コラム/関西発

大阪人権博物館の存続がかかる裁判闘争

解放新聞社編集部 熊谷 愛

大阪市の提訴を受けて立つリバティおおさか

大阪人権博物館(リバティおおさか。以下、リバティ)が大阪市に提訴されて1年3ヵ月になろうとしている。大阪市は、市有地である敷地の明け渡し、2015年4月以降の土地賃貸料に相当する損害金として月約250万円と裁判費用の支払いを求め、昨年7月23日、大阪地裁に提訴したのであるが、全国的にはどの程度知られているのであろうか。地元大阪でも大手マスコミが報道したのは、大阪市による提訴と、よくて「リバティおおさか裁判を支援する会」(以下、「支援する会」)の設立集会ぐらいではないか。

日本で唯一の人権に関する総合博物館として1985年12月、大阪市浪速区にある被差別部落の旧栄小学校の土地に校舎の一部を残すかたちで開館したリバティおおさか。当初は大阪府・大阪市はじめ大阪府内43市町村、企業、運動団体の出資により、財団法人大阪人権歴史資料館として設立され、開館10周年の1995年12月には展示内容を充実させ、財団法人大阪人権博物館としてリニューアルオープンした。開館当初から、大阪府・市の補助金と市有地の土地賃貸料の全額減免措置を受けて運営されてきた。長年、小中学生は入館無料だったこともあり学校からの見学はもちろん、行政などの研修にも使われてきた。2011年には、橋下徹大阪府知事(当時)の意向に沿って展示内容をリニューアル、2012年には公益認定を受けて公益財団法人大阪人権博物館となり、2015年には入館者数が150万人を超えている。

ところが、「市政改革」を標榜し知事の任期途中で大阪市政に転じた橋下市長は2012年度、リバティの廃止を検討中と宣言し、年度途中から予算の2割削減に踏み切った。のみならず2013年度、大阪府・市はついに補助金を全廃する。以後、リバティおおさかは事業費・管理費、さらに人件費を大幅に削減、運営費全体を半分以下に圧縮し、自主財源による自主運営の努力を重ねてきた。そのさなかの提訴だった。

リバティおおさか裁判支援集会が開かれる

第5回口頭弁論と報告集会(7月29日)から10月21日の第6回口頭弁論まで、しばらく間があくこともあり、リバティホールを会場に8月27日、「全国初の人権博物館を守ろう」と銘打って「支援する会」主催の「リバティおおさか裁判支援集会」が開かれ、部落解放同盟大阪府連合会各支部や支援者ら250人が参加した。

「支援集会」のオープニングに登場したのは、大阪府内の部落の太鼓集団6団体からなる和太鼓ユニット「絆」。昨年7月の英国公演でも大成功をおさめた、心に響くすばらしい演奏を披露して、会場を盛り上げた。

主催者代表あいさつで浅居明彦さん(「支援する会」事務局長)は、「演奏した「絆」の一員である浪速の太鼓集団「怒」はリバティで練習しており、練習場所を奪われるかもしれない。リバティの敷地は、教育のためにと部落の人が大阪市に提供して建てられた栄小学校の第3期の土地。私も栄小学校の卒業生だが、大阪市側は土地の来歴は関係ないといっている。リバティの必要性を全国に訴えていく。8月19日付けの毎日新聞全国版に取り上げられたのは大きい。日本の人権意識を高めるためにリバティが必要なのだと、帰って周囲に伝えてほしい」と訴えた。

裁判経過について普門大輔さん(弁護団)が、「リバティは被告となったこの裁判で、建物を収去、取り壊して土地を明け渡せ、それまで賃料相当損害金を毎月250万円支払えと求められている。第3回口頭弁論で大阪市側がリバティには公益性がないと主張してきたが、リバティは大阪市の人権施策のひとつの典型として位置づけられてきたと反論している」と報告した。

リバティからは石橋武さん(公益財団法人大阪人権博物館理事長)が、「大阪市長は新自由主義にもとづきリバティには公益性がない、と補助金を打ち切った。ピースおおさかの展示リニューアルに表れているように戦争責任を総括しないし、それは人権に目を向けないことにも繋がっている。平和を守り人権を守るため、こちらが原告だという思いで裁判に臨んでいる。これまでどおりリバティの運営を続けるが、持続可能な財源確保は大変厳しい。より意識的に被差別当事者とともに展示を追求し、全国のみなさんに支えられるリバティにしていきたい」と述べた。

青木理さん(フリージャーナリスト)、赤井隆史さん(大阪人権博物館専務理事、部落解放同盟大阪府連執行委員長)、丹羽雅雄さん(弁護団長)が出席して、特別トークセッションがおこなわれた。青木さんは「都知事選では20代の10%が桜井誠・元在特会会長に投票し、20代では3位だったともいわれる。人権・自由・寛容といった価値が、僕より下の世代に伝わっていない。人権を旗印にしている団体の求心力が低下している。なぜ人権運動が弱体化しているのか、一人ひとり考えてもらえれば。人権団体も労働組合も個をもっと大切にしてほしい。そうして中間団体が厚く緩やかに連帯していくことが大切。メディアの役割は少数者・弱者の側に立って多数者を批判すること。基本精神を立て直す必要を感じる」と語った。丹羽さんは「戦争への深い反省から、戦後、人間の尊厳の尊重が基本となった。基本的人権を守るために国家はあり、権力を縛るために立憲主義がある。人権の本質は差別に抗うこと。その否定がこの裁判に表れている。それに対し、部落解放同盟、労働組合などの中間団体を再構築し、被差別マイノリティの連帯をどれだけ深く広げていけるかだ」と述べ、赤井さんは「裁判に負けて、廃館にして更地にするよう迫られることも考えうる。この建物がよそに移転してリバティといえるのか。年間5000万円かかるリバティを存続させるのなら、どこに、どのような形でなのか。社会的コンセンサスを得て、他団体も入る複合施設化まで構想するのか。みなさんと知恵を出し合い、全国にも呼びかけていきたい。裁判ともども不退転の決意でとりくんでいく」と締め括った。

リバティおおさか裁判を軸に人権を求める連帯を

大阪地裁大法廷で10月21日、リバティおおさか裁判の第6回口頭弁論が行われた。次回、第7回口頭弁論は来年1月20日の午前10時、同じく大法廷で行われる。傍聴席は抽選となるため、「支援する会」は9時半に正面玄関前への集合を呼びかけている。裁判等の最新情報は「支援する会」のFacebook(https://www.facebook.com/support.libertyosaka/)、あわせて、リバティの展示やイベント情報(http://www.liberty.or.jp/index.php)をチェックして、ぜひ傍聴にも参加いただくとともに、リバティにも足を運んでいただきたい。11月26日まで、ハンセン病市民学会との主催で企画展「人間回復への道―ハンセン病問題は問いかける」を開催している。

リバティの裁判は、決して大阪だけの問題ではない。実際、名古屋や静岡からも傍聴に駆けつけてくれる同志がいる。橋下市長が大阪市を破壊するだけ破壊して無責任に去ってしまった後も、安倍独裁政権はこの国の憲法を破壊し、私たちから人権を奪おうと手段を選ばぬ暴政を強めている。「公益性」や[政治的中立」を盾に、差別・人権抑圧に抗い、平和と人権を求める自由な言論を封じようという傾向は、全国の自治体に広がっている。大阪市に「成功」させて、悪しき先例をつくらせてはならない。その意味でも、大手マスコミはリバティ裁判にもっと注目してほしいし、この裁判を軸に市民が、全国に広がろうとする危険な動向を互いに共有し合い、連帯を広げていければと切に願っている。

くまがい・ちか

1966年、大阪生まれ、大阪府内在住。2015年6月まで部落解放・人権研究所に勤務し、単行本・紀要・月刊誌等の編集、販売等の業務を経験する。2015年6月から現職。

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