、指導部の取り返しのつかない誤りは何度もあった。
鳩山内閣の辺野古移転の問題、菅内閣の消費税増税の問題、野田内閣の消費増税をめぐる党の分裂、前原代表の希望の党への合流をめぐる問題、そして野田代表の2回目の失敗である。これらは代表や指導部の問題というより、政権交代を唱える最大野党の問題といってもいい。政権交代のためには数が必要となる。立憲民主党には、社会保障、地域政策、環境政策、エネルギー政策、女性政策など多くの分野で優れた議員も多いが、それらが党全体の力となって集約されてこなかった。安倍安保法制に抗して立憲民主党を立ち上げた枝野幸男も、みずからを立憲主義に立つ保守とのべていた。
多様な理念、多様な政策提起、多様な選挙区事情など、それが立憲民主党の魅力の一つであったが、立憲民主党全体の立ち位置はあいまいとなり、結果としてその都度の党の指導部に最終判断が委ねられた。政権交代をめざす二大政党の時代にはそれでもよかったが(2009年までの民主党)、多党化の時代には、党のポジション、さまざまなポピュリスト政党と伝統的な組織政党の中で、自らの位置づけが重要となる。残念ながらそれは「中道」ではなかった。
参議院の議席配分を見ると、これからも連立政権は続く。多党化の中で、中道の比例区18.2%という得票率は(小選挙区で1221万票、21.6%、比例区では約1044万票)、EU諸国の比例代表制―連立政権の国々のモデルでは、政府に対する対抗野党としては十分である。ただ選挙直前に、立憲民主党と公明党が合同した「中道改革連合」には未来はない。
2.中道政党ではなく世界に通用するリベラル政党に
政党には、政策上の共通点以上に、政党システムの中での固有のポジション、支持者や政治家の共通のアイデンティティ、そして歴史や世界とのかかわり方など、おおまかで曖昧であっても、一つの枠組みが不可欠である。残念ながら過去十数年、離合集散を繰り返してきた立憲民主党にはそれがない。せいぜい連合の公務労協が支持母体であることぐらいである。しかし公明党は創価学会という宗教組織を母体とする組織政党である。
この二つの政党は、政策上は親近性があるので、国会内の統一会派を組むことは可能であり、望ましい。しかし多党化の中では、党のアイデンティティが問われ、それが明確ではない政党は衰退してゆく。今の日本ではリベラルのポジションを取る政党はなく、しかもいろいろな社会意識調査によると、若者も含めてリベラルの価値観を持つ人は多く、政党として存続できるだけではなく、大きな塊として登場できるチャンスはある。
立憲民主党は、新聞などのメディアではリベラル政党として位置づけられ、また党の政治家でもそうした意識の人もいた。その基本理念を見ると、自由と多様性を尊重し支え合う、共生社会をつくり国際協調を目指す、未来への責任を果たすと、書いてある。 一見リベラル政党の綱領に見えるけれども、おそらく他の党もこうした基本理念は似ているところがある。
リベラル政党というアイデンティティは、誰もが認める基本理念だけではなく、政党のリーダーたちが個性として体現するもの、他政党と区別される具体的な政策提示、さらにはリベラルな価値観を持つ人々の支持、そして国際的な民主主義諸国の中での位置づけ、こうしたことが要請される。残念ながら立憲民主党は、いろいろな政党イメージや理念、基本政策を持つ人々の集合体であり、またリーダーもしばしば自らを保守中道あるいは、改革派中道とみなしており、リベラルというポジションを明確にしない傾向にあった。
そして日本社会では、リベラル対保守という政党政治の構造ではなく、現状を維持する保守派(守旧派)と現状を変えようとする改革派という構図が一般的であり、選挙ごとに、自民党や維新の会、それに新しく参政党なども、現状を変えようとする改革派とする位置づけが、とりわけ若い世代には見られた。石破自民党は保守派であり、高市自民党は改革派であるというわけである。安倍政権の時代には、立憲民主党や共産党などがむしろ現状を守ろうとする保守派とみなされた。
結局日本ではリベラル対保守という構造が明確ではなく、そうであれば今回の中道という政党の設立も、こうした枠組みの中ではどこにもそのポジションはなく、選挙対策の互助連合とみなされた。
したがってこの提言の中では、日本におけるリベラルというポジションを、どのようにすれば明確にできるか、若い世代にも理解できるような形で整理できるか、政党として信頼されるか、などの点に重点を置きたい。誤解されないように言っておくと、リベラルという政党のポジションで政権交代ができるとか、あるいは多数派を取れるとかは言っていない。多党化の中ではどのような理念や政策であれ、それぞれは少数派である。しかし、自民党を含め保守とみなされる勢力がポピュリスト政党化する中で、リベラル政党がある程度の大きさを維持することは、立憲主義に立つ政党政治を継続させ、その基準点の一つとなる。
そこで政党としての中道改革連合を解消し、立憲民主党と公明党の統一会派として存続させ、選挙の際は公平な形で協力すればいい。立憲民主党は参議院や地方組織と共に、リベラルの旗印のもと新立憲民主党として再出発することを提言したい。法制上問題があれば、「中道」からの分党という形でもよい。その場合、大事な事は、リベラルとは何かということを人々に分かりやすく説明することである。リベラル政党が存在してこそ、中道、あるいは中道左派という政党ポジションも生きてきて、小選挙区での新立憲、公明、国民民主の選挙協力も可能となる。
そこで2つの論点を提示したい。
1つは、現代のリベラルとは、トランプ大統領が破壊しようとしているものとまず理解することである。したがってトランプのやっていることを批判すれば、おのずと現代における世界的な、そしてまた国内のリベラルな政策とは何かがわかる。ただその際の留意事項があり、のちに述べたい。
2つ目は、冒頭のサブタイトルで示した、人々の仕事と暮らしを守る政党として、他の政党と向かい合うことである。
3.現代のリベラルとは、トランプ大統領が破壊しようとしているもの
トランプが就任以来すでに1年経ち、彼が破壊しようとしているものは、例えば地球温暖化に対するパリ協定からの離脱とか、あるいは化石燃料の復活・推進とか、高額な関税を手段とした他国への米国への投資の強制とか、大学や研究者の自由を抑圧するとか、世界の多くの人がそして日本でも批判されているので、これは分かりやすい。
ただし注意すべきは、トランプを支援する人々がアメリカの約半分、例えばラストベルト(錆びた地帯)といわれるような工場が廃墟となり、職のない人が多い地域とか、あるいは移民労働者に圧迫を感じている人とか、さらにはエリート大学の卒業が金融や情報分野での高所得の職を独占しているとか、そうした「リベラルな価値観を持つエリート」に対する反感、ルサンチマンを感じている人が多いという現実。しかもこれはアメリカだけの問題ではなく、先進国とされたヨーロッパ諸国でも日本でも見られる現象であり、のちに節を改めて論じる。
リベラルの立場から最初にあげられるのは、主権国家、議会の権限や各州の自治権など、立憲主義と法治国家の原則を侵害していることである。 MAGA(アメリカを再度、偉大に)は、アメリカ大統領としては当然の発言だが、そのためにWTOの貿易ルールを無視して高関税を取引として圧力をかけたり、カナダやグリーンランドのアメリカ合衆国への編入を示唆したり、軍事力行使を交渉、ディールの手段として恒常的に用いたり、まるで19世紀の帝国主義への復帰とみられることもある。そして立憲主義・法治国家の擁護はもちろん、帝国主義や戦争に対しての批判や抵抗は、戦後世界のリベラルの原点である(19世紀はそうではなかったが)。
次に、人々の基本権の軽視、侵害がある。最初は非合法移民に対して限定されたものであったが(犯罪者、テロリストというレッテル貼り)、法治国家の下では、誰に対してでも執行の手続きの適法性、適切性が要求されている。しかし連邦機関のICE(移民税関取締局)は、例えばミネソタ州では、州政府の要請を無視する形で、大規模な「犯罪者としての不法移民取り締まり」を強行し、アメリカ市民を殺害するなどの事件を引き起こし、大規模な抗議デモを生み出した。
第3に、リベラルは資本主義や市場が生み出すさまざまな問題に対して、公共サービスの充実や社会保障による、底辺層の人々の生活や障碍を持つ人々への支援を重視する。文化施設、保健施設などの閉鎖や助成金削減、従事する公務員の大量削減は、公共サービスの低下だけではなく、GDPを下げるといわれている。
第4に、医療保険の問題はどの国でも大きな課題だが、アメリカは65歳以上の高齢者に対するメディケア、低所得者や身体障碍者に対するメディケイドという二つの公的保険があるだけで、あとは高額の民間保険に加入するか(雇用者の場合は企業が一部を負担)、無保険者になるかであった。このため下層の自営業者や中間層にも無保険者が多く生まれ、民主党のオバマ、そしてバイデン政権により、保険料の半額を給付する制度(オバマケア)ができた。トランプはこの補助金制度の継続を打ち切る方針を出しており、これが議会におけるトランプ支持派と、民主党との最大の争点となっている。
第5に、大学や言論界に対する攻撃も顕著である。確かにイスラエルのガザ攻撃に対する学生や大学教員・知識人たちのイスラエル批判については、ドイツなどEU諸国でも批判を抑圧する動きがあった。しかし、アメリカでは大学への政府助成金の凍結など非常に露骨な手法で批判を封じた。また留学生の制限等、開かれた大学の理念を放棄し、高額なビザを要求するなど差別的な措置を行った。
さらにTVや新聞などに対して、トランプへの批判を賠償請求や訴訟などをちらつかせ、言論の自由を抑圧する試みがあった。こうして特定の新聞がトランプ批判を控えたりあるいはテレビの司会者を交代させられたり、政権に対する忖度も見られた。自由を建国の基盤とするアメリカにおいて、こうしたマスメディアに対する抑圧的な対応は、もはや自由主義国というよりは権威主義体制に近くなっていった。
ここで野党としての新立憲民主党は、日本に不利益なことを強制し、国際的なルールを破るトランプを批判することが可能であるし、むしろそれは大事である。これは決して「国益」を損なうことではなく、むしろ逆に日本の利益になる。なぜならディールを強制するトランプに対して、政府は日本国内の強力な反対をそのディールの材料とできるからである。昔、吉田茂首相が、自衛隊の軽装備を批判するアメリカに対して使った手法である。
具体的に重要な課題は2つある。第1は、アメリカに対する85兆円の投資である。第1次のエネルギーなどへ投資は決まりつつあるが、次に新しいタイプの小型原発への投資なども想定されている。こうした投資に対して、それが投資する側にとっても適切で将来の収益が期待できるのか、それともアメリカ側のさまざまな業界組織の要望なのか、厳密に査定する必要がある。そして、それが不適切なものであれば野党として断固として拒否する態度が望まれる。
もう1つは国防費の増額要求である。 GDP 2%がかつての要求であり、高市政権はこれを前倒しで実現するとした。現在では、トランプ政権は、同盟国に対して5%につり上げている。直接的な防衛備品に対して3.5%ということであるが、4年以上のウクライナ戦争の中で、かつての兵器体系も大きな変化を遂げた。
ウクライナ戦争を自らの危機とみるヨーロッパのNATO諸国でも、まず、こうした5%などの数値があるのではなく、兵役制度、装備体系、ドローンや衛星などによる通信インフラなど、リアルな検討から始めている。したがって、議論も時間もかかる。日本でも、自衛隊幹部の中でこうした急激な国防の強化に対して、果たしてそれが可能かどうかという疑問の声も報道されている。
高市政権のもと、5%という数値がトランプにより強制され、結果として旧来型の兵器や戦闘機など役に立たないものをアメリカから購入するということにもなりかねない。これに対して、厳密に日本の専守防衛という立場に立ち国防費の支出の内実に関して、場合によってはアメリカの提案を拒否することが、野党にとっても日本にとっても大事となる。
4.トランプ台頭の背景にある、リベラルエリート批判に対して
このテーマでは、しばしばメリトクラシーという支配構造が言及される。 本来メリトクラシーとは、家柄や出自ではなく、その人の能力や実績において評価するというシステムをいう。しかし、現在では有名大学を卒業する学歴社会となっており、社会階層の変動が先進国では停滞しており、より資産の多い家庭の子供が高額の学費を要求する有名大学を卒業してメリットクラシーに加わるという構造が生まれている。
もともと欧米の近代において、主として手で働く労働者階級と、資産家+管理し経営するホワイトカラー階級という分断があった。したがって労働者階級の子弟も、高等教育を受ける権利、労働しつつも学習する権利、これらがその階級的な差別を克服する1つの手段として、労働組合、社会民主主義政党により進められてきた。
60年代70年代の福祉国家の拡大期において、労働者階級の子供たちが大学に行きホワイトカラーになるコースが定着し、また労働運動の指導者たちも、福祉国家のもとでは政治家や官僚として活躍し、まさにメリトクラシーを構成した。しかし、その場合でも、まだ現場で働く人々とは、組織的に、あるいは心情的に繋がっており、リベラルエリートという批判は生まれなかった。
しかし1980年代の市場と企業収益を重視するネオリベラルの時代となり、社会的公正や所得の再分配を重視する福祉国家時的な政策が縮小する一方で、リベラルエリートたちも、グローバルな資本の力、新自由主義的な市場の力と妥協していった。当初は福祉国家が到達した制度を守る手段であったが、しかし現実には公共サービスは民営化され、公的医療保険、あるいは公的医療制度もその質が悪化し、福祉の削減や弱者切り捨てが進行し、工業が衰退した「錆びた地帯」の焼け野原には、安全地帯にいるリベラルエリートが残っていた。
70年代までは労働側に有利な分配が進行し、勤労者社会ともいえる厚い中間層の時代が登場した。それは同時に、電気製品、住宅、車など耐久消費財の需要を生み出し、経済成長の好循環をうみ出した。この時代、労働分配率といわれる資本と労働の、所得をめぐる分配が最大のテーマであった。
しかし80年代には、資本のグローバル化により、株や不動産それに投資など資産が生み出す収益が大きな役割を占める時代がやってきた。同時に工業社会が情報など知識資本主義と呼ばれるソフト領域に発展し、また、経済のグローバル化により製造業は中国やインドなど発展途上の国々に分散していった。こうして先進国の工業分野で従事する労働者あるいは中間層、こうした新しい発展に取り残されていった。
ここで社会民主主義やリベラルの人々は、こうした所得の分配問題から資産の問題へと政策の転換ができず、より個人の自由や価値をめぐるテーマへと転換していった。個人の尊厳、ジェンダー問題、人々の多様性、地球環境問題、こうしたものは、現在ではリベラルな価値観とされ、トランプがリベラルエリート批判に利用した。しかもその成果は絶大であった。地域の荒廃や負債や生活に苦しむ人々にとって、これらのリベラル的な価値は過剰な要求と思えたのである。
そして福祉国家のコストは、高齢化や医療の発展により、ネオリベラルの下でも減らなかった。それは「国民負担率」として、税や社会保険料が批判の的となった。それは同時にメリットクラシーと呼ばれる福祉国家やリベラルなエリート層への反発となった。これが現在のヨーロッパにおける右翼と左翼のポピュリスト政党、アメリカのトランプ主義と共和党の変容の背景にある。
(著者注:以上の議論は、C.ピアソン『平等への戦略 ポスト・コロナ時代の福祉国家とイギリス政治』(堀江孝司・近藤康史・武田弘子訳、ミネルヴァ書房2025)に負っている。訳者に感謝したい。)
21世紀のリベラルはこの課題と真剣に立ち向かう必要がある。しかし、多くのリベラル派の人々は個人の能力主義の思想から脱却できず、教育機会の均等、業績に立った上での根拠のある所得格差など、むしろ新自由主義、市場主義、個人の能力主義を前提とした議論に終始していた。格差社会の拡大、社会的分断の拡大、こうした課題を社会の構造問題として再構成する必要がある。日本では、大学や教育機関のランク付け、あるいは大企業就職と中小企業のランク付け、そうした垂直的な格差構造をSNSによって拡散し、むしろ称賛されることすらある。日本のリベラルもリベラル政党もこの問題を避けて通ることはできない。ランキングされない多様性がキー概念となるだろう。
5.トランプ批判が日本と世界を結びつける:進歩連合への加盟
再度繰り返すと、現在、野党は与党に対して決定的な利点を持っている。それは国益を損なうことなしにトランプを公然と批判できることである。トランプのアメリカは経済力の衰退と共にソフトパワーも放棄し、現在は軍事力を全面に出し、各国に資源や地政学的な要求を突きつけている。トランプのアメリカは世界の鬼子になりつつある。しかし日本政府は、官僚も政治家もトランプに対しては無言どころか、すり寄っている。あるいは「国益」としてすり寄らざるを得ない。
日本の政党の弱点は、これまでも国際的な関係を持ってこなかったことである。超党派の議員連盟で、中国や韓国とつながりを保ってきたが、政党としてはないに等しかった。昨年の新聞報道によると、立憲民主党の3人の議員がドイツ社会民主党を訪問して、社会民主主義政党のグローバルな組織である進歩同盟(Progressive Alliance, PA)にオブザーバー参加を検討しているということである。この2月総選挙の惨敗と、中道という政党への合同により、この計画は停滞するだろうが、しかし新立憲民主党を発展させるなら、進歩同盟のオブザイバー参加は大きな助けになる。
進歩同盟は、2013年ドイツのライプツィヒで結成された。その前身は共産主義諸国に対して西側社会民主党を中心に結成された社会主義インターナショナルにある。しかし社会主義インターナショナルは、21世紀には新興国の独裁者も加盟するケースもあり、ドイツ社会民主党(当時の党首のジグマール・ガブリエルの役割が大きい)、スウェーデン社会民主労働党、イギリス労働党などを中心に新しい組織を作る事となった。かつての社会主義インターナショナル加盟の政党も数多く参加しており、現在では世界で143の政党が参加している。アメリカ民主党も民主党議員が個人的に、あるいは民主党系の知事が個人的にオブザーバー参加している。
現在では、オーストラリア労働党の党首で元財務大臣のウェイン・スワン、スウェーデン社民党党首で前首相のマグダレーナ・アンデルソン、ドイツ社民党党首で現財務大臣のラース・クリングバイルなどが幹部会を構成している。基本理念は、グローバルな平和、正義、ジェンダー平等をふくむ平等、持続可能性である。
本稿の冒頭で、中道が比例区で18、2%であったが、悲観することはないと書いた。下の表はEU諸国の社会民主主義政党の直近の選挙結果である。ここではかつての国民政党と呼ばれた時代の得票率はないが、連立政権への参加や最大野党として大きな役割を担っている。多党化時代には、こうしたことが普通である。
欧州社民政党選挙結果(2008〜2026)
| SPD | 2009 | 2013 | 2017 | 2021 | 2025 |
| ドイツ社民党 | 23.0 | 25.7 | 20.5 | 25.7 | 16.4 |
| PS-FNP | 2012 | 2017 | 2022 | 2024 | |
| フランス社会党系譜 | 29.4 | 7.4 | 25.7 | 28.0 | |
| Labour Party | 2015 | 2017 | 2019 | 2024 | |
| イギリス労働党 | 30.4 | 40.0 | 32.1 | 33.7 | |
| SAP | 2010 | 2014 | 2018 | 2022 | 2026 |
| スウェーデン社民党 | 30.7 | 31 | 28.3 | 30.3 | |
| PD(Italy) | 2008 | 2013 | 2018 | 2022 | |
| イタリア民主党 | 33.2 | 25.4 | 18.7 | 19.1 |
公明党と合同した「中道」では、この国際組織へのオブザーバー参加も不可能であろう。しかし、新立憲民主党であれば、可能であるだけではなくて、立憲民主党の存在意義を国内だけでなく、国際的にも位置付ける事が出来る。何度も強調するが、多党化とポピュリズムの時代には、政党の存在意義を明確にすることが大事であり、日本の人々の仕事と生活を守るためにトランプを批判することも、アメリカの民主党の幾人かと共同で行うなら、トランプの大きな反発を食らうことになるが、その覚悟を持って世界に主張すれば、大きな反響を得ることになるだろう。さらに進歩連合を通して、欧米だけではなく、韓国、東南アジア、アフリカ、南米諸国など多くの国の政党と接点を持つことができる。
リベラルや進歩連合との関係では、もう1つ重要なテーマがある。それは世界的な権威主義国家の増大に対抗することである。今世界地図を見れば、権威主義のもとにある国家が大きな領域を占めている事が分かる。そしてこの権威主義国家は、かつてのソ連時代の共産主義体制のもとの外の世界との隔離や、露骨な監視体制や抑圧ではなく、自由な消費社会と結びついている。スマートフォンやAIが、外見的にはソフトな管理社会を可能としている。しかし、内実は、かつてジョージ・オーウェルが「1984年」で描いた、テレビと言語統制による監視社会以上の、個人データの集積による行動への監視・管理となっている。香港のリンゴ日報の創業者、黎智英氏に対して禁固20年の判決が下されたように、こうした監視による個人データは、常に政府による個人を抑圧する装置として、人々の行動や意見を管理している。
この個人データの集積は、日本や欧米においてもGAFAMにより、スマートフォンやパソコンの日常的な使用によりそれぞれのクラウドに集められ、AIのデータとして商品化されている。こうした、主として米国の巨大情報企業に対して、EU議会が個人のプライバシー保護や依存性へのリスク、さらには国家の情報の自立性に関して、多くの議論を重ねている。リベラルであろうとする政党は、どの国であれこの国際的な議論を共有することが問われている。
6.人々の仕事と暮らしを守り発展させることが優先課題
人々の仕事と暮らし > 国益重視 > 日本ファースト > 日本人ファースト
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新立憲 公明 国民 自民 維新 参政
共産 れいわ みらい(?) 保守
リベラルの立場から見ると上図で示されるように、人々の仕事と暮らしが最も大事な政治が実現すべき目的といえる。日本では、リベラルVs.保守、あるいは革新Vs.保守という政党配置が存在しないので、あるいは歪められているので、この図はポピュリスト政党や地域政党が登場した時代の政党配置である。
公明党は、2005年総選挙での899万票から2024年の総選挙の596万票へ、社民党は同じく372万票から94万票へ、共産党は372万票から、2014年には606万票を例外的に獲得したとはいえ、2024年では336万票、今回の2026年選挙では252万票と、衰退の傾向は明確である。政党配置では、明らかにこの20年間で、革新派、中道派が衰退し、どちらかといえばナショナリズムを唱えるポピュリスト政党が輩出している。
参政党が代表例だが、日本人ファーストという言葉は大きな問題を抱えている。おそらくヨーロッパでもアメリカでも、自国ファーストと言っても、アメリカ人ファーストとかドイツ人ファーストとかの表現はしない。現在の世界ではいろんな思想が出ているが、人種主義のニュアンスを持つ言葉はさすがに避けられている。プーチンもロシア帝政の版図の復活とは言ってもロシア人ファーストとはいわない。また、中国も中華圏の拡大はあっても漢民族ファーストとはいわない。現在では、多民族が集まる「帝国」形態の国家はもちろん、国民国家自体が多様な人々を含む以上、人種主義的なニュアンスの言葉は使えないからである。
日本ファーストと国益重視というのは重なる部分が多い。したがって自民党と維新の会それに国民民主党は、この点で多くの共通点を持っている。しかし、地域政党の維新の会は、国政に対して責任が無いのでより地域的な都民ファーストなどで代替する(本来は大阪ファースト)。これに対して政権担当する自民党、そして国政政党として責任を自覚する国民民主党も、日本ファーストという言葉を避けた方がより国益が実現するというリアリティに立っている。
1つの例を挙げると、 1989年東西冷戦が終結し統一ドイツができると、多くの人々は強国ドイツの復活と言った。しかし、ドイツは「EUの中のドイツ」の方がより実質的なドイツの復活を実現できた。そのためにはマルクを捨てユーロとなったが、結果としてEUの広大な市場を獲得することになった。
しかし残念ながら、日本ではこうした意味でのグローバル時代の中での日本の国益を実現する方法はない。東南アジアやアセアン諸国との協力はもちろん、中国に対しても戦略的互恵関係を結び、また隣国の韓国とはギクシャクしながらも友好関係を実現してきた。東アジアにおいて、日本は台湾やいくつかの親日的な国を持っているが、何らかの共同的な関係はできていない。CPTPP(環太平洋パートナーシップ協定)は、トランプの多国間主義の否定や自由貿易ルールからの離脱に関しては有効な協定となるが、メキシコ、ベトナムなどパートナーシップに近い国もあれば、自由貿易協定に過ぎない国もある。さらに日本自体が、すでに260万人近くの外国人労働者を迎えながらも、外国人に対しても閉鎖的な体質を残している。
こうした状況のもとでは、国益の追求を基本政策と掲げるより、まず人々の仕事と生活を守り発展させるという国民の利益を掲げる方が、より人々の理解を得ることができる。国益はしばしば外交官や政治家の交渉過程で取引材料となり、人々の仕事や生活が軽視されることが多い。 90年代の対米交渉において、いかに人々の仕事や生活が国益の名の下に犠牲になってきたか、失われた30年が教えるところである。
7.日米安保を継続するなら憲法9条は不可欠
高市政権の誕生により日米安保と憲法9条の改正問題が政治課題になりつつある。 2015年の安倍政権のもとでのいわゆる安保法制により、他国への攻撃により日本の存立が脅かされる「存立危機事態」の場合には、自衛隊は必要最低限の武力行使ができることになり、しかも高市首相が昨年の国会答弁で、台湾有事の場合も、この「存立危機事態」になりうると答弁したため、中国からの熾烈な批判を浴びている。
沖縄の米軍海兵隊や横須賀・佐世保の第7艦隊基地などの存在、つまり日米安保なしではこうした事態はありえないので、集団的自衛権の1部を承認することも、結局は日米安保をめぐる問題ということになる。安保法制は日本では、憲法違反かどうかが主として論じられ、その後も、立憲民主党と玉木、国民民主との協力、さらには立憲民主党と公明党の合同に際しても、主要な論点となった。野田執行部は公明党の合憲論をのむことで決着がついたが、その後、多くの批判を浴びた。そもそも安保法制は憲法違反ということで2017年に枝野幸男を中心として立憲民主党が成立したからである。
いまはこの違憲・合憲問題には触れない。それよりも、高市「台湾有事の危機は存立危機事態」答弁のほうが、安保法制の枠組みを超えるので、いずれ明示的であれ、異なる形式であれ、撤回にいたるであろう。それよりも安保条約をめぐり、第2次トランプ政権が2025年12月5日に発表した、『国家安全保障戦略2025』(NSS2025)のほうが問題を多くはらんでいる。
この国家安全保障戦略は、アメリカが北米、南米という西半球を自らの勢力圏とする一種のモンロー主義の復活である。その帰結は、当面はウクライナ戦争に直面するNATO、ヨーロッパ諸国に表れている。ここではアメリカはNATOから脱退はしないが、よりヨーロッパ独自の防衛力の構築を要請し(事実上の強制)、アメリカの核抑止力の行使も、さらに曖昧になった。
アジア・インド洋に関しても、アメリカの軍事力の存在が自国の利益として記されており、台湾をめぐる紛争を阻止することが最優先課題とも述べている。しかしその内実は、紛争地域の軍事力のバランスを維持することであり、当事国の自助努力が要求されている。要するに米軍を支援するのに十分な軍事力を持ち、そのためにGDPの5%を支出しろということである。このことは日本にも、日米安保にも該当する。
このことが意味するものは何か。高市政権により、憲法改正の問題が浮上している。そこでは9条2項に、自衛隊を明記するか(自民案)、国防軍とするとか(維新の会)が報じられている。しかしトランプの要請は、米軍基地を維持しつつ、日本で独自の防衛能力を構築せよという、アメリカに都合のいい要求である。その帰結は、現在の安保法制を超えて、日米安保を本格的な集団的自衛権にする道を開くことになる。
おそらく自民党も維新の会も、そうした議論はしていないだろうし、覚悟もない。そもそもそれは違憲か否かではなく、1945年の日本の敗戦と、9条の下での戦後80年の平和国家を否定することになる。
このトランプの要求に対して最良の解は、現在の安保法制の枠組みを超えない範囲で、憲法9条と第2項を維持することである。つまり改憲しないことが最大の国益となる。他国の内政に干渉してきたトランプも、さすがに日本に憲法改正の要求をすることはできない。昨年、韓国の国防大臣は、米韓協定は北朝鮮に向けられているものであり中国に向けられているものではないと発言した。日本の安全保障も基本は日本と日本に住む人々の安全のためであり、それ以外ではありえない。9条2項が存在してこそ、日本も有効な「必要最小限の防衛力」の枠組みを、日本の戦略に立って構築できる。安保条約と憲法9条2項の共存こそ、日本の安全保障の最良の保険となる。
すみざわ・ひろき
1948年生まれ。京都大学法学部卒業後、フランクフルト大学で博士号取得。日本女子大学教授を経て名誉教授。本誌代表編集委員、(社)生活経済政策研究所監事。専攻は社会民主主義論、地域政党論、生活公共論。主な著作に『グローバル化と政治のイノベーション』(編著、ミネルヴァ書房、2003)、『脱成長の地域再生』(共著 NTT出版、2010年)、『組合―その力を地域社会の資源へ』(編著、イマジン出版2013年)など。
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