コラム/経済先読み

AI革命と労働組合

「AI三原則」と「非正規ユニオンショップ」

グローバル産業雇用総合研究所所長 小林 良暢

私はこの夏から、これまで1年半ばかり追い続けてきた「同一労働同一賃金」と「働き方改革」から「AI革命と雇用・労働」の方に調査研究テーマをシフトした。そしたら、講演会や研究会、セミナーに呼ばれ、この年末までオーバーペースぎみである。私の話は、AI革命で「会社が変わる」・「仕事か変わる」、そして「働き方の未来」の三大噺で、その中でとくに強調した「AI革命が雇用に及ぼす影響と労働組合の取組み」について、参加者と質疑応答をする中で、二つの貴重な示唆を頂いた。

ひとつは、AI革命への労働組合の取組みは、ドイツのIGメタルに比べて連合は遅れていることである。ドイツでは政官財一体のIoT推進団体「プラットフォーム・インダストリー4.0」に労働組合が参画して、自らか策定した「労働4.0」を政策協議の場に持ち込み、政府及び経済界に実現を求めて行動している。

その「労働4.0」の政策は、私流に要約すると以下の3点である。

①エンプロイアビリティー(就業能力)の向上による「良質な雇用」の確保

②継続的職業訓練を実施する機関を連邦政府に設置

③職業訓練期間中の生活維持のために、失業保険から労働のための保険へ

これに対して、我が日本はというと、政府には政官財一体の政策プラットフォームは未だなく、また労働組合の方も、連合の取組みはIGメタルに比べると著しく弱い。この点について、生産性本部の北浦正行さんから、「1980年代のMEの時に電機労連が「ME化三原則」を掲げたように、労働組合が分りやすい政策を打ち出す必要がある」とのご意見を頂いた。

電機労連は1982年7月の定期大会で「マイクロエレクトロニクス革命に対する我々の政策」(「ME三原則」)を決定し、これが我が国のME化の流れをリードした。

電機労連「三原則」とは、

①MEの導入には事前協議を徹し、労働組合との協議が整わないものは認めない。

②導入に当っては人員整理など雇用への直接的影響がある場合はこれを認めない。

③労働安全面について配慮し、定期的に労働組合がチェックする。加えて配転・職種転換と教育・訓練を充実する

その二年後の84年4月、政府が雇用問題政策会議(有沢広巳座長)の場で「ME化五原則」を定めたが、「電機三原則」の基本的な枠組みの上に「政労使間の意思疎通」と「国際経済社会への寄与」を追加したものである。

今度のドイツの「労働4.0」と35年前の「ME化五原則」を読み比べると、労働者の雇用の確保、職業訓練・教育訓練など、日本が既に35年前に言っていたことと同じである。連合と産業別労働組合は、「AI三原則」でも「五原則」でもいいから、早急にシンプルで分りやすい政策をつくり、全労働者にアッピールすることだ。

いまひとつは、東大の水町勇一郎先生がメーンスピーカーを務める経営民主化ネットワークの「日本の働き方を問うシンポジウム」にパネラーとして呼ばれ、一つ質問させていただいた。 それは、「同一労働同一賃金」が三法律改正とガイドライの制定で進められ、それに基づいて個別企業の労使協議の場で「均等な賃金」を決められることに大賛成であるが、ひとつパートタイマーや有期契約社員、派遣・請負労働者という当事者のVOICEを、この協議の場にどのように反映・参画させるのかという課題だ。

言うまでもなく、パートタイマーや有期契約社員は直接雇用であり、派遣・請負の場合は雇用主と使用者が異なる。「働き方改革実行計画」では派遣・請負労働者について派遣先企業に対し、派遣労働者と同種の業務内容の正規労働者の待遇・賃金の情報を派遣元へ提供するよう義務付けている。ところが、派遣労働者は派遣先の工場やオフィスの都合や本人の意思で派遣契約を終了して、新しい派遣先に変わるが、そこが下請けの工場だったりすると、正社員の賃金との均等にしても、時給が下がってしまうことがよくある。かかる派遣先が変わることによる賃金のダウンを防ぐため、「実行計画」では「同種業務との同一賃金」・「キャリア評価」・「賃金以外の待遇」の三要件を満たす労使協定の締結によって、均等・均衡待遇を進めることにしている。

こうした点を踏まえて、水町先生はパートや契約社員、派遣労働者をユニオンショップ協定で労働者を労働組合に取り込んでゆくことによって、そのVOICEの反映や労使協議への参画への道を繋げる必要があると指摘され、私は示唆を受けた。

ユニオンショップ協定は、かってクローズショップによる「逆ユニオン」など、ブラックなイメ―ジが広がり、労働界では語られることが少なくなったが、いまAI革命の中でフリーランスやクラウドワーカー、パラレル(副業・兼業)正社員など、企業フリーな働き方が急増しており、労働組合としてユニオンショップを本来の趣旨にそって活用し、組織率復活の武器にしていく時だろう。

以上、AI革命への対応で、ドイツに比べて著しい遅れをとっている連合が、起死回生を図るには、「AI三原則」と「非正規ユニオンショップ」というシンプルで分りやすい旗を揚げる時である。

こばやし・よしのぶ

1939年生まれ。法政大学経済学部・同大学院修了。1979年電機労連に入る。中央執行委員政策企画部長、連合総研主幹研究員、現代総研を経て、電機総研事務局長で退職。グローバル産業雇用総合研究所を設立。労働市場改革専門調査会委員、働き方改革の有識者ヒヤリングなどに参画。著書に『なぜ雇用格差はなくならないか』(日本経済新聞社)の他、共著に『IT時代の雇用システム』(日本評論社)、『21世紀グランドデザイン』(NTT出版)、『グローバル化のなかの企業文化』中央大学出版部)など多数。

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