編集委員会から

編集後記(第46号・2026年秋号)

――”ウソ・デマ”が勝ってしまう時代を我々はまた繰り返すのだろうか?

▶別掲の「追悼」の通り、本誌の編集実務をほとんど担当していた矢代俊三さんが6月に急逝した。その後の段取りに手間取り、今号の発信・公開が大幅に遅れるところとなってしまい、読者・関係者の皆様にご迷惑をおかけしてしまった。お詫び申し上げるとともに、ようやく発信できたので、改めて矢代さんの冥福を祈りたい。

▶その矢代さんが生きていたら、きっと「この世の中、どうなっとんや」「何とかならんのか」と繰り返していたことだろう。本当に日本の政治も経済も、基本となる民主主義も、メディアもひどいことになっている。世界も同じようなことになっており、頭を抱えるばかりであるが、今号では、枝野さん、金子勝さん、阿部さんなどが、それを正面から論じ、打開する方向を示している。わかりやすいので熟読していただきたい。

▶仁田道夫さん(東京大学名誉教授)から『労使関係からみる戦後という時代』(日本評論社)を贈られ、600ページにのぼる大著だが、ともかく読了した。私事を述べれば、仁田さんは学生時代からの友人で、ともに東京・山谷でセツルメント活動をしていたことがある。その仁田さんは、中央労働委員会の公益委員(会長代理)を長く務め、また中央最低賃金審議会の委員・会長として、最低賃金の大幅引き上げの先鞭をつけた。つまり労使関係の実務に極めて明るく、その面の第一人者である。今後本誌にも登場してもらいたいと思っている。

▶その『労使関係からみる戦後という時代』は、戦後直後の労働組合運動は戦前の運動をそれなりに基礎として展開されたこと、さらにはGHQや共産党が運動に大きな影響を与えたことなどが、詳しい具体的な記録・事実に基づいて論じられている。とりわけ労働委員会の実務を担った人々の覚悟と努力が明快に書かれていて、私自身の経験と重ねても、当時の労働委員会が大きな存在感を示していたことがよく分かった。

▶一番大きなことは、少なくとも戦後直後から1960年代、1970年代半ばまでは、労働組合はもとより、関係者(使用者、学者、役人など)がそれぞれの見識を持って議論を戦わせ、それなりの「妥協」を生み出していたことの重要さだろう。労働組合が世の中を動かす一定の力を持ち、政治・民主主義を支える役割を果たしていたのだろうと思われる。現在労働組合と言えば、「芳野連合会長」が代表しているかのように報じられるだけで、人々の期待に応える力を失っていると言ってよいだろう。

▶個人的関心から労働組合のことだけを述べたが、社会のすべての人々の意見をどのように引き出す社会をつくれるか、本誌でも改めて考えたいと思う。(大野 隆)

 

▶昨今の世界―日本を表すには“混沌たる世界”しか思い浮かばない。”ウソ・デマ”が「まかり通る」を超えて勝者となってしまうことも多く、SNS上では扇情的な物言いのほうが”バズる=金になる”ため、いくらファクトを対置しても量と速度で圧倒され、無力感に苛まれる場面が少なくない。しかし歴史を振り返れば、そんな殺伐とした時代もいつかは終わりを告げるはずだと信じ、富を少しづつ削られている大多数の一般国民が、各人で状況を変える思考と行動を身につけるしか無いのではないだろうか。

▶矢代さんの通夜の席上で係の人から故人との関わりを問われ、列席者中で一番長い半世紀を越える付き合いに思いを致した。小生が労働組合を年齢のため卒業した後しばらく途絶えていた付き合いが復活したのは、デジタル発行になった『現代の理論』の手伝いをたのむ、という”依頼”?の一言からであった。長い編集者人生で身につけた「紙面」の常識と「画面」とのギャップには随分と困らされた。しかし、これも今にして思えば、ネット上で溢れかえる”ウソ・デマ”に何とか対抗し一矢を報いたいという熱意の現れであったのかと改めて気付かされる。その遺志をついで、本誌に執筆いただいている幅広い方々の数々の”当たり前”の論考を今後ともお届けできるよう、読者の皆様の末永いご愛読をお願いいたします。(北川 徹)

季刊『現代の理論』 [vol.46]2026年秋号
  (デジタル46号―通刊75号<第3次『現代の理論』2004年10月創刊>)

2026年10月20日(火)発行

 

編集人/代表編集委員  住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会

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