コラム/ある視角

「女性活躍推進法案」??

「人も生きもの」、支え合いつつ稼がねば

前こども教育宝仙大学学長 池田 祥子

「女性活躍推進」という名前自体が奇妙である。揚げ足を取るわけではないが、これでは、いま現在、女性たちは「活躍」していない、というわけになる。それならば、男性は「活躍」しているのか?・・・こういう話になると、一体、どういう分野での、どのような内容が「活躍している」という評価になるのか、が問われることになるのだろう。  日々、老親のための介護に勤しんでいる女性たち、家庭での子育てにほとんどの時間を費やしている女性たち、あるいは、職場で夜遅くまで働く就労女性たち、仕事と家庭のやりくりを、ほとんど一人で担っている女性たち、・・・そんな多くの頑張っている女性たちに、「まだまだ頑張れ、活躍しろ!」というのだったら、本当に失礼な話である。それはまた、男性に対しても同じことではあるが。

それはさておき、もう少し、この法案に律儀に付き合ってみようか。

国内の地域の声(福島や沖縄など)や、地道に働く生活者の声などよりは、国際的な評価に敏感に反応するように見える安倍内閣は、例えば、世界経済フォーラム(WEF、本部・ジュネーブ)が発表する「男女平等(ジェンダーギャップ)ランキング」での順位は、繕いようもなく「恥ずかしい」と思ったのだろう。日本は、世界142カ国中、昨年は105位、今年はひとつ順位を上げたものの104位。主要7カ国(G7)の最下位である。(6位のイタリアとすら30位くらい差が開いている)。

さらに、分野別にみると、「職場への進出」102位、「政治への参加」が129位。後者の「政治への参加」のさらに要素別の「議会における女性比率」は、今年度は137カ国中126位。世界の主要20カ国で最低となっている。しかも、報告書は、「日本は、上場企業の取締役に占める女性の比率が(調査対象国のなかで)最低」とまで指摘している(2014.10.28朝日新聞)。

ここまであからさまに世界でも最低に近いランキングが公表されると、さすがの安倍内閣も「日本の独自性」「日本の大和撫子の縁の下の力持ち」などと、開き直ることはできなくなったのかもしれない。また、低迷する経済を持ち直すためにも、高齢化・少子化が進むゆえに、「有能な女性」に焦点を合わせざるをえなくなり、彼女らの積極的な活用・登用が現実的にも必要とされてきたのであろう。

だからなのか、安倍政権は、「2020年までに女性管理職を3割に」という目標を掲げ、数値目標の義務化を強く要請していた。2020年とは、東京オリンピック開催年である。「男女平等」をひたすら表看板のみ塗り替えて、世界にお披露目しようというのだろうか。

しかし、一律の数値目標の義務化に対しては、企業側の抵抗も強く、結局は、300人以上の大企業に対して、それぞれの企業ごとに数値目標を盛り込んだ行動計画づくりを義務づけることに収まった。とはいえ、ここでも罰則はなし、である。また、300人以下の中小企業に対しては、行動計画づくりの法的な義務づけはなく、努力義務にとどめるという。

5人の女性大臣登用という派手な人材配置がたちまちに萎んでしまったように、この「女性活躍推進法案」も、結局は形ばかりの法案になりかねないと、多くの人が懸念していたところである。

そこへ、嘘か真か、突然の衆議院の解散である。得手勝手な、しかも税金の無駄遣いを承知の解散(700億かかるとか)。憲法第7条3号の思弁的な解釈の下、解散を、事実上内閣総理大臣の専権事項に既成事実化してしまった戦後の政治の責任は大きい。

おかげで、この「女性活躍推進法案」も今後の行方は見えない。また、一からの仕切り直しになるのだろうか。私自身は、この法案自体を滑稽とは思うものの、それを大上段に打ち出した安倍内閣としては、この顛末はあまりにも無責任なのではないか。

と同時に、日本の「男女平等」の根本問題は、非人間的ともいえる長時間労働、正規と非正規の労働条件の著しい格差と差別、であるということは、もはや誰もが知っている。しかも、男であれ女であれ、人間としての基本的な生活や暮らしの場を蔑ろにし、しかもその領域を、家族つまりは女に担わせ、家庭を支える社会的福祉経費を最小に抑えてきた日本の根強い性別役割分業体制、これをどのように本気で作り変えていくのか、これまたあまりにも明らかな緊急課題なのである。

にもかかわらず、内閣府が1992年以来、毎年行っている世論調査の一項に、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」という考えを示し、それに賛成か反対を問うている。マスコミなどでは、2012年は、「賛成」が51.6%であったが、今回は「賛成」44.6%、「反対」49.4%だと、一喜一憂の報道をしている。いずれにしても、現在の制度や仕組みが変わらない限り、性別役割は簡単には変わらない。それよりも、この世論調査が、旧態依然の家族のありようを、当たり前のようにモデル化していること、しかも、そのことを、内閣府自体が疑問にも思っていないということなのである。

いけだ・さちこ

1943年、北九州小倉生まれ。前こども教育宝仙大学学長。本誌編集委員。主要なテーマは保育・教育制度論、家族論。著書『〈女〉〈母〉それぞれの神話』(明石書店)、共著『働く/働かない/フェミニズム』(小倉利丸・大橋由香子編、青弓社)、編著『「生理」――性差を考える』(ロゴス社)、歌集『三匹の羊』(稲妻社)など。

コラム

第3号 記事一覧

ページの
トップへ