編集委員会から

編集後記(第25号・2021年冬号)

―――諸悪の根源、新自由主義を撃て! 我われも問われる

▶まさにコロナ禍、日本―世界―人類はどこへ行くのか、その大層な命題が多くの人々に共有される。明日はわが身、あの黒死病―ペストの時代はどうであったのだろうか、と思う昨今である。本号特集テーマは「新自由主義からの訣別を」とした。コロナが炙り出したのか「新自由主義を問う」論調が世界で激増しているようだ。本号の多くの筆者の論稿も、ほとんどコロナ禍の社会・人間はどうあるべきか、を念頭に論じるものであった。同時にやはり新自由主義を問わねばならない、新自由主義からの転換を果たさねばならない、と思いを共有されていることを実感する。今後も引き続き課題として追求して行きたい。

▶いうまでもなく新自由主義は、戦前・戦後を通じ長く主導的理論であったケインズ主義に対抗するものとして1970年代に登場する。その政治世界への浸透がイギリスのサッチャー政権(1979~90年)、アメリカのレーガン政権(1981~89年)であった。もう40年の年月が経ち、全世界を席巻、覆い尽くしてきた。日本では、92年の中曽根政権以降、橋本内閣を経て2000年初頭の小泉政権で全面開花。その小泉路線のブレーンが大臣も担当し、安倍内閣を経て、今の菅政権でもブレーン的存在である竹中平蔵だ。彼は政界を泳ぎ、今や政商ならざる“学商”と揶揄されている。自らの提言する政策を国家政策とし、自らが経営者を務める企業へ利益誘導を図る。また住民税を逃れるためアメリカの住民票を取得したのか、と国会で追及されるような御仁だ。

▶極限まで拡大した世界の富の偏在。「世界でわずか62人の資産総和と世界の下位36億人の資産総和」が同じと、「深層」で西村秀樹さんが指摘する。アメリカでは上位1%が持つ資産が、下位90%が持つ全資産よりも多いという。この極端な二極分化は新自由主義の行き着く果てであろう。巻頭の山家悠紀夫さんはじめ多彩な論稿を熟読頂きたい。その山家さんは、英米や日本の新自由主義の政治・経済政策の流れを丹念に論じ、それは何をもたらしたのかを説く。そして、「新自由主義を終わらせる――政府がやめないなら、人々の力でやめさせる、やめる政府を創りだそう」と訴える。私たちの課題、もうこの一言に尽きる。我われ自身の思考・行動も問われている。心して、それぞれの場所で奮闘しよう。

 日本では新立憲民主党が、新自由主義批判の立場をとるが、野党勢力の弱さも深刻。連載の「キーマンに聞く」は立憲の次代を担う逢坂誠二さん。「分権・生活保障と効果的なコロナ対策」を、北海道・ニセコ町長で地方の再生と改革の先頭を切った貴重な体験を踏まえ語る。本誌に初登場願った本田宏さんは、「政治改革は二大政党制より政党の二大ブロック制が有効」と、野党ブロックの正当性を論じ、現在の政党政治に一石を投じる注目すべき提起。そして橘川さんは、コロナが問う社会と人間のあり姿を連続して論じているが、今回は「愚かさの複雑性についての考察―コロナ禍一年、人間はどこまで賢くなったか」

▶そしてアメリカ。トランプによる大統領によるクーデターもどきの喧騒も少しは収まったが、アメリカよ、どこへ行くのかであった。それにしてもトランプは稀代のデマゴーグである。“嘘も100回言えば真実になる”の典型的ペテン師であろう。それに乗ったのか乗せられたのか、木村太郎を先頭とする日本のトランプ派。彼など開票当日、テレビで万歳しかけていたようだが、期日前票や郵便投票が加味され奈落の底へ。トランプのように選挙に不正があったと言いたいのかもしれないが、さすがそこまでは。それにしても、例の“陰謀論”を支持し日本で喧伝している連中が多いのも新現象だ。ネット社会の弊害極まりの感。毎号、大統領選を執筆いただいている金子敦郎さん、今回は「混沌の共和党-トランプ派対主流派」。局面、局面での慧眼に感謝。デジタル雑誌の強みは、バックナンバーがいつでも、自由に読めること。お時間ある時に是非どうぞ。さてバイデン、就任早々、大統領令を多発し脱トランプを図る。二極分岐の国民を少しでも統合できるかが問われている、が果たしてどうか。

▶新自由主義は、労働の場でも吹き荒れてきた。労働のあり方の変容である。その嚆矢は、労働者派遣法とその適用の拡大ではなかったか。今や役所にいっても多くの職員は派遣の非正規職員だ。その派遣元のパソナとかいうピンはね会社の会長が、先の竹中平蔵“先生”だ。行政の効率化などと称して正規人員の削減⇒非正規化⇒派遣元はピンハネで儲ける。そもそも職業紹介は、悪徳な派遣・ピンハネ業者を許さないために公共職業安定所が設置された。今や非正規労働者の激増、更には労働者ではない請負契約の“個人事業者”がこれまた激増で深刻。

 働き方自由の美名の下に非正規雇用や“労働者ならざる、保護なき請負一人経営者”。“雇用責任を問われない、必要な時に簡単に首を切れる”、これが今も昔も資本家・経営者の見果てぬ夢なのだ(勿論、わが身を削っても雇用している労働者のために奮闘している中小の経営者も多くいる)。コロナ禍、テレワークや副業の自由、週休三日制など美化して語られているが、もう一つ“雇用に責任を持たない、首切りの自由”が付いていることを知るべきだ。労働者保護の諸法も適用されない、社会保険や福祉の企業負担も無くなる(ケガと弁当は手前持ちの戦前社会だ)。これは誇張ではない。こんなことでは、結婚し、子供をつくり、育て、社会に送り出すという社会の再生産が成り立たない。少子化克服などそれこそ見果てぬ夢なのだ。

▶さて、読者のみなさんに追加発信のご案内です。本25号発信後の2月18~20日の間で二本の論稿を追加発信いたします。現在筆者との最終調整中です。2019年に成立したアイヌ施策推進法によって国有林にアイヌの共有林が設定される道が開かれました。「アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される」ためにこの共有林の設定がどのようになされるか、注視していく必要があり、今後の施策がどのような方向に向かうのか重要な岐路を迎えています。現在、アイヌ民族の権利に十分な配慮が行き届いているとはいえない状態のなかで、祭祀のための鮭漁をめぐる裁判(現状では鮭漁には知事の許可が必要とされる)も起こされています。どのような視点からこの問題を考えていくべきか、を二人の筆者に論じていただきます。

・「森林認証制度の概要とアイヌ民族」(上村英明・恵泉女学園大学教授)

・「アイヌ共用林は『アイヌの森』復権の決め手となるか」(齋藤暖生・東京大学農学生命科学研究科附属演習林講師)。ご期待下さい。(矢代俊三)

季刊『現代の理論』[vol.25]2021年冬号
   (デジタル25号―通刊55号<第3次『現代の理論』2004年10月創刊>)

2021年2月10日(水)発行

編集人/代表編集委員 住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会

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